「好ましい組織風土」の構築を阻害する要因は何か

誰でも「気持ちよく働ける、活性化された職場で働きたい」という思いを持っているだろう。ところが、このような「好ましい組織風土」の構築を阻害する要因が組織内に存在することがある。はたして、何が風土構築を阻む要因となっているのだろうか。

「模範になるべき社員」が阻害要因になる職場

「好ましい組織風土」を構築する上で阻害要因になるのは、多くのケースで「人」である。このような指摘を聞くと、「未熟な若手社員が阻害要因になるのでは」と考えるリーダーが多いかもしれない。「最近の若者には常識が通じない」と嘆くリーダーの声を聞くこともしばしばある。

しかし、さまざまな組織運営の実態を見ていると、若手社員が風土構築の直接的な阻害要因になっていることは、必ずしも多くない。実際には、「勤務歴の長い社員」や「役職の高い社員」のほうが阻害要因になる場合が多い傾向にある。つまり、本来であれば、組織メンバーの「模範になるべき社員」や「見本とされるべき社員」が、気持ちよく働ける活性化された職場づくりに〈マイナスの影響〉を与えてしまっていることがあるのだ。

「職場のルール・マナーを守ること」が組織風土づくりの基本

ところで、気持ちよく働ける活性化された職場とは、どのような職場だろうか。さまざまな考え方があるかと思うが、例えば「皆が前向きで、やる気に満ちた雰囲気の職場」は、気持ちよく働ける活性化された職場といえるだろう。

それでは、どのような時に組織メンバーは気持ちが後ろ向きになり、やる気を失ってしまうのだろうか。人が前向きな気持ちを失いやすい要因には、万人共通の事項がいくつかある。そのうちのひとつが、「職場のルール・マナーが適切に守られない」という状態である。

意外かもしれないが、職場のルールやマナーは、思いのほか組織風土づくりに大きな影響を与えるものである。そのため、ルール・マナーが適切に守られない職場は、多くの場合、気持ちよく働ける活性化された職場にはならない。その結果、組織パフォーマンスも芳しくなく、人材の定着率も低くなりがちである。

実は、職場のルール・マナーを軽視しがちな人材は、得てして「勤務歴の長い社員」、「役職の高い社員」の中にいるのである。

ルール・マナーが疎かになりやすいベテラン社員

例えば、あなたの職場に次のような行動をとる「勤務歴の長い社員」、「役職の高い社員」はいないだろうか。

・時間やスケジュールを守らない
・きちんと挨拶をしない
・業務時間中の私語が多い
・トイレやタバコ休憩の回数が多く、時間も長い
・黙って離席し、どこに行ったかわからない
・業務中に私用でメールや電話をする
・不必要な外出をする
・上司・同僚・部下の悪口ばかりを話す
・仕事の手を抜く
・会社の経費を浪費する

残念ながら、職場には勤務歴が長くなるにつれて、また、役職が高くなるにつれて「自分自身に甘くなる社員」が出てくることがある。「自分自身に甘くなる社員」の中には、本来ならば職場の模範にならなければならない立場にもかかわらず、上記のような、かけ離れた行動をとるケースが多い。

しかも、「勤務歴が長い」、「役職が高い」という理由で〈好ましくない行動〉に対して注意喚起を受ける機会がないため、行動が改善されづらい。さらには、「勤務歴の長い社員」や「役職の高い社員」は職場での影響力が大きく、ルールやマナーを欠いた〈好ましくない行動〉を真似る社員が出はじめる。

その結果、まじめに勤務する社員にとっては「居心地の悪い職場」、「雰囲気の悪い職場」ができ上がってしまうことになるのである。

リーダーの「率先垂範」が風土構築のカギ

このような問題を解決するには、どうしたらよいだろうか。ひとつには、〈好ましくない行動〉をとる社員に対し、より上位者から改善を促す方法がある。例えば、課長の行動に問題があるのであれば、上位者である部長が、〈好ましくない行動〉を指摘し、改善を求めるやり方である。

ただし、この方法には注意点がある。先の例でいうと、部長が下位者である課長に対して「きちんと時間を守って行動するように」と指導をしたとする。しかしながら、当の部長自身が時間にルーズであれば、指導を受けたからといって課長が時間を守るようにはならない。つまり、〈好ましくない行動〉を指摘する上位者もその指摘事項を守れなければ、下位者の行動が改善されることはないのである。

組織メンバーに求める職場のルールやマナーは、リーダー自身が厳守できて初めてメンバーに浸透するものである。従って、「好ましい組織風土」構築の最大のカギは、職場のルール・マナーに対するリーダー自身の「率先垂範」にあるわけである。

ところが、先にも述べた通り、人は役職が高くなるにつれて自分自身に甘くなりやすい。ついつい「私は部長なのだから、これくらいは構わないだろう」などと、ルールやマナーを逸脱する行動を取りやすくなる。しかしながら、リーダーは役職の高さに比例して「自分自身により厳しくなれる人材」でなければならない。皆さんは、職場のルール・マナーを組織メンバー以上に守り、行動できているだろうか。


大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net