「人材育成は重要である」この言葉を聞けば誰しもがそう思うはずだ。機械設備への投資は年月を経て減価償却され価値が目減りするのに対し、人材への投資は価値が増大していく。この考え方は、1960年代のアメリカの人的資本論に端を発する。この言葉の持つ意味を改めて痛感した出来事があった。本稿ではそのエピソードを書くこととしよう。

筆者が定期的に通っている飲食店での出来事である。いつものように店を訪れると、新人の若い男性がいた。彼をAとしよう。Aは新人であるからか、不安そうな表情と、どこかおどおどとした感じを全体から醸し出している。新人Aに与えられた仕事は、大きく次の4つだ。
それは、
①来店したお客様を出迎え、空いている席へ誘導すること(混雑している時は調整も含む)。
②お水とおしぼりを提供すること。
③お客様から注文を聞き、注文内容をハンディ端末へ入力し送信すること。
④注文した内容を厨房で調理する者に対して大きな声で伝えること。
Aの仕事ぶりは、①に関して入口で既に並んで待っている客がいるにも関わらず、うまく誘導案内ができず、後から来た客が店の中へどんどん入ってしまい、先に並んでいる客から不満の声があがる。
②に関しては、既に入店し待ちぼうけ状態の客がいるのに、先にいま座った客へお水とおしぼりを渡しに行ってしまう。
③に関しては、客からの注文を一度で聞き取れない。
④に関しては、Aの声が小さく、厨房内にいる者同士が声を掛けあいながら連携して慌ただしく動いているため厨房内に届いていない(厨房内で調理する者は、調理しながらフロアーから届く声と、ハンディから送られてきた内容に相違ないかを確認し、加えて料理を出すまでの時間も考慮しているため、大きな声で伝えることは重要である)。
このように、新人であることを考慮しても酷いと言わざるを得ない状態だ。だから、厨房の奥ではお客さんから見えないよう上司や先輩社員から注意されアドバイスを受けていた。こうした光景を見て筆者は、残念ながら長く続かないだろうと思った。
それは、
①来店したお客様を出迎え、空いている席へ誘導すること(混雑している時は調整も含む)。
②お水とおしぼりを提供すること。
③お客様から注文を聞き、注文内容をハンディ端末へ入力し送信すること。
④注文した内容を厨房で調理する者に対して大きな声で伝えること。
Aの仕事ぶりは、①に関して入口で既に並んで待っている客がいるにも関わらず、うまく誘導案内ができず、後から来た客が店の中へどんどん入ってしまい、先に並んでいる客から不満の声があがる。
②に関しては、既に入店し待ちぼうけ状態の客がいるのに、先にいま座った客へお水とおしぼりを渡しに行ってしまう。
③に関しては、客からの注文を一度で聞き取れない。
④に関しては、Aの声が小さく、厨房内にいる者同士が声を掛けあいながら連携して慌ただしく動いているため厨房内に届いていない(厨房内で調理する者は、調理しながらフロアーから届く声と、ハンディから送られてきた内容に相違ないかを確認し、加えて料理を出すまでの時間も考慮しているため、大きな声で伝えることは重要である)。
このように、新人であることを考慮しても酷いと言わざるを得ない状態だ。だから、厨房の奥ではお客さんから見えないよう上司や先輩社員から注意されアドバイスを受けていた。こうした光景を見て筆者は、残念ながら長く続かないだろうと思った。
ところが、それから約半年が経つとどうだろう。Aは厨房で調理をしながら、入口のお客様の誘導・調整を行い、他のバイトに指示まで出している。注文も一度で聞き取り、間違いなく受け付けている。声は大きくハキハキとしていて通りが良い。何よりも以前のおどおどした姿は微塵もなく、Aの仕事ぶりには自信が感じられた。まるで別人である。
この間に何があったのか。もっとも、ここまで成長するにあたり、諦めず仕事を覚えようと必死に努力してきたAの賜物であることは言うまでもない。しかし会社が単にAだけの頑張りや努力のみに依存したのでは、A自身の糸が切れてしまっていたかもしれない。この店には先輩社員が常にAのような後輩をフォローする仕組みが整っているとともに、仕事を覚えてもらうための教育体制が存在していた。
例えば、早口で注文してくるお客様に対しては、聞き取った内容を先にメモで走り書きし、後からそれをハンディ端末に入力するといったアドバイスを先輩社員が教える。そして、一つ一つの仕事の内容(作業工程)がナゼあるのか?ということを教育係である先輩社員がAに教授していた。この会社の教育体制は主にOJTである。鍋やフライパンの位置、食材の配置方法、切り方、炒め方、手で触れて感じる温度の感覚等々を横について教えている。そして一つ一つを習得したら、決められた手順・方法で所定時間内に料理等の完成ができるかを上司がテストする。これに合格すると一人でその仕事が任されるようになる。最初は足手まといだったAも、こうした不断の育成により、今や居なければ店のオペレーションに影響が生じるほどの確固たる戦力にまで成長した。A自身の仕事の習熟度に比例して店の発展にも繋がっている。
《次ページに続きます》
この間に何があったのか。もっとも、ここまで成長するにあたり、諦めず仕事を覚えようと必死に努力してきたAの賜物であることは言うまでもない。しかし会社が単にAだけの頑張りや努力のみに依存したのでは、A自身の糸が切れてしまっていたかもしれない。この店には先輩社員が常にAのような後輩をフォローする仕組みが整っているとともに、仕事を覚えてもらうための教育体制が存在していた。
例えば、早口で注文してくるお客様に対しては、聞き取った内容を先にメモで走り書きし、後からそれをハンディ端末に入力するといったアドバイスを先輩社員が教える。そして、一つ一つの仕事の内容(作業工程)がナゼあるのか?ということを教育係である先輩社員がAに教授していた。この会社の教育体制は主にOJTである。鍋やフライパンの位置、食材の配置方法、切り方、炒め方、手で触れて感じる温度の感覚等々を横について教えている。そして一つ一つを習得したら、決められた手順・方法で所定時間内に料理等の完成ができるかを上司がテストする。これに合格すると一人でその仕事が任されるようになる。最初は足手まといだったAも、こうした不断の育成により、今や居なければ店のオペレーションに影響が生じるほどの確固たる戦力にまで成長した。A自身の仕事の習熟度に比例して店の発展にも繋がっている。
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