Back Office Heroes 第2回ミートアップ:働きがいのある会社トップ企業が語る。「働きがいのある会社の作り方」レポート

2018年5月16日、株式会社コンカーが運営するメディア「Back Office Heroes」の第2回ミートアップが開催された。同メディアは、近年重要性を増している、バックオフィス部門で活躍するリーダーを取り上げているのが特徴。加えて、このようなミートアップの場を設けることで、バックオフィスで働く人たちのコミュニティを創生することも目指している。その第2回目となる今回のテーマは、「働きがいのある会社の作り方」。

2018年5月16日、株式会社コンカーが運営するメディア「Back Office Heroes」の第2回ミートアップが開催された。同メディアは、近年重要性を増している、バックオフィス部門で活躍するリーダーを取り上げているのが特徴。加えて、このようなミートアップの場を設けることで、バックオフィスで働く人たちのコミュニティを創生することも目指している。その第2回目となる今回のテーマは、「働きがいのある会社の作り方」。本記事では、世界50カ国以上で従業員意識調査を行う世界最大級の調査研究機関Great Place to Workの「働きがいのある会社」ランキングで、各企業規模の1位に輝いた3社の代表を招いて行われたパネルディスカッションの模様をレポートする。

登壇者は以下のとおり。

・企業規模1,000人以上部門代表:シスコシステムズ合同会社 業務執行役員 人事部長 宮川愛氏
・企業規模25人~99人部門代表 :アクロクエストテクノロジー株式会社 組織価値経営部 シニアマネジャー 鈴木達夫氏
・企業規模100人~999人部門代表:株式会社コンカー 管理部 部長 金澤千亜紀氏
・(モデレーター)一般社団法人at Will Work 代表理事 藤本あゆみ氏

「働きがいのある会社」における働き方改革のとらえ方

はじめに、国内の産業界で声高に叫ばれている働き方改革を、各登壇者の所属する企業ではどのようにとらえているかが議論された。

宮川氏の所属するシスコシステムズでは、2001年から働き方改革が開始されたが、現在までの17年間で、世の中の変化とともに、働き方改革の意味合いが変わってきたのを感じているという。

当初は、生産性向上やBCP(事業継続計画)の確保など、非効率性の要因の排除を目的として、働き方改革が行われていた。しかし現在では、イノベーションを起こしやすい企業文化を作ることを目的として、優秀な人材を引きつけ、維持するために、働き方改革を行っていると述べられた。宮川氏によれば、働き方改革とは「日本のサラリーマン文化の脱却」。従業員一人ひとりが、給料を得るためだけにただ会社にぶら下がっているのではなく、自己実現の一部として働けるようになることを目指している、とのこと。

鈴木氏の所属するアクロクエストテクノロジーには、そもそも会社が作られた経緯に「社員がいきいき働ける会社を作ろう」という理念がある。そのため、近年「流行」のように取りざたされる働き方改革には、あまりピンとこないという。創業時から、社員のために何が最善かを全社的に話し合うようにし、現在もそれを継続していると紹介された。

コンカーの金澤氏は、働き方改革において重視される「時間や場所にとらわれない働き方」を可能にするためには、従業員一人ひとりが自主性を持ち、自律して働けるかが重要であると述べた。それは同時に、社員同士のコミュニケーションや信頼関係もキーとなるものだ。

そのため同社では、信頼関係を築く仕組みや、自律・自主性の根本となる働きがいを感じるような仕組みを作ってきているとのこと。会社がどのようなビジネスの方向性を持ち、どのような施策を打っているかを、全社員で共有すれば、一人ひとりが自分のミッションを感じ取れ、「自分が何をすべきか」がわかるのだという。時間や場所にとらわれず働けるようになるためには、何よりもそうした自律性が必要だと金澤氏は主張した。

会社の成長と個人の成長を両立させる制度や文化づくりのコツとは

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続いて、会社の成長と個人の成長を両立させる制度や文化づくりについて、それらを作るに至った背景なども重視して議論が展開された。

シスコシステムズでは、人材戦略を始め、すべての戦略の根底にあるものとして、「People Deal」(会社と社員の総方向の契約)という考え方を大切にしているという。このPeople Dealでは、会社が提供するものと社員が貢献することの双方を明確化している。そうした双方向の関係性があって初めて、会社がイノベーションを起こせるという考え方だ。なお、これは経営陣が一方的に決めたものではなく、社員のアンケートの結果を集約したものである点も重要である。

