2019年版 働きがいのある会社ランキング発表・令和時代における「働きがいのある会社」とは

株式会社働きがいのある会社研究所が発表した、2019年版「働きがいのある会社ランキング」。調査内容・評価方法は、世界共通で行っており、今年で13回目。グローバルでは約60カ国、7,000社を超える企業が参加し、延べ500万人を超える従業員が回答。結果から見えてきた「働き方改革」の功罪や、新時代における働きがいのある会社とは。

株式会社働きがいのある会社研究所(Great Place to WorkR Institute Japan、以下GPTW)は、「職場をすべての働く人にとって “働きがいのある場”に変えていくことを通じて、よりよい社会の実現に貢献する」をミッションに掲げている。
事業内容のひとつが、今回発表された「働きがいのある会社」の調査及びランキングの発表だ。日本では2007年にランキングの発表をはじめ、今回が13回目。グローバルでは約60カ国、7,000社を超える企業が参加し、延べ500万人を超える従業員が回答。なお、用いている調査内容・評価方法は、世界共通だ。

2019年にランクインした企業の発表と合わせ、結果から見えてきた「働き方改革」の功罪や、新時代における働きがいのある会社に関し、同社の代表取締役社長である岡元利奈子氏、シニアコンサルタントの今野敦子氏、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所所長の古野庸一氏の3名による解説、講演の様子をレポートする。

働き方改革の功罪と働きがいのある職場づくり [Great Place to WorkR Institute Japanシニアコンサルタント・今野敦子氏]

GPTWの調査の背景には、日本の労働人口の減少による一億総活躍社会実現の必然性があります。少子高齢化により深刻な人手不足が指摘されるなか、解消策として期待されているのが「働き方改革」です。働き方改革の柱は、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金の実現」「女性・シニア・外国人労働者など、多様な人が働ける柔軟な働き方の実現」の3本。今年4月には働き方関連法案も施行されました。

そこで、今回GPTWが調査で注視したのは、従業員視点から見た働き方改革の成果、改革が働きがいに及ぼす影響です。GPTWでは、働きがいは「働きやすさ」と「やりがい」の両輪で成り立つものだと考えています。さらに、その両輪を「信用」「尊重」「公正」「誇り」「連帯感」の5つの要素に分類し、5肢選択による設問で調査を行っています。
■調査結果:働きやすさは改善、やりがいは低下傾向に

調査の結果、働きやすさ得点が改善した企業は199社中104社で52%。37%が低下、11%が変化なしといった結果になりました。

58問の設問のうち、改善が見られた設問の上位5問中、トップ3はいずれもワークライフバランスに関するものでした。このことからも、各社の働き方改革の取り組みが従業員にも実感として届いていることがうかがえます。
一方で、やりがい得点が改善した企業の割合は、199社中78社。39%にとどまりました。低下した企業は54%、変化なしは7%。働きやすさ得点とは正反対に近い結果となりました。

そこで、GPTWでは「働きやすさを高めつつ、かつやりがいも高められた」企業と、「働きやすさは高まったものの、やりがいは低下してしまった」企業との違いについて比較分析を行いました。
両企業の回答結果で大きな差が開いた設問のうち上位5つは、経営・管理者層による従業員への情報や会社のビジョン・カルチャーの伝達、従業員同士の連帯感を高める取り組みに手間暇をかけているかどうかといった内容であるという結果が出ました。

働き方改革を始めた会社の多くが、真っ先に取り組むのは仕事の効率化です。そのなかで、社内イベントや面談は「無駄である」として削減されることも珍しくありません。その結果、残業時間を削減できた反面、一体感の欠如が起きていることがわかります。

働きがい向上のためには、労働環境の是正だけではなく、経営者が会社ビジョンやカルチャーを従業員に伝えること、職場の連帯感を高める取り組みにも手間暇を惜しまないことが、今後ますます重要になっていくでしょう。働き方改革、やりがい改革の両輪を進めることで、生産性の向上、イノベーションに繋げられるのではないでしょうか。

