経営・ビジネスの課題解決メディア「経営プロ」

おススメ書籍

猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(山本 葉子 著、松村 徹 著/光文社新書)

 本書は行政からから猫を引取り、東京の大塚・西国分寺の猫カフェ型開放型シェルターを拠点に、4千頭以上の猫を里親に譲渡してきたNPO法人「東京キャットガーディアン」代表の山本葉子氏とニッセイ基礎研究所 不動産投資チームの松村徹氏が「不幸な猫を1頭でも多く救いたい」という思いから共同で書き上げたものだ。

 まず、『第1章 忘れられない猫レスキューあれこれ』では、著者にとって忘れられない猫の飼い主とのエピソードが綴られている。特に末期がんで余命3ヵ月と診断された30代後半と思われる女性経営者との交流を描いた「猫のような人」は、途中で本を閉じて涙せずにはいられないほど、感動と切なさに満ちている。

 『第2章 猫カフェ型のシェルターはこうして生まれた』では、東京キャットガーディアンの成り立ちから活動を詳しく紹介している。2013年度に全国の行政で処分された猫は約10万頭、猫は犬に比べて返還・譲渡の割合が低いのが特徴で、8割以上が殺処分されている。しかも、行政の保護施設に持ち込む人の2割が飼い主自身だという。著者はペット流通問題を俯瞰して、殺処分ゼロ達成のために足りないのは、「愛情ではなくシステム」だと主張する。

 『第3章 猫と暮らす住まいの理想と現実』では、譲渡の大きな阻害要因の一つが、猫飼育可能な賃貸物件が非常に少ないことにあると指摘。その背景には大家の猫の飼育に対する誤解や偏見があるという。だが、賃貸住宅の空室率は年々上がっており、ペット可は入居者へのアピールになる。本章では猫好きの大家が建てた猫専用アパートや猫仕様のリフォームについて紹介。人と猫が共に幸せに暮らせる理想的な猫ウェルカムの内装・設備・サービスについて考察している。

 『第4章 保護猫付き住宅を全国に』では、引き取り手の少ない成猫の保護場所と譲渡機会を増やすために考案された「猫付きマンション」、「猫付きシェアハウス」の仕組みや、「ひとつ場所が空けばひとつ命が救える」との理念のもと、物件数を大きく増やすためのフランチャイズの立ち上げについて紹介している。「猫付き」住宅に対する不動産会社やマンション投資家、大家の関心は高く、東京キャットガーディアンではこのような層を対象に勉強会も開催している。

 最後の『第5章 これからの保護活動を考える』では、(1)保護と譲渡の効率を高める、(2)不動産ビジネスともっとコラボする、(3)高齢社会向けサービスを開発する、(4)ソーシャルビジネスを進化させる、(5)保護行政における民間領域を広げる、という東京キャットガーディアンの5つの方向性を提示している。一時の同情や寄付だけに頼るのではなく、シェルターでの飼育や医療費にかかる費用をビジネスが生み出す利益で賄えるようにしなければ、保護活動を継続することはできない。そのためには、事業戦略と優れた経営手腕が必要とされるのだ。

 巻末には著者二人による特別対談「不動産から考える保護猫活動」を掲載。また、「あとがき」で、本書執筆中に出会った事業家の梅田誠さんとのエピソードが紹介されている。末期のすい臓がんで余命数ヶ月となった梅田さんは、猫のために建てた家と全財産を寄付し、著者に猫の里親探しを「ビジネスの手法で解決しろ」と遺言書を託したという。どんな飼い主も猫より長く生きられるという保証はなく、時には引き裂かれる思いのなかで次の飼い主を探さなければならない猫に限らず、伴侶動物との共生について、深く考えさせられる1冊である。
『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(山本 葉子 著、松村 徹 著/光文社新書)

お気に入りに登録

プロフィール

 経営プロ編集部

経営プロ編集部

経営者・事業部門責任者から部長・課長・リーダー層まで、経営の根幹を支える人たちの成長を支援するパートナーメディアを目指します。日々の業務に役立つニュースや小ネタ、組織強化や経営理論まで幅広く学べる記事を提供します。

関連記事

会員登録 / ログイン

会員登録すると会員限定機能や各種特典がご利用いただけます。 新規会員登録

会員ログインの方はこちら