以前は、従業員が年初に目標を立て、年度末に上司が5段階評価をして、1年に1回フィードバックをするという形をとっていたが、なかなか社員の成長が促されなかった。そこで、マネジャーが日ごろから、部下の成長を助けるような会話をするようにした。具体的には、週1回の1on1ミーティングを行っているほか、従業員が仕事に対する感情を入力できるツールを用いて、上司が従業員のモチベーションを高めるヒントをつかめるようにしているという。

これによって会社のフィードバック・目標管理制度は大きく変化。マネジャーは、管理をするだけでなく、社員の強みを生かす「コーチ」にならなければならないというのが、同社が辿り着いた考え方だ。

アクロクエストテクノロジーでは、社員のほぼ全員がエンジニアであるため、エンジニアが楽しく働ける会社を作りたい、という考え方で制度や文化が作られている。その代表的な例として、給与を全員で話し合って決めていることが挙げられた。この文化は創業当時から続いており、当然、話し合いには時間はかかるが、経営者が一方的に給与を決めるのと違って、社員一人ひとりが給与に納得し、皆楽しく働けているのを実感しているという。

コンカーでは、「会社や他の社員に対して意見を言える文化を作ろう」という考えのもと、2017年以降「高め合う文化」という名称で、独自のフィードバックの取り組みを行っている。全社員にトレーニングを施し、「上司から部下へ」という一方通行のフィードバックだけではなく、部下から上司、同僚同士、“斜め”(他の部署のマネジャーから社員へ)のフィードバックを推進。また、フィードバックをしやすいよう、従業員自らが積極的に対象者に聞きに行く文化も作っているという。

働きがいのある会社を作るための施策を運用する際、配慮しているポイント

3つ目のトピックとして、実際に働きがいのある会社を作るために行っている施策と、その施策を運用する際に配慮しているポイントについて議論がされた。

シスコシステムズでは、社長からのトップダウンと、従業員からのボトムアップの双方向性を重視している。たとえば、同社におけるダイバーシティ推進の取り組みでは、従業員による6つのアンバサダーグループが活動する一方、役員がその活動をスポンサーとして支援している。これによって従業員自身が、企業文化を作る一端を担っているという意識が醸成されている。

アクロクエストテクノロジーでは、制度を作る際には皆で作るのが大前提。月1回の全社員会議(MA)で社員から新しい制度の提案があれば、社員全員の納得を得てから、運用を開始する。ただ、実際に運用していくと、うまくいかないこともあるため、制度は運用開始後3カ月で必ず見直すというルールを設けている。社員が不満に思っている制度については、修正したり、場合によっては廃止したりすることもあるが、いずれにしても、形だけの制度では意味がない、というのが鈴木氏の意見だ。制度に嫌々従っている社員はいないか、社員がその制度によってやりがいを持って働けているか、を重視しているという。

コンカーの金澤氏からは、コミュニケーション活性化のためのバディ制度における配慮について紹介された。コンカーのバディ制度とは、4~5人のグループを作り、グループの活動に対して会社から補助をする制度。従業員が急激に増えているなか、「会社にどんな同僚がいるのかわからない」という問題をカバーするための仕組みだ。グループを作る際には、できるだけ別の部署の従業員が集まるように、また話題のきっかけが作れるように配慮されているという。

質疑応答

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ディスカッションが終わったところで、参加者を交えた質疑応答が行われた。内容は以下のとおり。

●Q1 社員からどんどんアイディアが出てくるのは素晴らしいが、アイディアが多すぎると、それを実行する側に負担もかかるし、また社員間での温度差も出てくると考えられる。そこへの対処はどのようにしているのか。

シスコシステムズでは、ダイバーシティを尊重し、取り組みへの参加を強制しないという。たとえば、アンバサダー活動については、好きなときに入って好きなときに抜けられるようになっている、と述べられた。

アクロクエストテクノロジーでも、新しい取り組みに対してポジティブになれない社員がいた際、その社員と話し合いを入念に行い、場合によってはその社員には制度を適用しないという措置も行っているという。ネガティブな感情を抱いた制度は、当人への実効性に欠ける、というのが根底にある考え方だ。また改善の取り組みについては、話し合い、無理のない範囲で、複数並行している、と述べられた。

コンカーでは、新しい取り組みを担うタスクフォースが、従業員によって自主的に形成される文化があるため、新しい取り組みを進める負担が管理部門に偏らないようになっていると紹介された。

●Q2 取り組みや施策への評価はどのようにしているか。

シスコシステムズでは、従業員満足度調査によって取り組みの評価を行っているという。経営陣が調査で集計された点数とコメントを見ながら話し合い、どういうアクションを取っていくかを考える仕組みとなっている。近年の例を挙げると、「キャリアの広がりに対する足がかりが少なく、閉塞感がある」という意見に対し、シャドーイングプログラム(別の部署の従業員について(3か月間のプログラム期間中6時間から20時間を自由に選択)その仕事を疑似体験する)を実施。その結果、翌年の調査では従業員満足度が上がったという。

