セールスフォース・ドットコムの継続的成長を支える企業カルチャー

HRサミット・経営プロサミット2015講演レポート。「セールスフォース・ドットコムの継続的成長を支える企業カルチャー」をテーマに株式会社セールスフォース・ドットコム 取締役社長 兼 最高執行責任者(COO) 川原 均 氏による講演の模様をお届けする。

株式会社セールスフォース・ドットコム 取締役社長 兼 最高執行責任者(COO)
川原 均 氏
1982年4月に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社後、金融機関やグローバル製造業向けのビジネス拡大に従事。1999年に米国IBMへ。2006年に日本アイ・ビー・エムの執行役員に就任し、2010年1月以降は専務執行役員(ソフトウェア事業担当)として、約900名の部下を抱え、日本におけるソフトウェア事業を統括。同社での約30年の経験の後、2011年8月にベルリッツ コーポレーションにシニアバイスプレジデントとして入社し、新事業であるグローバルコーポレートセールスおよびグローバルリーダーシップトレーニングの拡大を主導。2012年11月 株式会社セールスフォース・ドットコムに、副社長 エンタープライズ営業本部長 兼 米国セールスフォース・ドットコム シニアバイスプレジデントとして入社。2014年4月より現職。

費用をかけずにすぐ導入できるクラウドは革新的に利便性を上げる

1915年前後20年の、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の期間は「ファースト・マシン・エイジ」と呼ばれ、労働生産性が倍以上になりました。その後、これが事業に転換され、工場、オフィス、生活が変わります。1995年にマイクロソフトがオフィス95を出し、インターネットが世界ではじけ、その後社会生存権を持つに至りました。この後、モバイルやソーシャル、クラウド、IoT(Internet of Things: モノのインターネット)などインターネットをベースにした新しいビジネスモデルが出てさらに生産性が上がります。

セールスフォースは、クラウドをベースにしてソーシャル、モバイル、IoT対応をする会社です。かつての業務形態をコンピュータが取って代わったように、今日ではコンピュータが担っていたことをクラウドが取って代わっています。総務省の経済白書によれば、日本はITに20兆円をかけています。従来は全てがメインフレーム、クライアントサーバー、それを媒介する開発のための費用でしたが現在は6%がクラウドに移行しています。セールスフォース、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、オラクルのように外資の先端はクラウドビジネスに転換し、日本でも日立や富士通、NEC、NTTでクラウド化が進んでいます。
現在、クラウドの割合は6%です。しかし全体の規模は変わらないものの、今後クラウドの割合は20%にまで上がると予想されています。クラウドに参入する企業は増えていますが、メインフレームをバックエンドに置いたらすぐクラウドサービスが始められるかというと、そうではありません。私たちの持つクラウドテクノロジーモデル、エコシステムによる新しいビジネスモデル、社会貢献モデルの3つが揃って、初めてクラウド業者として社会に貢献できると考えています。

従来型のインターネット化とクラウドの違いは、一軒家とマンションの違いに似ています。一軒家を手に入れるには通常、土地を買い、工務店と契約して建てていきます。ITでも同じでデータセンターの敷地をまず買い、ハードウェアとソフトウェアを買い、アプリケーション開発します。使い始めるまでに2~3年かかり、初期投資は億単位でかかります。  これに対してクラウドはクラウド業者がマンション(システム)を建て、皆が便利な環境(ビジネスモデル)を整えて、月額いくらで提供する、というスタイルになります。使いたくなったらすぐ使える、マンションの便利さと同じです。マンションですから、自分たちで費用を投じてチューンナップする必要はなく、私たちが常に新しいものを提供します。また課金モデルもシンプルでセキュリティも我々が請け負います。なんらかの費用が生じる場合も格安の「マンション価格」でご提供できます。クラウドなら1人でも、100万人でも使えます。簡単、便利、格安というのがクラウドの良いところです。

