研修効果を高めるために職場でできること

研修講師として多くの社内研修に関わると、「研修をすれば、なんとなくよくなるのではないか」というぼんやりした企画にたびたび遭遇する。外部講師を呼ぶと費用も多額になるので、「これだけお金をかければ、何か効果があるだろう」という意識の場合も多い。もちろん、プロの講師はそれなりのレベルの研修を用意してくるが、実は講師まかせでは研修の効果はあがらない。研修を実施する職場の側が「これを知っていると知らないとでは、大きな差がつく」という方法をご紹介しよう。

研修を企画する側の意識

社内研修の経験が少ない、または初めてという企業が企画を立てるとき、多く見られる状況・課題は以下のようなものだ。

(1)「学ぶこと」が目的になっている
研修の目的はなんだろうか。端的にいうと、ただ学ぶだけではなく、参加者がなんらかの行動変容を起こし、学んだ内容を仕事に活かすことだ。ここが意識されておらず、研修のテーマが職場の課題とリンクしていない場合、「実施しただけ」で終わってしまう。

(2)職場の管理職が非協力的
「この忙しいのに研修か」、「なるべく短時間で終わらせてほしい」など、管理職が研修の意義を理解せず、時間のムダと考えている。企画・実施する側が前項の状態だと、それも無理からぬことだが。

(3)「とりあえず実施すればいい」
「社長から研修するように指示された」、「親会社からの指示で年に1度やることになっている」など、とりあえず研修さえおこなっておけばいいという意識で、中身についてはあまり考えていない。

(4)実施したきりで、効果測定を考えていない
ゴールへの意識があいまいなので、そもそも研修にどのような効果を求めるのかを理解していない。当然、効果を測定することも考えていない。

効果のある研修にするには、上の(1)~(4)にあげた課題をひっくりかえせばよい。つまり下記の通りのである。

(I)職場の課題とリンクした研修のゴールを明確にする
「現状、どのような課題があるのか」という分析が必要になる。現場の状況のヒヤリングは必須である。

(II)管理職に研修の意義を説明し、協力を求める
「これができるかできないかで研修の成果が決まる」というくらい重要な項目である。管理職に企画の段階から関わってもらうことで、彼らの「やらされ感」を払拭しておこう。

(III)なぜ研修をおこなうのか、企画する側が腑に落ちた状態にする
研修ありきではなく、研修をやらないとどうなるのか、やった場合はどうなるのかを、具体的に検討することが必要である。

(IV)研修企画の段階から効果測定方法を検討する
研修直後のアンケートはもちろん、数ヵ月後にどのような効果が出てほしいかを考え、測定方法を検討する。

研修の「前」「中」「後」にはこうすべし

では、効果的な研修をおこなうために、職場でできる具体的な対策はどのようなものだろうか。研修前・研修中・研修後に分けて見ていこう。

【研修前】
研修に参加する社員に対し、上司が研修に関心を持っていることを示し、研修の意義を説明したり、なぜ研修が必要なのか本人に尋ねて考えさせるような働きかけをしたりするのが効果的だ。もちろん、このように行動してもらうためには、企画する側から、受講者の上司に前もって意義を説明し、働きかけをしてもらうよう依頼しておく必要がある。

【研修中】
実際に研修を始めると、携帯電話に着信があったり、職場から呼び出されて中座したりする受講者が出てくる。これは、中座する本人だけではなく、他の受講者のモチベーションもそいでしまう。このようなことを防ぐために、受講者の不在中は管理職や同僚が彼らの仕事をフォローし、研修内容に集中できるような体制を整えよう。

また、会社ぐるみで研修をバックアップしていることを示すために、開始前に社長を登壇させて意義を語ってもらうこともよい方法だ。

【研修後】
まず、研修直後に受講者にアンケートをとる。これは、どの研修でも同じ項目になるように設計すると、比較対照しやすい。そして、研修後1週間から1ヵ月の間に、研修で使用したレジュメやワークブックを職場単位や個人で見直す機会をつくる。

さらに、同僚や上司から「研修後どのように行動が変わったか」について、フィードバックをもらう機会をつくる。そして、まわりからフィードバックをもらうだけでなく、研修後は一定の間隔で、「研修で理解したこと、行動しようとしたことが継続しているか」について、受講者自身で「ふりかえり」をおこなってもらう。

このような取組みができるよう、企画する側としては、社内学習会をお膳立てしたり、受講者にふりかえりをするよう促すアラートメールを一定間隔で送り続けたりする必要がある。研修後、数ヵ月~1年たったら、売上・利益・従業員満足度・退職率などの数値を研修前と比較することも忘れずに。ここまで徹底しておこなうことが、研修の効果を高め、測定する方法である。


李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org