役職定年後も「社内での適応感」を維持できるマネジメントとは? 「ポストオフ経験に関する意識調査」をリクルートが分析

株式会社リクルートマネジメントソリューションズは2021年6月1日、「ポストオフ経験に関する意識調査」の分析結果を発表した。調査期間は2021年3月12日~14日で、役職を外れる「ポストオフ」経験があり、その後そのまま同じ会社に勤務している50~64歳の正社員766名より得た回答を分析している(従業員規模300名以上)。これにより、ポストオフ前にすべき準備や、ポストオフ後の適応感を高めるマネジメントのポイントなどが明らかとなった。

ポストオフによって変化したものは「賃金」などさまざま

現在、「役職定年制度」や「役職任期制度(一律の年齢や期間で組織長などの役職を外れる制度)」、またはそれに準ずる制度の運用により、役職を外れる「ポストオフ」を導入している企業もあるだろう。ミドル・シニア世代の活躍が重要性を増すなか、ポストオフ後の社員が「新しい環境に適応している」と感じるポイントは、どのような点にあるのだろうか。

はじめに、「ポストオフ前と比較したときの変化」を尋ねると、「下がった・減った」という回答が最も多かったのは「賃金」で、82.8%という結果に。以降、「周囲からの期待の大きさ」が56.1%、「仕事量・労働時間」が52.9%と続いた。

反対に、「変わらない」と「上がった・増えた」の項目の合計値が多くなった項目は、「1日に会話する人の数」(51.1%)、「自分で判断し主体的に進める度合い」(55.2%)、「顧客満足や組織業績の向上への影響力」(56.7%)、「仕事の成果の見えやすさ」(60.5%)、「新しいことを勉強する時間や機会」(62.3%)だった。
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失ったものは「給与や期待」。その反面、「時間や余裕」を得られたと回答

次に、「ポストオフによって失ったものと得たもの」の自由回答を分析すると、「給与」や「期待」、「情報」を失ったという回答が多く見られた。一方、得られたものとして、「時間」や「自由」、「余裕」との回答が多くあがった。
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「専門性や知識の習得」で、ポストオフ後は適応感が良好に

続いて、「ポストオフに向けて準備していた/意識して行っていたこと」を尋ねた。ここでは、ポストオフ後の新環境について、回答者を「好適応群」と「普通・適応苦労群」に分けて、回答結果をまとめている。

その結果、部長ポストオフで好適応だった人が挙げたのは、「専門性の高い知識やスキルを身につける」が49.5%で最も多く、以下「役職や地位などの権威を振りかざすことがないよう心がける」が48.4%、「最新の知識を学び続ける」が45.3%と続いた。

また、課長ポストオフで好適応だった人の上位は、「役職や地位などの権威を振りかざすことがないように心がける」(46.2%)、「プレイヤー業務を手放さない」(36.3%)、「社内の人脈を広げる」(28.6%)という結果だった。役職以外の現場業務を遂行するための知識の更新や、立場を持ち出さないフラットな関係性の構築が、ポストオフ後の適応感を高めるポイントといえそうだ。
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適応感を高めるには「上司からの尊重と高い期待」や「インクルーシブな風土」が重要

さらに、成果や居場所、やる気など「現在の仕事への適応感」を高める要因について、複数要素からの影響を比較検討できる「重回帰分析」を行い、「環境」と「個人」のそれぞれの要素から「適応感」につながる要因を探った。

その結果、「環境要因」では「上司からの尊重や高い期待」と「インクルーシブな風土(誰にでも発言権があり、年齢によらずよい仕事が評価される)」の2項目が、ポストオフ後の適応感を特に高めていることがわかった。

また、「個人要因」においては、「拡張・協同ジョブ・クラフティング(同僚と共感したり、助け合ったりしながら役割範囲や人との関わりを広げる)」という本人行動が、ポストオフ後の成果や居場所作り、活力を生み出すことにつながっていることが明らかとなった。
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上司によるマネジメントを「放任型」、「伴走型」、「放置型」の3タイプに分類

続いて、「ポストオフ者に対する上司のマネジメント行動」を尋ね、内容を「尊重と高い期待」、「伴走」、「放置」の3種類に分けて分析した。その結果、ポストオフ者の受けているマネジメントは、以下の3タイプに分かれることが判明した。

タイプ1:「放任型」
「尊重と高い期待」、「伴走」、「放置」がいずれも高く、全体の26.5%という結果となった。

タイプ2:「伴走型」
「尊重と高い期待」、「伴走」が高く、「放置」が低い。このタイプは全体の47.4%と、最も多くを占めた。

タイプ3:「放置型」
「尊重と高い期待」と「伴走」が低く、「放置」が高い傾向にあり、26.1%となった。
役職定年後も「社内での適応感」を維持できるマネジメントとは? 「ポストオフ経験に関する意識調査」をリクルートが分析
さらに、前述の3つの「ポストオフ者に対する上司のマネジメント行動」のタイプと、ポストオフ者の「適応感」および「キャリア停滞感」を照らし合わせて分析した。その結果、「適応感」は、「放任型」と「伴走型」の上司のもとではいずれも高い数値を示し、「放置型」の上司では低い傾向となった。また、「キャリア停滞感」は、「伴走型」の上司のもとでは低い傾向にあることが明らかとなった。つまり、「伴走型」の上司のもとでは、「適応感」が高く、「キャリア停滞」も感じにくいことが示された。
役職定年後も「社内での適応感」を維持できるマネジメントとは? 「ポストオフ経験に関する意識調査」をリクルートが分析
定年延長の検討や「高年齢者雇用安定法」の改正が行われるなど、今後は人々の働く期間がより長くなっていくことが予測されるが、その手前のポストオフで落胆してしまう人も少なくない。ポストオフのような制度は、ただ導入するだけでなく、実施後も対象者が能力を発揮し続けられるよう、しっかりとしたマネジメント体制を構築することが必要といえそうだ。