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「やらない」・「断る」という経営判断

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 「やらない」とか「断る」という言葉に対して人が持つイメージは、大方否定的な印象を抱きがちだ。特にビジネスにおいて「やらない」とか「断る」という行為はタブー視される傾向にある。ただ、今回筆者は「やらない」とか「断る」ということを消極的な意味合いで捉えているのではない。むしろ積極的な経営戦略として「やらない」・「断る」という選択が必要な時期に差し掛かっているのではないかと感じている。

 三越伊勢丹が、労働環境改善によるサービス向上を図る目的として、今年の元旦と2日を正月休みとしたことは記憶に新しい。これまでも労働時間の短縮営業の取り組みをしてきた経緯があるものの、完全に休みとしたことは、社会的にもインパクトが大きく賛成派も多かったように感じる。確かに過去を振り返ると、三が日はどこの会社もお店も休みであることが普通だった。年末に食料等の買い出しに出掛け、大晦日から三が日は自宅や親戚の家でゆっくりするのが年末年始の一般的な過ごし方だった。それが、いつしか大晦日・三が日は関係なくなり、年中無休を謳うところもある。消費者として利用する我々からすれば、便利で有難い話である。しかし、会社や店が営業しているということは、そこには休まずに働いている人がいるということでもある。

 消費者や顧客目線に立って利便性を突き詰めていくと、1日の営業時間はできるだけ長く、いつ行っても営業している方が商機を逃さない。顧客側の多少の無理なら、これに迅速に応えてみせることもサービスの一環である。だから、先方の急な依頼で難しいと思った案件でも、何とか工夫して納期を前倒しできないか模索したり、営業時間外であっても対応するよう努める。こうすることで信頼を得、強固な関係性を構築できるからだ。
 とはいえ、年末年始やお盆くらい世の中全体を休みにしてしまっても良いのではないかと思ってしまうのは筆者だけではないはずである。さらに言えば、深夜に及ぶ営業や、24時間の営業も本当に必要なのだろうか。日本は過剰すぎるサービスを展開していると言わざるを得ないのではないか。

 今回、過剰な部分を削ぎ落とし、あえて「やらない」という経営判断の一例として挙げた三越伊勢丹が採った戦略は、これからの日本にとって重要なヒントになると思われる。それは次の4点である。
 第一に、少子高齢化に伴う労働力人口の減少だ。既に人材不足で採用に悩む企業が徐々に現れはじめている。平成26年時点における内閣府の資料によれば、2030年までに合計特殊出生率が2.07まで上昇回復し、かつ、女性がスウェーデンにみられるような働き方を実現し、高齢者も現行より5年長く働くという前提条件を満たせたとしても、2060年には5,400万人程度(現在は約6,590万人)まで落ち込むことを予測している。今後、必然的に人材確保が難しくなるにも関わらず、過剰サービスを維持し続ければ労使双方で破綻してしまう。
 第二は、若年世代における働くということの意識変化である。終身雇用慣行が失われ、一つの会社で定年まで勤め上げることが難しくなっている現代において、自分の職業人生と会社の運命を共にするという価値観はほぼ無いに等しいだろう。家庭や子育てを犠牲にしても会社(仕事)を優先するという考え方は過去のものである。かと言って、若い世代は働くことを蔑ろにしている訳ではない。仕事と家庭を両立(ワークライフバランス)できる“人間らしく働ける職場”を重要視する。休日が少なかったり、拘束時間が長かったりする職場は敬遠される傾向にある。
 第三は、子育てをしながら働く女性が増えたことである。女性も男性と同じように働いている訳だから、家事育児を任せきりになどできない。お互いにシェアして協力していかなければならない。そうすると、第二で触れたことに付随するが、家庭に目を向ける余裕のない労働環境の会社では労働者から見限られてしまうことになる。
 第四は、労働関係法規が整備され、過労による健康障害防止に向けた動きが急速に高まっていることである。労働者側の意識も成熟化してきている。恒常的に残業ありきで動いている会社は、時代の流れから取り残されてしまうことになるだろう。
 以上を鑑みると、思い切った経営の割り切りが必要だ。過剰サービスを維持し続けるために過剰労働をさせるのではなく、ある部分をやめてしまう、断るという経営判断によって、他の部分で労働強度をあげ、利益確保することを考えていかなければならない。これを絶えず考え実行していくことが経営するということであり、これからの時代は、このようなことができる経営者が求められているといえるのではないだろうか。


SRC・総合労務センター 株式会社エンブレス 特定社会保険労務士 佐藤正欣】

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