両輪の取り組みを推進している事例として、ベストカンパニー事例として東京海上日動システムズ、SAPConcurの取り組みについて紹介します。
■ベストカンパニー事例1:東京海上日動システムズ

東京海上日動システムズは、2004年に3社が合併してできた会社です。異なるカルチャーを持つ3社が合併したため、当初は連携が難しく、トップの考えが従業員になかなか伝わらないことが課題でした。
そこで、東京海上日動システムズでは、社長と社員が気軽に雑談できる「That’s談 with P」を導入。これは決して面談ではなく、社員・社長のいずれが話し手であってもいい自由に話せる場だそうです。あえてインフォーマルな場を設けることで、社長と社員との距離を縮めることに一役買っています。
また、その他にも現代では少なくなっている社内運動会も積極的に実施。従業員同士が連携できる場をつくるよう心がけています。
■ベストカンパニー事例2:SAP Concur


AP Concurは、当初、事業拡大に必要な人員増強により、会社の文化に合わない人も採用していたために、従業員同士の連携がうまくいかないといった課題を抱えていました。従業員個々が実績を上げにくい環境では、会社の業績の向上も困難です。そのため、会社のビジョンを伝えて立て直しを図りました。

現在行われている取り組みのひとつが、2カ月に1度の小グループによる自由活動。活動内容は、プロジェクトが決めたテーマに沿って決定し、活動を通じて、従業員同士が理解し合うのが目的といいます。

両社とも、働き方改革を十分推進している一方で、従業員同士の関係が希薄にならないよう、横で繋がれる取り組みにも力を入れている点が特徴といえるでしょう。

働きがいを高めるために企業ができること [リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所所長・古野庸一氏]

働きがいと業績、人材マネジメントの3点は、トライアングルの関係性にあります。働きがいを高めることが企業の業績に繋がるのか、人材マネジメントと業績はどのような関係性にあるといえるのか、働きがいを高められる人材マネジメントとはどのようなものなのか。これら3点について解説します。
■働きがいのある会社と業績(株価)との関係

まず、働きがいは業績向上に繋がるのか。この点は、2019年の働きがいのある会社ランキングベストカンパニーのうち、上場企業かつ5年間分の株価データが入手できる13社で分析を行いました。分析は、2014年3月末に13社に同じ金額を投資した場合、2019年3月末時点で得られた投資リターンと、TOPIXと日経平均株価とを比較して行います。

結果、働きがいのある会社では128.3%と、投資資産が約2.3倍になることがわかりました。一方、TOPIXは32.3%、日経平均株価は43.0%と、市場平均を大きく上回っていることがわかります。
2019年版 働きがいのある会社ランキング発表・令和時代における「働きがいのある会社」とは
■業績と人材マネジメントの相関関係

業績と相関の高い人材マネジメントの施策には、以下の6つが挙げられます。

・理念・ビジョンが全社員に浸透、共有されている
・理念・ビジョンと人材マネジメントの方針が揃っている
・意思決定が階層を飛び越えて承認される
・組織をまたいだクロスファンクショナルな仕事が頻繁に発生する
・部門を超えた人事異動が頻繁にある
・知識・情報や成功事例を教えたり聞いたりすることが、日々頻繁に行われている

キーワードは「コミュニケーション」。特に、階層や部署を壁とせず、縦横斜めに意思疎通を図れることが重要だということがわかります。
■人材マネジメント施策の有無と働きがいとの関係

人材マネジメントの施策の有無別に、働きがいに対して肯定的に答えた人の割合を調査した結果が、以下のグラフです。
2019年版 働きがいのある会社ランキング発表・令和時代における「働きがいのある会社」とは
2019年版 働きがいのある会社ランキング発表・令和時代における「働きがいのある会社」とは
ここでも、「各自に与えられた仕事の意義や重要性についての説明」や「従業員の意見の会社経営計画への反映」「提案制度などによる従業員の意見の吸い上げ」など、やはりコミュニケーションが鍵を握っていることがわかります。