ただし、働き方に対する課題は常にあり続けるため、その課題に対して継続的に取り組んでいることを、経営陣がきちんと全社に見せることが大切だと宮川氏は述べる。さらに2018年以降、課題に対するアクションを検討する段階に、従業員を参画させよう、という試みを行っていることが紹介された。

アクロクエストテクノロジーでは、企業規模が小さいこともあり、制度や取り組みに対する評価は行われていないが、自然と、うまく運用できて効果も上がった制度は残り、そうでない制度は淘汰されるという仕組みになっているという。

コンカーでも、さまざまな調査を行うことで、施策への評価を行っている。代表的なのは、四半期に1回のパルスチェック。同調査は従業員の負担を軽くするため、答えやすい質問10問にとどめられており、また記名式であるため、悩んでいる社員がいた場合に素早く検知してアクションを取れるのがポイントだ。


●Q3 従業員が声を出しやすくするための文化の醸成はどのようにしているのか。たとえば、ボランティア活動をしている人に対してリワードを設けているのか。

シスコシステムズでは、社員間のコラボレーションを促進するための施策として、社員同士の報奨制度(connected recognition)を設けている。「ブラボー」という声掛けだけの報奨はもちろん、金銭的な報奨も可能な制度だ。アンバサダーなど、業務外で活動した人も報いられる制度となっている。

アクロクエストテクノロジーでは、新卒社員に対し、入社前の内定者研修の段階で、同社が自由に意見の言い合える文化を持っていることを伝えているという。また、会社のためになる活動であれば、どのようなことも「仕事」であり、「ボランティア」ではないという考え方がある点も強調された。そのため、たとえばエンジニアがエンジニアリング以外のことを行った場合も、それが会社のためになることであれば、査定で評価するようにしているという。

コンカーでは、年に1回実施する「コンストラクティブフィードバック」という従業員調査や、自社の課題に対し全社的に考える「オフサイトミーティング」で意見が出た際、その意見をできるだけ反映するよう努めている。反映できなかった意見については、その理由を含めて、フィードバックしているという。自分たちの意見がきちんと受け止められている実感があれば、意見を言いやすくなるという考え方だ。また、年2回の表彰制度において、業務外のことでイニシアチブを取った人も評価するようにしている。




●Q4 経営陣がなかなか働き方改革に乗り気でない場合の、コミュニケーションのポイントを教えてほしい。

シスコシステムズでは、働き方改革は、人事戦略ではなく、経営戦略であるとしているという。会社における各ステージで、働き方改革がどのように役立つかを明確化し、売上の増加や会社の成長にどのように影響するかを重視した上でコミュニケーションを取っていると述べられた。

アクロクエストテクノロジーでは、全社員会議で決まったことを社員の総意として重視し、社長をはじめとした経営陣に対しても、忖度しないことを重要視しているとのこと。

総括――働きがいのある会社作りに終わりはない

最後に総括として、各会社における今後の展望が語られた。

シスコシステムズの宮川氏は、会社規模にかかわらず、働きがいのある会社作りには共通項があることを実感したと述べた。同時に、働き方改革や働きがいのある会社作りに終わりはなく、継続して取り組む必要性も感じたとのこと。またそうした中、企業における人事の役割が大きく変わってきていることも注目すべきだと強調。人事の施策が会社の成長を支えているという点が、以前にも増して注目されていることから、今後もバックオフィスの活躍が期待されると述べた。

アクロクエストテクノロジーの鈴木氏は、これまで同社がやってきたことが、最近になって世の中に評価され始め、社員がプライドを持ってきていると述べた。会社としては、社員数が増えても、限界まで皆で話し合うことを続けたいという。

コンカーの金澤氏は、会社の従業員数が増えたことで、これまでとは違った課題が見えてきたとのこと。働きがいのある会社作りを継続することの重要性を実感し、今後も勉強を続けていきたいと締めくくった。


働きがいのある会社を作るための考え方はもちろん、それらを実現するための具体的な施策も紹介された、今回のミートアップ。働きがいのある会社作りとは、企業の成長のために必要な経営戦略であることが強調されたパネルディスカッションとなった。企業の経営者は、形だけの働き方改革を推進するのではなく、働き方改革に関する施策が企業の発展にどのように資するかを、人事担当者や現場の社員たちと十分に議論したうえで、取り組みを推奨すべきだろう。