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停滞する日本のネットスーパーと急成長する米国の食材買い物代行サービス「インスタカート」

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日米ともに頓挫したネットスーパー

日米ともに頓挫したネットスーパー

野菜や果物、肉、魚などの生鮮食品は買いだめするわけにいかず、しかも重い。働く女性はもちろん、小さな子供を持つ主婦、高齢者など、マイカーを持たない単身者など、スーパーでの買い物を負担に感じる人は少なくない。そのため、生協など家まで宅配してくれるサービスを利用する家庭も多いが、「本当は毎日スーパーで鮮度のいいものやお買い得な商品を自分の目で選びたい」と思っている人もいるに違いない。

 そこに目をつけて、オンラインで注文すれば、当日または翌日までに配達してもらえるネットスーパー事業に、イトーヨーカドー、イオン、西友などの大手スーパーチェーンが2000年から次々と参戦した。だが、住友商事が子会社として運営していたサミットネットスーパーが、2009年に開業と後発にもかかわらず、2014年10月に早くもサービスを終了した。失敗の最大の要因は先行投資として都内に3ヵ所の専用の配送センターを設置したことだった。東京都と神奈川県で25万人の宅配会員を獲得したが、センターを維持していくための経費が日々かかるため、会員がコンスタントにまとまった額を注文してくれなければ採算はとれず、黒字化することができなかった。

 実は米国でも、ネットスーパーは1990年代から次々と起業されたが、その多くが消えていった。今のようにスマホが普及しておらず、ネットスーパーの登録はしたものの、ソフトウェアの操作性が今一つで、利用頻度は高くない消費者が大半だったからだ。ところが、このような試行錯誤を経て、2013年頃から台頭してきたのが、「パーソナルショッパー」と呼ばれるフリーの人材がスマホアプリからの指示で買い物代行してくれるサービスである。

依頼主とスーパーをアプリでマッチング

この食材買い物代行サービスのリーディングカンパニーとして注目を集めているのが、2012年にサンフランシスコでスタートした「インスタカート(Instacart)」だ。同社は急成長が見込めるパーソナルショッピングサービスとして期待され、投資家・ベンチャーキャピタルから 2億2,000万ドル(約260億円)の出資を受けて、企業価値は20億ドルと評価されている。2015年1月にはフォーブスが発表した「米国で最も有望なスタートアップ企業10社」の内の1社に選ばれた。

 インスタカートの注文方法はネットスーパーとあまり変わらない。インスタカートのサイトにアクセスするか、スマホ用のアプリをダウンロードすると、登録したZIPコード(郵便番号)から、配達可能な地元スーパーのリストが表示される。 その中から、希望する店舗を選択すると、販売されている商品情報(商品名、画像、価格)が一覧表示されるので、希望する商品をショッピングカートに入れてして、チェックアウトボタンを押すだけだ。だが、その先のビジネスモデルが既存のネットスーパーとは大きく異なる。

 注文が入ると、該当店舗のスーパーの駐車場で待機している「パーソナルショッパー(配達員)」のスマートフォンに買い物リストが送信される。ショッパーのスマホのアプリには、店舗のどこにどんな商品があるのか指示がでる。また、注文された商品が、店内で在庫切れになっていた場合には、依頼者に電話をして代替品を探して買うべきかの相談ができる仕組みになっている。さらに、ショッパーは全員、肉や魚などの生鮮食品に見分け方を学ぶ研修を受けているので、棚の中から最も鮮度のいい商品を選ぶことができる。店内での買い物を完了すると、ショッパーは自分の車で依頼者の家まで商品を届ける仕組みになっている。要するに、依頼者とスーパーを自社アプリを介してマッチングするサービスで、実際の買い物を行うのが自由な時間に働きたいフリーランス人材というわけだ。

大手スーパーと提携し全米主要都市でサービスを拡大

インスタカートのビジネスモデルは、「配達料」と「商品の価格を店頭表示より高めに設定すること」で収益を得る仕組みになっている。但し、すべての商品が一律で割高に設定されているわけでなく、インスタカート専用のバーゲン品を企画したり、特別な割引特典を与えることで、会員顧客を増やすことに結びつけている。最低の注文額は10ドルで、35ドル以上の注文になると2時間以内で配達料は3ドル99セント、1時間以内で5ドル99セント。35ドル以下の注文の場合、2時間までの配達は7ドル99セント、1時間以内で9ドル99セントセントだ。但し、年間99ドルのインスタカート・エクスプレス・メンバーになると、2時間までの配達料は無料になる。

消費者にとっては、自分で店に行くよりも高い買い物になってしまうが、高所得で多忙な人にとっては、自宅やオフィスにいながら、1~2時間以内に配達してもらえることの付加価値は大きい。1週間分のメニューを事前に考えて注文する必要もないし、職場で新鮮な果物やサラダを食べることもできるのだから。

 インスタカートは現在、ホールフーズ、セーフウェイ、コストコ、フレッシュ&イージー、ターゲット・コーポレーションなど17の大手スーパーチェーンと提携し、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴなど、米国内のワシントンD.C.と18の州にある主だった都市でデリバリーサービスを展開しており、サービスエリアを徐々に拡大している。2014年度の総収入は1億ドルを超し、前年比で約10倍の成長を遂げている。

 インスタカートの成長の要因はいくつかある。一つは配送センターやトラック、専用ドライバーなどのインフラを自社で所有せず、自前で開発したのはソフトウェアだけなので、経費が少なくてすむということだ。これはスーパー側にしても同様で、インスタカートと提携することにより、自前のリソースを一切使わずにデリバリーサービスを実現できる。雨の日は買い物客が減るものだが、インスタカートなら顧客が直接足を運ばないので、天候によるアップダウンもない。もう一つは、パーソナルショッパーはフリーランスの人材なので、社員より経費がかからず、また、直接依頼者と顔を合わせるため、同じ棚にある商品でも、できるだけ鮮度の高い商品を探そうとするので、質の高い商品を提供できるということだ。

《次ページに続きます》

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