第19回:組織において「プレイングマネジャー」よりも「プロジェクトマネジャー」を育成すべき理由

あらゆるマネジメントの現場において、旧来型の組織ピラミッドを統べる管理監督者ではなく、「プレイングマネジャー」が好まれ、求められるようになっています。いまや指示を出すだけのマネジメントは好まれません。しかしながら、組織マネジメント力が必要なくなったのかといえばそうではなく、これまで以上に部下を動機付け、動かす力が求められています。そうした難しい時代において、企業ではどのようなタイプの幹部を育成すべきなのでしょうか。今回は、現代に好まれている「プレイングマネジャー」よりも「プロジェクトマネジャー」を育成すべき理由をお話しします。

組織は「ピラミッド型」から「フラット型」、「プロジェクト型」へ

そもそも、近年の“組織構造の変化”については、既に多くの皆さんが体感していることでしょう。21世紀に入って以降、およそ20年でのネット社会の進展、およびグローバル化に伴って、企業や事業、組織に求められるスピードは加速度的に増すばかりです。

このスピードに対応すべく、組織は「ピラミッド型」から「フラット型」や「プロジェクト型」へ移行してきています。固定的な役割を上意下達式ではっきりと組み、それを徹底遵守して動くというのが昭和までの組織構成でした。しかし平成の30年をかけて、組織では階層を減らしてトップと現場の距離を極力近づけ、またその時々の事業や業務に臨機応変に対応すべくプロジェクト型でチームを編成して事に当たるスタイルが、特に変化を拒まない企業を中心に浸透してきました。

こうした組織構造の変化にともない、従業員一人ひとりに求められる役割のあり方も変化してきています。職務専門性が個人の人材価値として大事なものであることは今後も変わりませんが、職務の割り当て(アサインメント)については、明らかに“職能ありき”から、“パーパス(目的)・テーマありき”へと変わりつつあります。

ひと昔前からダメな転職自己PRの例として「部長ができます」といった文句が語り継がれてきている通り、役職でその人の仕事力やリーダーシップ、マネジメント力は語り得ません。しかし、「経理部長ができます」、「人事マネジャーをやりたいです」といった、“職能+肩書き”の形の自己PRについても、近しいニュアンスになっていることを感じます。

現代では、企業からの「あなたはこのチームのこの役割について、○○の貢献ができると思いますか?」という問いに対し、「私はこのチームのこのテーマ・課題について、このような経験・スキル・専門知識(あるいは情熱)を持って貢献できます」といったメッセージ型の職務参画プランを提示できるか否かが、特にリーダークラスやマネジメントクラス以上においては非常に重要な人材評価ポイントとなっています。

「マルチキャリア」、「越境人材」、「学び直し力」こそ、今後のミドル・シニアの強みに

上記のような、時代の加速度な変化や、「人生100年時代」と言われるような就労寿命の延長によって、私たちはもはや一つの仕事、一つの専門性、一つの職種で仕事人生を全うすることができなくなりました。これまでも、イノベーションによって消えてしまう職種などがありましたが、これからは更にそういった変化が同時多発的に起こるでしょう。また消えない職種でも、新たな技術やルールにキャッチアップしていくために付加的な学習を求められる機会が増えるでしょう。

組織の変化に伴い、個人においても多様性や複数の専門性を持ち、並行して複数のチームに参画することや、複数の専門性の掛け算で新しい価値を生み出すようなことが求められ始めています。マルチキャリアを築くことや、越境型人材であることが生き残れる条件となり、アドバンテージにもなる時代が到来しているのです。

デザイン・イノベーション・ファーム「Takram(タクラム)」の代表取締役・田川欣哉氏は、越境人材の要件として「BTC型人材」というものを提唱しています。「B」はビジネス、「T」はテクノロジー、「C」はクリエイティブ。この3要素を掛けあわせた領域に、新しい職種が存在していることが多くあります。

昨今、「ティール型組織」や「DAO」といった、自律分散型組織への注目も高まりました。ただ、これについて筆者自身は、捉え方の誤解や、組織のサイズ・単位との不整合も多く見られる議論になっていると見ており、危険性を感じています。簡単に言えば、「ティール型組織」や「DAO」が機能するのは、少人数のプロジェクトテーマ型集団や、一般企業においてはチーム単位でのみであり、それ以上の規模の組織には機能しないということです。

「フラット型組織」といっても、一定の規模以上の企業においては、組織を率いるリーダーは必須です。ここを捉え違いしないようにしなければ、「ティール型組織」や「DAO」を導入した企業は早々に組織崩壊を起こしかねないでしょう。

「組織マネジメント経験」と「プレイング経験」を語れる幹部にする

ここまでの話から言えることは、これからの時代においては、「チームに対しフレキシブルに参画・編成・リードできる人材」や、「複数のチームに同時並行で参画できる人材」にアドバンテージがあるということです。要するに、「プロジェクトマネジャー型」の人材がこれからの時代や環境に対応しやすく、バリューを出せるリーダー人材なのです。さらに言えば、「プレイングマネジャー人材」は、「プロジェクトマネジャー人材」が編成するチームの中で活用されるメンバーのうちのひとりという位置付けになるでしょう。

御社においても、できれば全社的に、この「プロジェクトマネジャー型」の人材をマネジメントクラス中心に育成していくことが望ましいでしょう。その観点で、対象者には以下のような意識づけ・コミュニケーションを図るべきだと言えます。

(1)あなたはどのような職務上のテーマ、想いを持っているのか

(2)それを裏付ける、あるいはそれに至った変遷を説明する過去の経験や実績を、プロジェクトとして捉えて棚卸しし、言語化する

(3)今どのようなことに関して評価を受けていて、自身としてどのようなことをしたいのか


上記の3点を、(1)~(3)の順に常に明快にプレゼンテーションできる幹部に育成しましょう。御社において組織リーダーとして活躍してほしいマネジメント職の皆さんに対し、この3点を踏まえつつ、組織マネジメントの経験や、今後どのような組織マネジメントをしたいのか、加えてプレイングの経験や、今後どのような実業務を担いたいかについて言及してもらうようにしてください。

ちなみに、上記の(1)~(3)はそれぞれ、「(1)=未来」、「(2)=過去」、「(3)=現在」を表しています。御社のマネジメント各位、あるいは社員全般の日々のコミュニケーションの中に、「未来」(テーマ、想い)→「過去」(プロジェクト実績)→「現在」(何を評価されていて、何をしたい人なのか)が見えるでしょうか? まずは御社の幹部各位において、この部分をしっかり話せるようにナビゲートすれば、その幹部が御社で優れたプロジェクトマネジメント力を発揮してくれることは間違いありません。