「人事制度」や「賃金制度」で差別化を図り、創業時の壁を乗り越える(ビズメイツ株式会社)

起業には、様々な壁がある。特に直後は資金や社会的な信用が乏しく、社員や顧客は少ないために安定した業績をあげるのが難しい。経営を安定化させるためには、売上を軌道に乗せる顧客や販売先を開拓しなければいけないのだが、容易なことではない。それができないために、資金ショートに陥る企業もある。金融機関から融資を受けるが、返済の目途がつかずに廃業や倒産、慢性的な経営難の憂き目に遭う。このような苦境やハンディを乗り越えるために、独自の経営手法で差別化を図り、顧客を獲得し、短い期間で業績を上昇させることが創業者には強く求められる。

今回のリーダー:ビズメイツ株式会社 代表取締役社長 鈴木 伸明氏

起業には、様々な壁がある。特に直後は資金や社会的な信用が乏しく、社員や顧客は少ないために安定した業績をあげるのが難しい。経営を安定化させるためには、売上を軌道に乗せる顧客や販売先を開拓しなければいけないのだが、容易なことではない。それができないために、資金ショートに陥る企業もある。金融機関から融資を受けるが、返済の目途がつかずに廃業や倒産、慢性的な経営難の憂き目に遭う。このような苦境やハンディを乗り越えるために、独自の経営手法で差別化を図り、顧客を獲得し、短い期間で業績を上昇させることが創業者には強く求められる。今回は、ビジネス英語に特化したオンライン英会話スクールを展開する、ビズメイツ株式会社の鈴木伸明代表取締役社長にインタビューを試みた。2012年の創業時から「質の高い講義の提供」をポリシーとしてきた。それを可能にしたのが、優秀な講師陣である。労働条件や就労環境を整備し、魅力を感じた多くのフィリンピン人がエントリーする仕組みを構築。厳格な審査で採用し、講師を育成してきた。今回は、「人事制度」や「賃金制度」で差別化を図り、創業時の壁を乗り越えたリーダーの一手を取り上げる。

リーダープロフィール
鈴木 伸明(すずき のぶあき)

2000年に青山学院大学経済学部を卒業し、金融会社に就職。管理本部、業務部、支店勤務を経て、社長直轄の部署に配属。2007年、30歳の時にヤフーへ転職。モバイル事業部、R&D統括本部を経て、2009年、32歳で外国語学校の運営や留学、語学に関わるサービスをするベルリッツ・ジャパンに転職。その3年後の2012年にビズメイツを4人で創業した。

後発のハンディを乗り越える取り組みとは

ビジネス英語や日常英会話、大学受験やTOEIC、英検対策など様々な分野でオンライン英会話スクールを運営する企業が増えている。背景には、企業や学校でグローバルな人材の育成が改めて注目されていることがある。また、通学を必要とする英会話学校よりも総じて学費が安いこと、さらにスカイプやZoomなどのオンラインツールが日常生活に浸透したことがある。

ビズメイツが創業した当時は、オンライン英会話スクールを運営する数ある企業の中で、ビジネス英語に特化しているのは数社だった。鈴木社長は創業時からフィリピンの首都・マニラ市に現地子会社を構えることを決めた。社長は自社が後発であることを心得ていたため、差別化を図ることに特に力を注いだ。

その1つが、「優秀な講師の採用や定着、育成」だ。現地子会社でフィリピン人を厳格な審査のうえ雇用し、実践的な英語をオンラインで日本人に教える態勢を作った。創業当時は、他社のオンライン英会話スクールは、日本に滞在の英語圏の外国人が講師になるケースが多かった。

「創業時は業界を問わず、ほとんどの会社が大きな壁にぶつかると思うのですが、私にはアドバンテージがありました。英会話スクールのベルリッツ・ジャパンに勤務している頃に、社長直属の部署で事業や人事のあり方などマネジメントを広く深く学んでいたのです。そのため、業界についてある程度は把握できていました。自分だったらこんなサービスを展開しようと常に考えてきました。そのプランを具体化し、ビズメイツを起業したのです」(鈴木 伸明代表取締役社長)

フィリピンに目をつけたのは、ベルリッツ・ジャパンに勤務していた時だった。フィリピンには、80前後の言語がある。公用語として英語も使われているため、流暢に英語を話すフィリピン人は多い。政界や経済界には親日家が多く、多数の日本や欧米の企業が進出している。現地の日本企業に長年勤務し、日本のビジネスや商習慣に深く精通しているフィリピン人が多いことを鈴木社長は心得ていた。

創業前の現地の視察では、オンライン英会話スクールの講師を採用する環境が整っていることを確信した。「当社の採用試験にエントリーする人の多くは、自宅にいながら英語を教える就労スタイル(在宅勤務)に魅力を感じているようでした。マニラ市内でも交通の便が十分に発達していないのです。私たちが後発であろうとも早いうちに取り戻し、むしろ、先を走ることができるのではないかと思いました」(鈴木社長)
「人事制度」や「賃金制度」で差別化を図り、創業時の壁を乗り越える(ビズメイツ株式会社)