1970年代から、ハックマン&オルダムモデルの「仕事のデザイン」の重要性が叫ばれています。このモデルがいう仕事のデザインとは、技能多様性や自律性、フィードバック、仕事の完結性、有意義性を指します。今後は、仕事のデザインを行う際、理念・目的の共有や経営への参画や知の交流といった「コミュニケーションのデザイン」を行うことが、働きがい向上のために必要となるでしょう。理念・目的の共有は有意義性に、経営への参画は自律性に、知の交流は技能多様性、自律性に繋がるものです。
■コールセンターの事例

コールセンターの仕事は、歯車感や孤独感を抱きやすく、ストレスも高い傾向にあります。結果、仕事による満足度を得られにくく、高い離職率に繋がっているのです。このコールセンターの生産性を上げ、離職率を下げた唯一の施策が、チームの休憩時間を揃えることだったという事例があります。

休憩時間を揃えることにより高められたのは、「凝集性」、つまり仲間との信頼構築です。休憩時間を揃えると、その間対応できるスタッフがいなくなるため、デメリットが大きいように思えます。しかし、休憩時間を共にすることで、励ましや孤独感の払しょく、うまくいっていること、いないことの共有が自然と行われるようになるのです。

コールセンターの事例では、生産性が20%向上、離職率が28ポイントダウンする結果が出ています。労働時間の削減を目指しながら、働きがいを高めることは、全体の効率向上にも繋がることなのです。

これからの「働きがいのある会社」 ~令和時代における働きがいのヒント~ [Great Place to WorkR Institute Japan 代表取締役社長・岡元利奈子氏]

少子高齢化による労働人口減少という背景があるなか、女性やシニア、外国人といった多様な人たちが占める割合がおのずと増加しています。こうした変化を受けて、これからの時代の人材マネジメントには、今までとは異なる視点が必要となるでしょう。

こうした時代背景を受け、「働きがいのある会社」の観点も時代に合わせた新モデルに変えていく必要があるといえます。これまでは、「信頼」を高める「信用」「尊重」「公正」「誇り」「連帯感」の5つの要素を基にしたモデルにより、働きがいのある会社かどうかを調査、ランキング発表を行ってきました。

今後の「働きがいのある会社」は、信頼をベースとした「全員型」が定義となります。従来モデルを土台としたうえで、一人ひとりの能力が最大限に活かされている会社が、これからの「働きがいのある会社」のモデルです。
これからの働きがいのある会社は、従来の5要素に加え、「信頼」「人の潜在能力の最大化」「価値観」「リーダーシップの有効性」「イノベーション」「財務的成長」の6つの尺度が揃っていることが求められるでしょう。

すでにアメリカでは新基準での調査・発表が行われており、新旧モデルで比較したところ、新モデルの方が株価の伸び率が顕著に見られるという結果が出ています。日本でも、2021年のランキングより、この新基準による評価、ランキング発表を行います。

どの会社も「働きがいのある会社」を必ず実現できると考え、GPTWは今後もビジョンの実現にさらに力を入れていきます。

2019年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング

2019年版のランキングは、企業規模に応じた3部門に加え、女性従業員のアンケート結果を踏まえて算出した「女性ランキング」部門の計4部門が発表された。

〇大規模部門(従業員1,000人以上)
1:セールスフォース・ドットコム
2:Plan・Do・See
3:ディスコ
4:アメリカン・エキスプレス
5:プルデンシャル生命保険

〇中規模部門(従業員100~999人)
1:コンカー
2:サイボウズ
3:バリューマネジメント
4:freee
5:武蔵コーポレーション

〇小規模部門(従業員25~99人)
1:アトラエ
2:and factory
3:GRIT(現在はPROGRITに社名変更)
4:イグニション・ポイントグループ
5:iYell

〇女性社員によるランキング各部門トップ1
大規模部門:Plan・Do・See
中規模部門:コンカー
小規模部門:Meltwater Japan