『ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ』(井上達彦 著/日経BP社)
本書は、ケーススタディのお手本として世界で最も権威のあるマネジメントの学会、アカデミー・オブ・マネジメントが選出した「最優秀論文」5本に、ケーススタディとは何かを解説した1章を加えたケーススタディの教科書である。最優秀論文は、年間約1000本ある投稿論文の中から選ばれたベスト論文で、いわばマネジメント研究のアカデミー賞のようなものだ。
英語では、やっても無駄なことを言い表すとき「黒い白鳥を探すようなものだ」と言う。すなわち、表題のブラックスワンとは「あり得ないもの」の代名詞だ。しかし世界に一匹、それがいることが証明されれば、人は考えを改めざるを得ない。実際、オーストラリアにブラックスワンは生息していたし、アメリカで起こった9.11のテロも、東日本大震災で引き起こされた福島の原発事故もブラックスワンだ。ビジネスの世界にも同様のものがいくらでもある。本書の事例研究はいずれも、そのような「逸脱」した事例を扱っている。
特に第2章の「凋落した教会で起きた『例外的な再生劇』」が興味深い。治安の悪化によって、富裕層が町の中心からら郊外に移転してしまったことで凋落した教会が、ホームレスに朝食を提供したことをきっかけに、小さな変化が次々と起こり、市民から頼りにされる教会へと再生する事例が分析されている。このケースは「小さな変化が積み重なるだけでは、『抜本的な変化(完全なる変容)』には至らない」という通説を覆すものだ。朝食の提供を発案したのは牧師夫妻でもリーダー格の役員でもなく、若者たちで、そこにとりたててビジョンはなかった。その次に始まった医師による診察も、ホームレスに2万食を提供するデイセンターの設立も、ロードマップは描かれていなかった。誰かが強力なリーダーシップ発揮したわけではなかったが、それでも一つのアクションから様々な変化が起こって増幅し、教会の在り方を抜本的に変えてしまったのだ。
著者によれば、ケーススタディの3つの力とは、①人間の知性を活発にする力(思考力と観察力との親和性)、②複雑な現象へ対応する力(因果関係を読み解く力)、③「アナロジー・ベース」で将来を切り開く力(前例が少なくても有効な仮説を導く)だと言う。
5つの事例は、通説とは異なる見解を提示したり、対立する見解を統合させたり、 意外な実態を明らかにしたり、あるいは不思議の発生メカニズムを解明したりしている。読み手はそこから、物事の分析の仕方や危機に対する身の処し方、 「こうすればよかったのか」「気をつけないといけない」といった多くの示唆を得ることだろう。
英語では、やっても無駄なことを言い表すとき「黒い白鳥を探すようなものだ」と言う。すなわち、表題のブラックスワンとは「あり得ないもの」の代名詞だ。しかし世界に一匹、それがいることが証明されれば、人は考えを改めざるを得ない。実際、オーストラリアにブラックスワンは生息していたし、アメリカで起こった9.11のテロも、東日本大震災で引き起こされた福島の原発事故もブラックスワンだ。ビジネスの世界にも同様のものがいくらでもある。本書の事例研究はいずれも、そのような「逸脱」した事例を扱っている。
特に第2章の「凋落した教会で起きた『例外的な再生劇』」が興味深い。治安の悪化によって、富裕層が町の中心からら郊外に移転してしまったことで凋落した教会が、ホームレスに朝食を提供したことをきっかけに、小さな変化が次々と起こり、市民から頼りにされる教会へと再生する事例が分析されている。このケースは「小さな変化が積み重なるだけでは、『抜本的な変化(完全なる変容)』には至らない」という通説を覆すものだ。朝食の提供を発案したのは牧師夫妻でもリーダー格の役員でもなく、若者たちで、そこにとりたててビジョンはなかった。その次に始まった医師による診察も、ホームレスに2万食を提供するデイセンターの設立も、ロードマップは描かれていなかった。誰かが強力なリーダーシップ発揮したわけではなかったが、それでも一つのアクションから様々な変化が起こって増幅し、教会の在り方を抜本的に変えてしまったのだ。
著者によれば、ケーススタディの3つの力とは、①人間の知性を活発にする力(思考力と観察力との親和性)、②複雑な現象へ対応する力(因果関係を読み解く力)、③「アナロジー・ベース」で将来を切り開く力(前例が少なくても有効な仮説を導く)だと言う。
5つの事例は、通説とは異なる見解を提示したり、対立する見解を統合させたり、 意外な実態を明らかにしたり、あるいは不思議の発生メカニズムを解明したりしている。読み手はそこから、物事の分析の仕方や危機に対する身の処し方、 「こうすればよかったのか」「気をつけないといけない」といった多くの示唆を得ることだろう。

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