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エスノグラフィー

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エスノグラフィーはもともと文化人類学、社会学、心理学で使われるフィールドワークから集団を調査する手法、あるいはその調査書だ。エスノ(ethno-)は「民族」、グラフィー(-graphy)は「記述」の意味。しかし近年では消費者・生活者の理解や潜在ニーズを探るために企業で活用されるようになった。特に欧米では日本より活用に熱心で、そこから得た情報をマーケティングや製品開発に活用する企業が増えている。

エスノグラフィーは日常の中で消費者の行動様式やライフスタイルを観察し、嗜好や判断基準などを客観的にあぶりだす手法である。例えば、ある大手メーカーは消費者を終日尾行して行動をつぶさに観察し、綿密に記録した。それに携わった人はエスノグラファーと呼ばれる専門家である。

日本では大日本印刷(DNP)が2009年にリリースした『Magitti(マジッティ)』というサービスを米パロアルト研究所(PARC)のエスノグラファーと協力して開発している。DNPとエスノグラファーは渋谷の若者にインタビューを繰り返し、エスノグラフィー的なアプローチによってこれまで消費者の潜在的な需要を吸い上げて、サービスの構想を練った。 また、PARCのエスノグラファーたちは、対象となるユーザを体系的に観察し、その観察から得たものを新しい技術のトレンドと結びつける役割を担った。そしてDNPはPARCの研究者と協同で、デジタルメディアを使ってどのように情報を提供するかについて意見交換し、出されたアイデアをふるいにかけ、最適なビジネスコンセプトを選んだと言う。

よく定性分析なら個別インタビューやグループインタビューがあるではないか。それとエスノグラフィーはどう違うのかという疑問を耳にする。確かに商品やサービスについてターゲットユーザーに意見を聞くのが目的なら、従来のインタビューが有効だろう。だが、アップルのiPod が好例だが、それまでウォークマンを使っていた消費者に「どんな商品が欲しいか」と聞いて、iPodのような商品コンセプトが引き出せるだろうか。エスノグラフィーは人間の意識の大部分を占める潜在意識から生まれる無意識の行動にアプローチする有用な手法なのだ。

多くの企業はPOSやインターネットを通じて、顧客の購買履歴、来店・購入頻度、年齢、性別、住所、家族構成といった情報を蓄積しており、定量分析を行っている。しかし、定量分析は顧客を属性ごとに類型化したもので、「誰が買ったか」、「どういう人に好まれているか」はわかっても、「次に何が売れるか」「消費者が求めているものは何か」はわからない。エスノグラフィーによる行動観察は、消費者の嗜好が多様化し、商品のサイクルが速い現代において、新しい市場や隠れた需要を発掘する有効な手立てになるのではと期待されている。

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経営者・事業部門責任者から部長・課長・リーダー層まで、経営の根幹を支える人たちの成長を支援するパートナーメディアを目指します。日々の業務に役立つニュースや小ネタ、組織強化や経営理論まで幅広く学べる記事を提供します。

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