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今度こそ「同一労働同一賃金」政策は日本に浸透するか!?

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 「同一労働同一賃金」という言葉が再び注目されている。コトの発端は、先日政府が開催した国民との対話集会の場において、安倍総理が力を入れて取り組むと宣言したことによる。ただ、この議論は持ちあがっては立ち消えになりの繰り返しだ。今回はこの「同一労働同一賃金」政策について考えてみたい。

 まず、この言葉の持つ意味であるが、国籍等の違い、男女による性別をはじめ、正社員・契約社員・パート・アルバイト・派遣社員といった職種に捉われることなく、同じ仕事(あるいは仕事内容が同一でないにしても、その仕事の持つ価値が同一)であれば、同じ給与を支払うようにしましょう!というのが当該制度の持つ意義である。だから「同一価値労働同一賃金」の原則とも呼ばれている。この部分だけにフォーカスすると、至極当たり前のことであるし、誰しも異論はないのではないだろうか。しかし、冒頭のとおり日本では中々浸透していかない賃金政策である。

 これには様々な要因が考えられるが、最も大きな点は、雇用管理の仕方も、給与の支払い方も職務基準ではなく、人を基準で捉えられてきた点だと筆者は思う。欧米諸国に目を向けると、職務賃金が確立されているため、基本的に同じ(価値の)仕事に対して同じ賃金が支払われる。同じ仕事をしていれば、単位時間当たりの賃金は、正社員とそれ以外(いわゆる「非正規労働者」)で異ならないということだ。だから、日本のように時間賃金を算出すると、正社員と非正規労働者で格差が生じるということは基本的に生じない。故に、OECDの対日勧告でも指摘された日本特有のいわゆる疑似パート(職種はパートして雇用されているが、労働の実態は正社員と変わらない)の問題も生じないのである。

 ではなぜ日本はこのような状態が続いてしまうのだろうか。過去に目を向けると、日本は少なくともバブルが崩壊するまでは、終身雇用慣行の下で正社員を中心に、これを支える周辺労働力としての、また、正社員の雇用を維持するための雇用調整弁的役割としてパート労働者が位置づけられてきた。生産性は労働時間に比例すると考えられていたから、正社員は何かあれば24時間まさに企業戦士として働き(その見返りとして定年までの終身雇用慣行と年功的賃金が敷かれていた)、パート労働者は補助的役割に終始するといったすみ分けができていたと考えられる。ところが、バブル経済が崩壊して各企業の経営が傾くと、固定費である人件費を抑えるため、賃金の高い正社員よりも、非正規労働者の比率をあげていった。90年代の半ばになると雇用流動化が議論され、雇用ポートフォリオ論が誕生し、これが今に続いている。この流れが加速したのは、デフレのなかにあってやはり正社員は解雇しにくいという共通認識があったからだと思われる。この部分ばかりが先行し、雇用流動化という議論のなかで、職務という視点を無視し、職種の違いだけの運用となったことが今の雇用格差を招いた要因だと推察される。
 詰まるところ、正社員の割合が縮小傾向にあるとはいえ、新卒一括採用にみられるように、日本はまだまだ正社員を中心とした雇用管理から脱却できていないのが現状である。国も企業も、正社員と非正規労働者という職種だけの視点から脱却できていないのである。これを改善すべく、労働契約法をはじめ、パートタイム労働法や派遣法等の改正にみられるように、国の政策として正社員と非正規労働者の格差是正に向けた揺り戻しを図っている点は評価できるが、努力義務規定に留まるものが多く、その効果は弱いと言わざるを得ない。

 以上を鑑みると、同一労働同一賃金政策を真に推進していくためには、「仕事(職務)」という議論抜きには実現は困難だということだ。先に述べたように、これまで正社員を中心に人を基準とした雇用管理の流れのなかにあって、日本は職務という観点は曖昧にしたまま今に至ってしまっているからである。職種だけの枠組み運用に陥ってしまうから、同じ仕事であっても格差が生じる結果を招いてしまう。もっとも、属人的要素を排除すべく、成果主義賃金が2000年代前半に流行したが、職務概念が希薄な日本では頓挫したと言って良い。その後に役割給という概念も台頭したが、各企業が各企業の判断で様々に賃金要素を組み合わせて運用しているのが実態である。
 すなわち、各々の職務が持つ価値(測定方法)をどのように日本全体で捉えていくべきか?という点が非常に重要になる。そして、この基準は日本の国全体の基準として欧米諸国でみられるような社会的合意が形成される必要がある。今度こそ、職務を起点とした「同一労働同一賃金」の議論を期待したいものである。


SRC・総合労務センター 株式会社エンブレス 特定社会保険労務士 佐藤正欣】

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