第18回:自社の経営幹部を、やる気に溢れた“燃える集団”を作る「コミットメント・プロデューサー」にする方法

新年度が始まり、各企業の経営幹部の皆さんも、本年度のチーム目標達成のためにメンバーのやる気や達成意欲をどう高めていこうかと考えながらマネジメントにあたっていることと思います。新入社員や若手中途社員の受け入れもあり、そのオンボーディングなどにも気を遣っていらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、部下たちを「やります!」という気持ちにさせるために、上司ができるアプローチをお伝えしたいと思います。

“上司受難の時代”におけるマネジメントの難しさ

Z世代の受け入れや動機付けについては、それに悩む上司の皆さんの話がメディアでもよく取り上げられています。心理的安全性が喧伝され、指導とパワハラの境界線に悩み、「厳しいマネジメント」ができなくなっている上司層。かと思えば、入社した会社が優しいばかりでストレッチな成長を求められない「ぬるい職場」だったと、早々に転職していく新入社員や若手中途社員も。“上司受難の時代”とも言えるかもしれません。

さて、そのような中で経営幹部・上司各位は、どのように部門・部署・チームのメンバーのやる気や達成意欲を高めていけばよいのでしょうか。

やる気には、「モチベーション」と「コミットメント」の2つがあります。分かりやすく言えば、モチベーションとは「やりたい!」、コミットメントとは「やります!」という気持ちのことです。もちろんメンバーたちのモチベーションは高いことが望ましいですが、こと目標達成に関して言えば、経営幹部や各部・各課の上司としては、部下たちのコミットメントの方こそ高めたいと思うものですよね。

ここから、コミットメントの高い組織を作るためのアプローチをご紹介します。部下の“やる気”問題に直面している経営者・経営幹部のみなさんにぜひ参考にしていただき、御社のマネジメント各位に導入いただければと思います。

3つのアプローチで“部下の主体性”を刺激

まず大前提としてお伝えしたいのは、部下たちの「やりたい!」という気持ちと「やります!」という気持ちは別物だということです。

読者の皆さんの中には、今までこの2つを一緒と捉えていた方もいるかもしれません。しかし、「やります」と言っていても「やりたい」とは思っていなかったり(目標設定会議や営業会議でこのような場面があるでしょう)、「やりたい」と思っていても、何を「やります」なのかが曖昧なままであることも少なくありませんよね。

「やります!」という言葉からも分かる通り、コミットメントとは「主体的関わり」を意味します。では、そもそも人の「主体的な関わり」は、どのような気持ちから生まれるのでしょうか。これに関して、なるほどと思う心理学理論があります。組織心理学者のジョン・マイヤーとナタリー・アレンによる、『組織コミットメントの3分類』です。彼らによれば、コミットメントには次の3種類があるといいます。

「情緒的コミットメント」:組織に対する愛着や一体感があるのでコミットする=「情」
「継続的コミットメント」:組織を辞めてしまうと損するのでコミットする=「利」
「規範的コミットメント」:組織にはそもそもコミットすべきなのでコミットする=「義」


上記の3分類については、結婚でたとえてみると分かりやすいかもしれません。それぞれ、「好きだから一緒にいる(情)」、「便利だし、今さら他の人を探すのも面倒(利)」、「添い遂げるのが夫婦というものだ(義)」といった考え方です。

仕事で言えば、「会社がそこそこ好き(情)」で、「仕事には責任を持つべきだと思っている(義)」が、実際のところ「いま転職しても得策ではないという計算もある(利)」などというのが、多くの人たちが持つ感情ではないかと思います。

上司としては、組織へ関わる動機を持つメンバーたちに対して、誰がどのタイプかを見分けることも大事な仕事です。「我々はこれを成し遂げるのだ」という大義名分(義)をかかげ、部下たちの「この上司のために、このチームで達成したい」という気持ち(情)に訴え、「達成したら○○が手に入るぞ(利)」などと働きかけて、チームの各メンバーを動かすことができるような「コミットメント・プロデューサー」でありたいものです。

チームを「熱く燃える集団」にする方法

先に挙げたものは少し冷静なコミットメント強化策でしたが、情熱に溢れる経営トップ、経営幹部、各部・各課の上司の皆さんには、下記の理論の方がお好みかもしれません。

冒頭で「モチベーション」と「コミットメント」について触れましたが、これが渾然一体となっている状態もあります。ひょっとすると、その状態である場合の方が多いかもしれません。

それは、いわゆる「フロー状態」にあるようなときです。フロー状態とは、時間を忘れて没入している、高揚感を持って仕事にあたっている状態を指しますが(「ゾーンに入る」とも言いますね)、そのようなときに個々人やチームのコミットメントは最高潮に達しています。元ソニー上席常務で、犬型ロボット「AIBO」の開発を主導した天外伺朗(てんげしろう)さん(本名:土井利忠さん)は、この状態のチームを「燃える集団」と命名し、その再現について研究・実践支援しています。

組織パフォーマンスの研究家、ジョン・カッツェンバックによれば、「燃える集団」(フロー状態)に到達するには5つの道があると言います。

【“ゾーンに入る”ための5つの道】
1.ミッションや価値観に強く共感し誇りを持つこと
2.キーとなる業績数値を綿密に「見える化」すること
3.メンバーが独立心のあるアントレプレナーシップを持つこと
4.「世界レベルの人材」を惹きつけること
5.メンバーを認知し徹底的に称賛すること


どのパスからでも「燃える集団」になり得るとカッツェンバックは言います。しかし筆者自身の経験からすると、どれかひとつだけよりも、幾つかの要素(3つか4つ)が重なった場合に、あるとき気がつくとフロー状態に入っているように思います。

いずれにしても、上司がチームのコミットメントを高めていく鍵は、部下たちの燃える思いを引き出して本気にさせることに尽きるでしょう。

コミットメントには互酬的な性質があります。他のメンバーが本気で仕事にコミットしていると、「自分もやってやろうじゃないか」と、別のメンバーたちへ相乗効果的にコミットメントが高まる連鎖が起きます。経営幹部の役目は、管轄する部門・組織において、その先頭に立って「本気の、燃える気持ちの好循環」のサイクルを発生させ、それをガンガン回していくことです。それが配下のマネジメント陣に伝播し、そのマネジャーたちが各々のチームをやる気に満ち溢れた「燃える集団」へと変えていくのです。