講師の厳格な採用と念入りな育成

講師は現在、フィリピン人を中心に約1500人が在籍している。多くは一定の学歴や教養があり、高い英語力を身につけ、ビジネス経験が豊富な人材である。創業時から現在に至るまで、講師として採用されるのはエントリー者の約1%。実に狭き門と言える。最近では、TOEIC990点の元教師や、日本の大手メーカーの現地(マニラ)法人でセールスやマーケティングに22年関わったコンサルタントなどが採用されている。

採用試験はまず、エントリー者がWebサイトからキャリアシートを送り、英語力を測る試験を受ける。キャリアと英語力の双方には一定の基準を設けており、キャリアを確認するうえで特に重きを置くのは次の2つだ。1つは、英語力や豊富なビジネス経験があるか否か、もう1つは生徒に教える際にビズメイツのメソッドを受け入れることができるか。

選考にパスすると、現地子会社のマネージャー数人による面接試験を受ける。基本的にはオンラインで面接を行い、主に英語力、ビジネス経験の内容を重点的に確認する。サービス業に携わるうえでのホスピタリティーの姿勢や考えがあるか否かも見極める。

これらにパスすると、創業メンバーも制作の過程に参加しているトレー二ングビデオを観て、生徒に教える際のマナーや方法を学習する。これをもとに実際の講義を想定しながら、「デモレッスン」をマネージャーの前で行う。これにパスすると、正式な採用となる。

講師を選ぶ試験内容、基準やプロセスは本社のスタッフが現地子会社のマネージャーとオンラインツールで頻繁に話し合い、改良を重ねてきた。定期的に本社から鈴木社長や経営層が現地子会社を訪問し、マネージャーと直接向き合い、話し合うことも繰り返してきた。
「人事制度」や「賃金制度」で差別化を図り、創業時の壁を乗り越える(ビズメイツ株式会社)

実績に応じた昇給や親睦会の開催など、労働条件や就労環境を整備

社長が創業時から細心の注意を払うのが、講師との労働契約を始めとした労務管理だ。講師全員を時給制とし、生徒からの指名が多い人気講師になると、審査を経て時給が上がるシステムを構築した。同社が支払う賃金は、フィリピンにおける「在宅勤務」の相場からすると高いそうだ。

フィリピンでは賃金は月2回に分けて支給する必要があるが、様々な事情で支払いが遅れる企業もある。そこで、当初から支給日の厳守を現地子会社に徹底させてきた。良質な講義を提供する講師陣との信頼関係の維持を重視しているためだ。これらの賃金制度や支給の方法はフィリピンの弁護士をはじめ、人事労務の専門家に確認して決めたという。

社長は、労使間の後々の誤解を未然に防ぐために力を注ぐ。例えば、賃金をはじめとした契約などのデリケートな問題や、経営に関することで微妙なニュアンスを、現地子会社のマネージャーなどのスタッフや講師に伝える場合だ。この際は、現地子会社の社長も兼務し、英語ネイティブであるカナダ人の創業メンバーに依頼する。

「グローバル展開する際、現地の外国人と契約締結する場合があります。その時、私の思いの微妙なところまでを汲み取り、的確に通訳をしてくれる存在が必要です。このワンクッションがあるか否かで、コミュニケーションの質が大きく変わります」(鈴木社長)

労働契約の締結時には、講師となる外国人に対して、人事担当のマネージャーが契約内容について丁寧な説明をする。特に力を入れるのが、制度の背景やそれを設けた理由やいきさつだ。客観的かつ具体的な事実を示すことで、理解を得るようにしている。制度を変更するときにも、理由や背景を丁寧に説明する。「相手は理解してくれている」という思い込みを捨てることを大切にしている。

また、講師たちとの親睦を深めるために、年に1回、マニラ市で全講師の約3分の1が集う親睦会を開催する(2020年度はコロナ禍で開催見送り)。日本からは、社長や役員、社員が参加し、日本人の生徒の喜びの声を講師に直接伝える。本社では、講義についてのアンケート調査を生徒に対し、頻繁に行っている。本社で結果を一括管理し、教材制作などに活用しているが、親睦会の機会を利用して講師にも伝えるようにしている。

「在宅勤務をしていると、自分の講義の反応を直接知る機会が少ないのです。生徒の喜びを講師とシェアする機会が増えれば、講師のモチベーションアップにつながります」(鈴木社長)

今では、会社員や学生などの個人はもちろん、企業や団体の契約も500社を超えるようになった。2020年にはオリコン顧客満足度(R)調査で、オンライン英会話講師部門の第1位を獲得している。

今回の事例は、創業時の壁を乗り越えるためのヒントが多く詰まっている。同社は後発でありながら、競合優位性を築くために、現地の労働環境を調査し、人材や育成面に注力した。海外進出をする場合、日本人を雇うよりは現地の外国人を採用するほうがコスト削減になることがよく言われる。しかし、労働条件や就労環境を整備することはつい見落とされがちではないだろうか。この取り組みは、国際競争が求められる事業展開の参考にもなるだろう。親睦会を開催し、日本の生徒からの反響を伝える施策も見逃せない。鈴木社長らが働きやすい環境を着実に構築し、講師のエンゲージメントも高めた結果が、ビズメイツの躍進につながっているのだろう
「人事制度」や「賃金制度」で差別化を図り、創業時の壁を乗り越える(ビズメイツ株式会社)