経営・ビジネスの課題解決メディア「経営プロ」

特別読み切り

<経営理念>と<経営実態>の乖離に要注意。組織風土を左右する「暗黙の価値観」とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

リーダーの一挙一動が「暗黙の価値観」を形成する

職場に「暗黙の価値観」が根付く代表的なケースは、リーダーの「個人的価値観(パーソナル・バリュー)」が経営理念とは相違する場合である。

例えば、リーダーが「仕事では失敗を犯すべきではない」という強い思いを抱いている場合には、前述の(1)のケースのように「なぜ、このような失敗をしたのか?」と部下を詰問するケースも出てくるであろう。「仕事とは定められた業務を確実にこなすものである」という信念を持つリーダーであれば、前述の(2)のように、部下の新しい提案に否定的な態度を取るかもしれない。

このような「個人的価値観」に基づく部下対応が繰り返されると、そうしたリーダーの価値観がやがて集団を統制する「暗黙の価値観」となる。その結果、「暗黙の価値観」を基礎とする組織風土・企業文化が形成されることになるのである。

なお、前述の(3)のような「苦々しい表情を浮かべる」などのわずかな変化も、部下にはリーダーの「個人的価値観」を示すシグナルとして受け止められがちである。そのため、上司の日々の行動が無言のメッセージとなって部下に送られ続けた結果、やがて部下は上司の価値観に沿った行動ばかりを取るようになる。つまり、リーダーの一挙一動が組織内に「暗黙の価値観」を醸成するわけである。

<理念>と<制度>の不整合も「暗黙の価値観」の原因に

職場に「暗黙の価値観」が根付くもうひとつのケースは、企業内に経営理念とは整合性の取れない制度やルールが存在する場合である。

例えば、前述の(4)のように、人事評価制度の中に「挑戦をして失敗をした人材」よりも「挑戦をせずに失敗をしない人材」に高評価を与える指標があり、さらには人事評価の結果が給与制度や報酬制度と連動しているようなケースである。このような企業では、どんなに経営理念で「チャレンジ精神」をうたっていても、挑戦をせずに失敗をしないほうが高評価・高報酬になるのだから、「チャレンジ精神」にあふれた業務遂行など望むべくもない。

組織活動を統制するために設けられる各種制度・ルールは、“社員に対するメッセージ”の機能を持つ。上記のような人事制度を設けていれば、それは企業側が「失敗をしないこと」や「新しい挑戦をしないこと」を奨励していると、社員に示すメッセージとなる。そのため、制度内容が「暗黙の価値観」を醸成し、職場に根付いて組織風土・企業文化の基礎を構築することもあるのだ。

経営理念は容易に「暗黙の価値観」に負けてしまうため、職場への経営理念の浸透は、極めて難易度の高い業務である。本稿を読んだ皆さんも、自社に経営理念と相反する「暗黙の価値観」が存在しないか、振り返ってみていただきたい。

お気に入りに登録

プロフィール

コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬(監修者)

コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬(監修者)

組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士
中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。
コンサルティングハウス プライオ

関連記事

会員登録 / ログイン

会員登録すると会員限定機能や各種特典がご利用いただけます。 新規会員登録

会員ログインの方はこちら