第12回:大手企業・老舗中堅企業の経営幹部に“ベンチャースピリット”をインストールする方法

大手企業や老舗の中堅中小企業が自社変革を願い、そのための手立てを懸命に探す中で、それを牽引するのは各企業の幹部たちです。だからこそ、変革を成し遂げるために「自社の経営幹部にスタートアップマインドを持ってほしい」、「ベンチャースピリットを植え付けたい」と多くの経営者や人事が考えています。では、はたして経営幹部にベンチャースピリットをインストールすることは可能なのでしょうか。

スタートアップで成果をあげている経営幹部の共通点

そもそも、「大手企業や老舗の中堅中小企業で活躍する経営幹部」と「スタートアップで活躍する経営幹部」とでは、求められることの力点やタイプに違いがあります。では、スタートアップで成果をあげている経営幹部にはどのような共通点があるのでしょうか。

筆者の、これまで数百社のスタートアップ企業、およびそこで活躍する幹部の方々を数多く見てきた経験から抽出しますと、次のような共通点が挙げられます。

1.曖昧耐性

「曖昧耐性」とは、不透明な状態・環境においてもストレスを感じすぎずに働ける力です。

スタートアップやベンチャーでは、会社の仕組みやルールなどが未整備な状態も多く、また事業のかたちも必ずしも確立・固定化されていない状況が多いです。こうした状態や環境に対して前向きに取り組み、自らルールメイクしていける人でなければ、スタートアップでリーダーとして活躍することは難しいです。

そもそも、事業や自社自体の先行きも不透明な中で明日に賭けて勝負をしているのがスタートアップやベンチャーです。“約束された明日”や“保証された未来”を求める人には、スタートアップやベンチャーは向きません。

2.大量行動・GRIT(やり抜く力)

「大量行動」や「GRIT(やり抜く力)」についても、スタートアップ・ベンチャーで活躍するリーダー達が身につけているべき“基礎体力”だと言えます。

大量行動し、やり抜く姿勢を貫ける人は強いです。「まず動く」、「仮説に基づき徹底的にやり切ってみる」、「結果にこだわり、成功に向けてやり抜く」。スタートアップやベンチャーの経営者・経営陣には、こうした気質と実行力が欠かせません。成功している経営者・経営陣は、必ず大量行動とやり抜く力がずば抜けて高く、その熱量の高い人たちです。

3.継続力

意外に思う人もいるかもしれませんが、実は「継続力」も絶対に欠かせない要素の一つです。

スタートアップというと、「斬新なビジネスアイデアや革新的な技術であっという間に成長を遂げる」というようなイメージをお持ちの人が多いのではないかと思います。しかし、実際はほとんどのスタートアップが、立ち上がりでうまくいかなかったり、苦労した結果として事業やサービスの方向転換をしたりしています。起業当初の数年は地を這うような苦労をしているベンチャーがほとんどですし、みなさんがよく知る注目のメガベンチャー・ユニコーン企業でも、創業から5~10年は雌伏の時期を過ごしているケースが多いのです。

立ち上げた会社を続けていくためには、こうした局面を乗り切る力はもちろん、軌道に乗った後でも次から次へと襲ってくる様々な局面を乗り越え続けていく必要があります。これができるかどうかは、ひとえに「強い意志を持って継続できる経営者・経営幹部たちか否か」にかかっているのです。

4.MVV共鳴

「MVVへの共鳴」も、スタートアップで成果を上げている経営絵幹部の共通点です。「自社は社会に何を成し遂げる存在なのか」、「その使命やビジョンは何か」、また「どのような価値観を持ってやっていこうとしているのか」。成功するスタートアップやベンチャーには、これらのミッション・ビジョン・バリューがそれぞれ明確にあります。MVVに心から共鳴し、自分ごととして職務に臨める人が、スタートアップやベンチャーの経営幹部として活躍できる人です。

大手企業・中堅中小企業の経営幹部がスタートアップマインドを持てない理由

大変革の時代を生き抜くために、我が社の経営幹部にもベンチャースピリットを持ってほしい、社内でイノベーションを起こしてほしい、既存事業の変革をリードしてほしい。大手企業や老舗の中堅中小企業の多くの経営者・人事が、このように願っています。しかし、その思いとは裏腹に、大手企業や一定の事業が確立された中堅企業では、その確立された体制やルールがあるがゆえに、経営幹部たち自身がそれに縛られ、会社のルールや制度に依存して動くことが強く染み付いているものです。「会社のルールには従わなければならない」、「会社の方針には逆らえない」。こうした姿勢で長らく働いてきたことが、その当人自身で物事を決めたり、チャレンジ行動に踏み出したりするための思考・行動特性を奪ってしまっているのです。

また、オーナー系の中堅中小企業では、幹部たちは常にトップを見て動くクセがあります。オーナー自身が最も自社の事業や商品・サービスを愛しており、最も顧客や現場を真剣に見ていて、その成功のための知見・ノウハウを長年蓄積しているため、幹部たちがそれに太刀打ちできず、いつの間にかトップに依存するようになってしまうことが非常に多いです。

こうした状況から、大手企業や中堅中小企業の経営幹部たちは、自ら考える力に加え、「曖昧耐性」、「大量行動」、「GRIT」、「継続力」、「MVV共鳴」などの基礎体力を衰えさせてしまっている場合が非常に多いのです。しかし、これを脱しない限り、スタートアップマインドで動ける経営幹部など生まれようがありません。

会社として、自ら考え動く幹部、「問い」を立てる幹部、従来の仕組みやルールには乗らない新しい行動にチャレンジし、大量行動・やり切る執念を持ち行動している幹部が評価されるような仕組みや人事制度が必要です。大手企業や老舗の中堅中小企業が、自社変革のために経営幹部にスタートアップマインドを持たせる、ベンチャースピリットを植え付けることは、彼らが真の“自律型リーダー”となることにもつながります。ぜひ1社でも多くの企業に、これに取り組んでいただきたいと願っています。


実際にどのような仕組みや制度を導入していくとよいかについては、次回以降でご紹介していければと思います。また、この連載の過去記事の中でも本件にまつわる内容のものがありますので、ぜひご参照ください。