私たちのクラウドのビジネスモデルが、日本で最初に貢献できたのは、2009年7月から始まったエコポイントの事業です。法案が通る前の5月にご依頼いただいたので、7月1日の開始まで2カ月という短期間しかありませんでしたが、サービスインまでにテスト4回をすませ、間に合わせることができました。実際には6月半ばにはすでに稼働可能でした。その後、福島の損害賠償でも貢献に繋がっています。3月11日の地震後、8月12日に損害賠償に関わる法律が通ってご相談いただいた際、賠償手続きを迅速に進めると同時に、賠償が受けられる農家に、政府側から「賠償金が受け取れますよ」と問い合わせできる機能や、たちの悪い人を避けるためのチェック機能も追加したプラットフォームを構築しました。クラウドなら、どのようなシステムになるか分からないものでも、まず作ってみてから、スケールも含め自在に調整できます。
当社は、フォーチューン誌で「世界で誇れる企業のベスト100」にずっとランクインしています。同じくフォーチューン誌の「世界で最も革新的な企業」では、グーグル、アップルを抑え、4年連続で第1位となりました。私たちは革新的で新しいことを提供できる企業です。

私たちが提供するクラウドビジネスは、色々な情報ネットワークを、ハードウェア、ソフトウェア、お客様を持つことなく、つなげられます。グーグル、アップル、マイクロソフトの新しいテクノロジーを私たちの中で統合し、皆が意識しないで使えるようになります。
具体例を出すと、海外のお客様事例として、医療センターで、患者の健康データを医者、患者、家族のみんなが共有し、医療に生かすというチャレンジを、セールスフォースのプラットフォームで実施しています。例えば、ベッドメーカーと連携してセンサリングさせ、ベッドに寝ると、午前3時~5時のバイオ的に危ない時間帯に健康状態をずっとチェックし、危ない信号があるとナースセンサーに連絡し、サポートできる仕組みの実施です。ネットワークを通じてインテグレーションするテクノロジーモデルであり、現在、米国にある大学のお客様事例では、最新テクノロジーを駆使し、患者の体内のタブレットにセンサーをつけてデータ管理するという事業を行っています。データをあげて、セールスフォースで管理し、設定した閾値を越えたかどうかで患者の危険状態を判断します。

エコシステムで皆が儲かる仕組みを作りたい

セールスフォース・ドットコムの継続的成長を支える企業カルチャー
私たちのビジネスは、電気や水道のように月額使用料金をいただいて提供するサービスモデルであり、これは世界同一のプラットフォーム、且つ世界同一のサービス内容です。世界32の言語でサポートしていますが、ビジネスは単一のプラットフォームで動いており、全世界単一のサービス体系を提供できます。これを、パートナーとのエコシステムに使っおり、私たちのプラットフォームを使って世界中でビジネスができ、世界中で新しい仕組みを作れるというエコシステムです。

事例として、神奈川県厚木の鶴巻温泉にある旅館「陣屋」の例を挙げましょう。陣屋は売上向上のために、旅館の魅力を充実させようと、私たちのカスタマーリレーションシップマネージメントの顧客システムを利用。全てのお客様が満足できるサービスを構築し、売上高35%アップを実現しました。

陣屋には、全国から多くの旅館関係者が視察に訪れ、対話をしていく中で、自分たちの創ってきた仕組みが多くの旅館オーナーにとって価値あるものと気が付き、今度はそれを主にした「陣屋コネクト」というビジネスを展開しました。セールスフォースのプラットフォームに自社HPの連携機能、売上分析機能、コスト管理機能、情報管理機能など、旅館で必要な機能を全て乗せたサービスです。他の旅館がこうしたシステムを使いたいと思ったら、ハードウェア、ソフトウェア、開発、コンサルティングが必要ですが、クラウドならこれが一切不要で、「陣屋コネクト」のアプリによって利用することができます。

このサービスは2014年4月に販売を開始。すでに旅館・ホテル・ペンション・医療施設など、5室から500室まで規模を問わず全国140施設で陣屋コネクトを導入されており、中国や台湾の旅館から多言語化のオファーも来ているそうです。AppExchage上の登録アプリは3,000を超え、ユーザーは300万人超。日本企業も50社以上利用しています。このユニバーサルプラットフォームを利用することによって、皆で一緒にビジネスを広げていくことができるエコシステム、仕組みです。これが私たちのカルチャーです。

全社員がボランティアと寄付で社会貢献に取り組む

セールスフォース・ドットコムの継続的成長を支える企業カルチャー
パートナーとビジネスを創りながら、将来をつくることも大切ですが、社会が回っていないと、自分たちのビジネスが伸びていきません。そのための社会貢献として「1-1-1モデル」を実施しています。「1-1-1モデル」とは、全社員の就業時間の1%をボランティアに、株式の1%を助成金に、製品の1%をNPOに無償で提供するという考えです。当社だけではなく、30社以上のパートナー企業に協力していただいています。

