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第4回  「ジョブ型雇用」のウソ・ホントと、幹部に意識させたい3つのキーワード

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2022年の年明け、仕事始めのタイミングで日立製作所が全社員への「ジョブ型雇用」導入を発表しました。以下に、報道記事を抜粋します。

「日立製作所、全社員ジョブ型に 社外にも必要スキル公表」
日立製作所は7月にも、事前に職務の内容を明確にし、それに沿う人材を起用する「ジョブ型雇用」を本体の全社員に広げる。管理職だけでなく一般社員も加え、新たに国内2万人が対象となる。必要とするスキルは社外にも公開し、デジタル技術など専門性の高い人材を広く募る。年功色の強い従来制度を脱し、変化への適応力を高める動きが日本の大手企業でも加速する。
(2022年1月10日 日経新聞電子版より)

記事中では「一般社員では約450の職種で標準となる職務記述書を作成した。経営戦略に基づき、システムエンジニアや設計など職種や等級などに応じ、個々のスキル内容や職務を明示する。新卒者や転職希望者はホームページで日立が求める人材を理解できる」とも紹介されています。

日立製作所は、自社に存在する全職種についての求人票を公開したいのでしょうか?

であれば、それも面白いとは思いますが、本来の目的が「ジョブ型雇用」導入に伴うジョブディスクリプション(職務記述書。以下JD)の作成というならば、まあ、ご苦労なことですし、予言しておくならば、確実に数年で運用は破綻するでしょう。なぜかは、後ほど述べたいと思います。

何かおかしい、「メンバーシップ型」vs.「ジョブ型」論争

働き方・雇用関連の話題では「メンバーシップ型」vs.「ジョブ型」の議論がかしましく、既にバズワードを通り越して、このコラムをお読みの経営者や人事責任者の皆さんには聞き飽きてきた方も少なくないのではないでしょうか。

主な論調はこんな感じです。

これまで日本企業は新卒採用を中心にメンバーシップ型(人に対して仕事を割り当てる)でやってきたが、これからは欧米で大半を占めるジョブ型(仕事に対して人を割り当てる)が生産性向上につながるということで導入に踏み切る企業が増えている――

しかし、この論調では見過ごされていること、誤解されていることが少なくありません。

そもそも「メンバーシップ型」=職能給、ポテンシャル採用、「ジョブ型」=職務給、プロフェッショナル採用の言い換えに当たり、これらは日本に昔からある賃金制度です。この2種類以外に成果給(昨今の表現に言い換えるなら「パフォーマンス型」?)があります。

両者の位置づけは今、二択の議論というよりは「メンバーシップ型からジョブ型へ」という一方向の議論に向かいつつあります。しかし、実は少なからぬ日本企業の人事制度・給与体系は昭和の時代からこれらの組み合わせ(はやりの言い方をするならば「ハイブリッド型」)でした。

「ジョブ型」とは、本来『ポジション(ポスト)型』のこと

日本企業の雇用体系は「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へと大きく変化しつつある。「ジョブ型」においては、その人がどんな仕事をするかが明確に定められており、それ以外の仕事をすることはない

これは、ある著名なコンサルタントの近著にあった一節です。「ジョブ型」に関する議論は、おおむねこの論調に近いでしょう。

私は長らくエグゼクティブサーチ事業にも携わってきて、外資系企業のクライアントから外部採用に際してのJDを多く預かってきましたが、「その人がどんな仕事をするかが明確に定められており、それ以外の仕事をすることはない」という内容のJDを見たことがありません。

失礼な表現を顧みずに言えば、概ねのJDは、例えば、マーケティングマネジャーのものだったとして、A社とB社、C社のJDを入れ替えたとしても、ほぼ同じ内容のものがほとんどです。要は、それぐらい「ざっくりとした」職務定義なのです。そうでなければ各社の事情に合わせて職務を遂行させようがありません。

“職務内容や求める要件をパーフェクトにJDに書き込む”ことなど、外資はやりません。日本企業の真面目さといいますか、職務定義書を作るという手段が目的化し、個別の職務をいちいち職務定義に落としにいき、内容が変わるとその都度更新するようなことを、かつて成果主義が流行った際にも行った企業がありました。当然、そんな書き換え更新に意味を持ち続けようもなく、2~3年で運用破綻しています。おそらく今回も、全く同様になるでしょう。

また、外資系企業でJDに記述していることだけやっていたら、必ず「お前のバリューは何だ」とボスから問い詰められます。標準的な職務定義項目に加えて、どんなプラスアルファ、自分でなければ出せないバリューを出せるかが勝負であり、それなくして生き馬の目を抜く外資系企業でプロモーション(昇進)などできようがありません。

もし、ジョブ型議論に本質があるとすれば、それは「適材適所」という考え方から「適所適材」へのリセットです。生かされるポストがまずあり、そのポストであなたが成果を出せるのか否かが明確に問われるようになったということです。

本来JDで定められるのは、詳細な職務ではなく「ポジション(ポスト)」であり、これこそがグローバルスタンダードなのです。

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