
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科の岩本隆特任教授は、2018年9月、レポート「人事評価制度を活用した人材確保と賃金向上」を発表した。
■現状の課題
レポートの冒頭で岩本氏は、中小企業が抱える現状の経営課題の一つは、「人材不足の深刻化」であるとし、現在の状態を放置すると、今後、中小企業の大学新卒者採用は10年に1人、実質ゼロとなる可能性を示唆し、さらに、事業承継の後継者難による中小企業250万社(国内企業の2/3)の倒産ないしは廃業が懸念されるとした。もしそうなれば、2025年頃までに、650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると試算される。
■着目した解決策
岩本氏が着目した解決策は、「人事評価制度」の導入である。同制度導入による労働環境や職場環境へ与える影響は非常に大きく、「企業の方向性」、「目標管理」、「査定」が視覚化され、従業員の目に見える状態となる。
これにより、期待される効果として次のようなものを挙げている。
・組織としての一体感
・エンゲージメントの上昇と離職防止
・目標意識が生まれ、従業員が成長、
・能率上昇による生産性上昇と残業回避
・コミュニケーションの活性化
・従業員スキル把握と適材適所配置
また岩本氏は、人事評価制度導入によって生産性や離職率が改善された中小企業の事例として、株式会社ヒラノのケースを挙げ、解説する。
種豚・肉豚の生産および販売を行うヒラノでは、子豚の育成プロセスを社員一人ひとりが意識し、行動目標として掲げることで、高値での豚の販売を実現し、収益アップに成功。また、豚の販売価格交渉をチームで行い、それを適切に評価することで、単価の上昇を実現し、売上に貢献している。
効果を数値に換算すると、労働生産性は45%アップ、営業利益は2.2億円アップ、平均残業時間では1ヶ月あたり4.9時間の削減に成功しているのだという。
■提言
最後に岩本氏は、人事評価制度をより普及させるため、以下のような3つの施策提言を述べている。
(1)人事評価制度の啓発活動を行う 健康経営普及活動で行っている「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」「DBJ健康経営格付」を参考に、人事評価制度を取り入れることを促す取組を発信していくべきである。
(2)人事評価制度の就業規則への明文化を法律導入する 労使間の情報の非対称や労務リスクから自社を守る観点から、法的推進力を用いて整備を徹底していく。
(3)中小企業への人事評価制度導入におけるインセンティブの用意 人事評価制度の導入を行い、一定の成果を挙げた企業に対して金銭面での優遇措置や負担軽減、助成金の拡充を用意する。前年度比で規定の賃上げを行うことで法人税を軽減できる制度「賃上げ税制」をはじめとする既にある税額控除・助成金制度を活用する。
(参考)
<執筆者プロフィール>
岩本 隆 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。「技術」「戦略」「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、様々な分野の新産業創出に携わる。
■現状の課題
レポートの冒頭で岩本氏は、中小企業が抱える現状の経営課題の一つは、「人材不足の深刻化」であるとし、現在の状態を放置すると、今後、中小企業の大学新卒者採用は10年に1人、実質ゼロとなる可能性を示唆し、さらに、事業承継の後継者難による中小企業250万社(国内企業の2/3)の倒産ないしは廃業が懸念されるとした。もしそうなれば、2025年頃までに、650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると試算される。
■着目した解決策
岩本氏が着目した解決策は、「人事評価制度」の導入である。同制度導入による労働環境や職場環境へ与える影響は非常に大きく、「企業の方向性」、「目標管理」、「査定」が視覚化され、従業員の目に見える状態となる。
これにより、期待される効果として次のようなものを挙げている。
・組織としての一体感
・エンゲージメントの上昇と離職防止
・目標意識が生まれ、従業員が成長、
・能率上昇による生産性上昇と残業回避
・コミュニケーションの活性化
・従業員スキル把握と適材適所配置
また岩本氏は、人事評価制度導入によって生産性や離職率が改善された中小企業の事例として、株式会社ヒラノのケースを挙げ、解説する。
種豚・肉豚の生産および販売を行うヒラノでは、子豚の育成プロセスを社員一人ひとりが意識し、行動目標として掲げることで、高値での豚の販売を実現し、収益アップに成功。また、豚の販売価格交渉をチームで行い、それを適切に評価することで、単価の上昇を実現し、売上に貢献している。
効果を数値に換算すると、労働生産性は45%アップ、営業利益は2.2億円アップ、平均残業時間では1ヶ月あたり4.9時間の削減に成功しているのだという。
■提言
最後に岩本氏は、人事評価制度をより普及させるため、以下のような3つの施策提言を述べている。
(1)人事評価制度の啓発活動を行う 健康経営普及活動で行っている「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」「DBJ健康経営格付」を参考に、人事評価制度を取り入れることを促す取組を発信していくべきである。
(2)人事評価制度の就業規則への明文化を法律導入する 労使間の情報の非対称や労務リスクから自社を守る観点から、法的推進力を用いて整備を徹底していく。
(3)中小企業への人事評価制度導入におけるインセンティブの用意 人事評価制度の導入を行い、一定の成果を挙げた企業に対して金銭面での優遇措置や負担軽減、助成金の拡充を用意する。前年度比で規定の賃上げを行うことで法人税を軽減できる制度「賃上げ税制」をはじめとする既にある税額控除・助成金制度を活用する。
(参考)
<執筆者プロフィール>
岩本 隆 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。「技術」「戦略」「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、様々な分野の新産業創出に携わる。
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