弊社がつい最近とり組んだ内容を2つご紹介に挙げましょう。1つは「BizAcademy(ビズアカデミー)」です。これは就職浪人した学生を就労支援するNPOと連携し、当社内でキャリア研修を実施。スキルをつけてもらい、就職につなげようというボランティアです。去年は20人で実施し、3名が他社に正式採用、2名が非営利団体でセールスフォースの管理者として働くことが決まりました。今年も実施します。
もう1つは、年1回のセミナーで行うボランティアプログラムです。写真をフェイスブックにあげ、1つ「いいね」がつくたびに1スマイルとカウント。食事に困っている人に食品を配るというプログラムです。前回は5,459食を寄付しました。

社会貢献は私たちの重要な企業カルチャーです。この活動の延長線上として、当社創業者のマーク・ベニオフはIPS細胞の研究で知られる京都大学に2.5億円を寄付しました。新しい試みに貢献したいという深い思いがあり、この思いは創業者以下、全社員で徹底しています。

世界中の1万6,000人の社員が社内独自の目標管理手法を徹底

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私たちの目標管理手法に「V2MOM」があります。1万6,000人の社員について、ビジョンとバリューの2つの頭文字V、メソッドの頭文字M、オブジェクトのO、メジャーメントの頭文字Mを考えます。どのようなビジョンを持って働くのか、それに対してどのような価値を提供できるか、どのような方法が良いのか。そして、そこにはどのような障害がありどう乗り越えるのか、成功したか否かをどのように検証するかを徹底的に議論します。
V2MOMは、全社員が毎年更新します。1月にV2MOMをヘッドクォーターのファンクションエグゼクティブなど役員クラスで検討。2月が年初の当社は、2月第1週あるいは第2週にサンフランシスコで社員の8%にあたる幹部が集まって3日間会議します。その1日間を、まるまるV2MOMに費やしているのです。それぞれで作ってきたV2MOMで揉み直し、もう一度意見をすり合わせて全世界へ展開するのが3月中旬となります。四半期ごとにシニアバイスプレジテントが集まり、V2MOMが推進できているか検証し、できていなければどう直すか考えます。年間パフォーマンスをレビューし、その次の昇給に影響させます。こうして全社員で徹底してV2MOMを動かしているのです。

ユニバーサルサービス企業として日本にダイバーシティ環境をつくる

セールスフォース・ドットコムの継続的成長を支える企業カルチャー
今後のステップについて、3つ考えています。1つ目は、セールスフォースのDNAを作ることです。セールスフォースの日本社員は外資の立ち上げによくあるように全てが中途採用です。これまでは、すでにどこかで社会人教育を受けたスペシャリストにスペシャルなことをしてもらい、給料を出すというギブ&テイクのビジネスでした。しかし、今年からは学卒を4人入社させています。来年は20人、再来年は100人採用する予定です。これからは自社で体系的な教育を行い、セールスフォースのDNAを育てていこうと考えています。

2つ目は社会貢献です。これまでも「1-1-1モデル」は続けてきましたが、社会だけではなく日本に貢献し、「外資系企業」ではなく「ユニバーサルサービスを提供する会社」として見ていただくことが狙いです。総務省と協力して地方創生のICT活用のために行ってきた取り組みは、2015年4月に終了しました。現在は、遠隔医療に関する審議会のメンバーに入っています。地方創生の一環として、本社の一部をサテライトオフィスとして地方に持って行くことも計画しています。その際、新しい地域サービスを提供し、エコシステムで地域住民にも喜んでいただける仕組みを広げていく社会貢献をしっかり行います。

3つ目はグローバル人材の支援です。セールスフォースに入社した日本人に海外で働いてもらい、海外で働く力を蓄えてもらいます。現在、セールスフォースの日本法人に入社して海外で働いた社員は5名。これを増やし、20%は海外で働いてもらうようにします。一方で海外からも人を受け入れて、日本の中でダイバーシティの環境をつくりたいです。

セールスフォースは、年間32%の成長率を16年間連続で達成しています。これは製品サービスの良さだけではなく、エコシステムを作れたからだと考えています。皆で一緒にビジネスをやろうという多様性を持っていたからです。テクノロジーの斬新さ、エコシステムの構築、社会貢献の気持ちの三位一体があって、継続的な成長ができるものと考えています。