“人的資本開示の義務化”によって企業に求められる姿勢は? 「情報開示自体が目的化している」との懸念も

株式会社メンタルヘルステクノロジーズは2023年2月1日、「人的資本経営の本質に関する実態調査」の結果を発表した。調査期間は2023年1月6日~7日で、人的資本経営に取り組む企業の経営者、IR担当者、人事担当者の計110名から回答を得た。調査から、人的資本経営の目的や、効果が得られると感じる内容などが明らかとなった。

人的資本経営の目的は「生産性の向上」が最多に

2023年3月期から、上場企業と一部非上場企業の約4,000社を対象に人的情報開示が義務化される。人的資本経営に対する関心が社会的にも高まる中、企業の経営層は「人的資本経営の目的」をどのように捉えているのだろうか。メンタルヘルステクノロジーズはまず、「勤務先の企業における人的資本経営の目的」を尋ねた。すると、「生産性の向上」が48.2%で最多だった。以下、「自社のイメージアップ」が46.4%、「従業員のエンゲージメント向上」が38.2%と続いた。
“人的資本開示の義務化”によって企業に求められる姿勢は? 「情報開示自体が目的化している」との懸念も

投資家から注目を集めていると思う理由は「SDGsやESG経営への注目度が高い」など

次に同社は、「人的資本経営は、投資家からの注目が高まっていると思うか」と尋ねた。すると、「非常にそう思う」および「そう思う」との回答が9割を占めたという。

これを受け、上記の「非常にそう思う」もしくは「そう思う」とした人に対し、「注目度を高めていると思う理由」を同社が尋ねると、「SDGsやESG経営への注目度が高いから」が59.6%で最多だった。以下、「無形資産の価値が高まっているから」(47.5%)、「市場競争が激化し、他社との差別化が難しくなっているから」(41.4%)と続いた。SDGsやESGの観点などで、投資家からの関心の高さを実感している経営層が多いようだ。
“人的資本開示の義務化”によって企業に求められる姿勢は? 「情報開示自体が目的化している」との懸念も

「『情報開示』のための人的資本経営になっている」との懸念も

一方で、「人的資本に関して『情報開示』自体が目的になっていると感じるか」について同社が尋ねると、「非常にそう思う」および「そう思う」との回答の合計が約8割を占めたという。

さらに同社が、「非常にそう思う」もしくは「そう思う」とした人に「その理由」を尋ねると、「自社の人的資本経営の目標や目的が曖昧だから」と、「今後人的資本情報開示が義務化されるから」との回答がともに44.8%で最多となった。そのほか、「業界全体として開示を行う企業が多いという理由で始めたから」(42.5%)、「国際的な動向に対応するため」(37.9%)が上位になった。関心の高さや義務化への対応のため、「情報開示」自体が目的となり、本質的な目的とのズレが懸念される結果となった。
“人的資本開示の義務化”によって企業に求められる姿勢は? 「情報開示自体が目的化している」との懸念も

8割以上が人的資本経営の取り組みで「生産性や企業価値の向上につながる」と回答

最後に同社は、「人的資本経営の実現に向けた働きやすい組織作りは、生産性の向上や企業価値向上につながると思うか」と尋ねた。すると、「非常にそう思う」(41.9%)および「そう思う」(43.6%)との回答が計85.5%と、8割以上を占めた。
“人的資本開示の義務化”によって企業に求められる姿勢は? 「情報開示自体が目的化している」との懸念も
人的資本経営に取り組むことで、生産性向上や企業価値向上につながると実感している経営層は8割以上いたことから、改めて「人的資本経営」への関心の高さがうかがえる。一方で、「情報開示」自体が目的となってしまっていると感じている経営層が8割近くを占めていた。人的資本経営に取り組む企業は、自社の社員が働きやすく、かつ働きがいを感じられるような環境整備ができるよう、本質に立ち返りながら施策を進めたい。