2021年の「人手不足倒産」は4年ぶりの低水準も、2022年以降は“コロナ禍前”の水準まで高まる可能性が

株式会社帝国データバンク(以下、TDB)は2022年1月26日、2021年に発生した人手不足による倒産(以下、人手不足倒産)の件数を、集計・分析した結果を発表した。これにより、2021年における人手不足倒産の状況や、新型コロナウイルス感染症との共存が進むと見られる今後の予測などが明らかとなった。

2021年の人手不足倒産は「104件」。4年ぶりの低水準に

従業員の退職や採用難などによる労働力不足により、事業継続困難となる「人手不足倒産」は、2021年においてどの程度発生したのだろうか。

まずTDBが2021年における「人手不足倒産件数」を集計すると「104件」となり、最多を記録した2019年の「185件」から2年連続で減少する結果となった。2017年の「106件」を下回り、4年ぶりの低水準となったことがわかった。

同社は、「景況感が上向く中で、2019年末まで企業の人手不足感は慢性的な高水準で推移しており、企業の約半数が人手不足感を抱える状況だった」と指摘している。実際に同社が実施した調査では、2020年における景気の懸念材料において「人手不足」が筆頭となるなど、企業経営の深刻な課題のひとつとしてあげられていたという。

続けて、「新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年初頭から、外出自粛や休業などの影響を受けて経済活動の制限が続いたことで業務量が縮小し、様相が変わった」と同社は指摘する。「『人手不足感』が急速に弱まり、人手不足に起因する倒産が大幅に減少する結果となった」と見ているようだ。
2021年の「人手不足倒産」は4年ぶりの低水準も、2022年以降は“コロナ禍前”の水準まで高まる可能性が

業種別では「建設業」が最多。全体の3割を占める「36件」に

2021年に大幅減となった人手不足倒産件数を業種別で見ると、「その他」を除く全業種で前年から減少。その中でも、「建設業」が36件と全体の34.6%を占めており、他業種に比べて多く発生している。建設業における人手不足倒産が深刻化していることがうかがえる結果だ。

建設業では2020年以降においても慢性的に人手不足の状況が続いており、2021年12月時点の同社による調査では、6割以上の企業が「人手不足」を訴えていたという。同社は、他の業種と比べて「災害復旧工事」や「国土強靭化策」といった土木工事が引き続き堅調だったことを主な要因と見ている。
2021年の「人手不足倒産」は4年ぶりの低水準も、2022年以降は“コロナ禍前”の水準まで高まる可能性が

景況感の回復にともない、2022年は「人手不足問題」の再来を懸念する企業が増加

また同社は、「今後の人手不足倒産は、新型コロナの動向による景況感の回復状況に左右される」としている。足元では、オミクロン株の全国的な感染拡大により、再び一部の経済活動が制約されているが、景況感は着実に回復傾向にあり、今後人手不足に陥る企業は増加する可能性があるという。

実際に、2021年12月時点における企業の人手不足割合は、「正社員」で47.5%、「非正社員」では27.7%となっており、2020年4月の第1回緊急事態宣言の際に最低となった水準から、既にコロナ禍前の2019年に近い水準まで回復していることが見て取れる。この結果を受け、同社は「『新しい生活様式』の定着により、経済活動が回復に向かったことが反映された結果である」との見解を示した。
2021年の「人手不足倒産」は4年ぶりの低水準も、2022年以降は“コロナ禍前”の水準まで高まる可能性が
さらに、同社が毎年11月に実施している「翌年の景気見通し」の調査によると、2021年の段階で、「2022年の景気に悪影響を及ぼす懸念材料」として「人手不足」と回答した企業は、30.6%と3割にのぼった。

「人手不足」は2018年から2020年では3年連続の懸念材料トップであり、半数近い企業がリスクとしてあげていたという。2020年から見た「2021年見通し」の際は、コロナ禍による景気後退の影響を受け、一時は11.1%まで落ち込んだ。しかし、足元では「人手不足感」が再び高まりつつあることから、今後の景気の懸念材料とする企業が増加した形だとしている。
2021年の「人手不足倒産」は4年ぶりの低水準も、2022年以降は“コロナ禍前”の水準まで高まる可能性が
企業の「人手不足感」は、景気が上向いていた2020年初頭までの水準に近づきつつあることがわかった。新たな生活様式とともに経済活動を活発化させる事業者が増える中、「人材確保」は多くの企業にとって頭の痛い問題となりそうだ。