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帳簿の世界史

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『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著,村井 章子 翻訳/文藝春秋)

 本書は帳簿の誕生からルネッサンス時代のイタリア商人による複式簿記の発明、中世のヨーロッパや建国時のアメリカで簿記が果たした役割から大恐慌とリーマンショックに至るまで、世界史を簿記を中心に読み解いたものである。『帳簿の世界史』というタイトルから、「地味でつまらなそう」「自分には縁がない」と思われるかもしれないが、これが滅法面白いのである。
 特に興味深いのが『第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問』だ。「朕は国家なり」で知られるルイ14世を支えたのは会計顧問のコルベールであった。コルベールは会計を容赦なく政治の武器に使い、政敵フーケを排除した冷酷な男だったが、一方で複式簿記に精通し、フランスの財政再建に奮闘した。ルイ14世に「イタリア式会計の基本」を教え、ルイ14世は意外にも簿記を進んで勉強し、毎日2時間も財務報告に目を通したと言う。更に、ポケットにコルベールが発明したミニ帳簿を入れて常に持ち歩いていた。ところが、財務総監となったコルベールが、ベルサイユ宮殿の建設やオランダとの戦争で国庫が空になると苦言を呈するようになると、ルイ14世は次第にコルベールをうとましく思うようになる。そしてコルベールの急死をきっかけに執務室を閉鎖し、情報を遮断して、赤字の帳簿を見るよりも、大臣同士を反目させ、好きなように操る政治をする道を選んだ。そして、ルイ14世が死去する頃にはフランス国家は破綻していた。
 一方、君主にとって会計の透明性は危険でもある。ルイ16世が断頭台に送られた一因は、財務長官ネッケルが王家の収支と王国の危機的財政を白日の下のさらしたことだった。そう、会計士によって国は興り、会計士によって国は滅びるのだ。
「権力とは財布を握っていることである」とは、アメリカ合衆国の初代財務長官で建国の父たちの一人、アレクサンダー・ハミルトンの言葉である。だが、権力を握り続けるためには、『第2章 イタリア商人の「富と罰」』で登場する14世紀のジェノバ商人ダティーニのように、強固な意志と経営規律であらゆるお金の出入りを几帳面かつ誠実に記帳しなければならない。ダティーニが豪奢な生活に溺れず、昼夜を分かたぬ労働をやり続けられたのは、複式簿記が事業を正確に把握して運営するための基礎的なツールであることを理解していたからだ。13章構成だが、どの章のエピソードも示唆に富み興味深い。経営幹部や経営者にこそ手にとってもらいたい良書である。
『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著,村井 章子 翻訳/文藝春秋)

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