第1回:なぜ「研修開発」が必要なのか

社内研修を実施するとき、テーマは大まかに決まっていても、内容については外部の研修会社や講師まかせ、ということはよくある。もちろん、講師は外部から招いてもよいのだが、社内研修の企画は、企業主導であるべきだ。人材育成を考えるとき、研修開発する(社内で研修を企画し、講師を育成する)ことのメリットは大きい。そこで、今回から「研修開発」についての方法論を連載していく。

人材育成はOJTだけで十分か

人材育成の必要性を感じていない企業は存在しない。しかし、その方法はというと、上司・先輩が仕事をしながら教える「On The Job Training (以下、OJT)」に偏っている企業が多い。とはいえ、OJTにはOJTとしてさまざまなメリットもある。例えば、下記のようなものだ。

(1)個人の特性や能力に合わせて教育できる

(2)教える側も、教えることを通して成長できる

(3)教える側の上司・先輩との信頼関係が醸成される

(4)コストが抑えられる


どれもうなずけることばかりだろう。「OJTは不要」というつもりは、さらさらない。しかし、(1)~(3)のメリットは、いわば「つけたし」である。実情は、人材育成に費用がかけられない、もしくは、かけるつもりがないがために、「メリット(4)によって自動的にOJTが選ばれている」という場合がほとんどではないだろうか。

OJTのみで人材育成をおこなった場合の最大の問題点は、「教える側の人間が持つ能力以上の教育はできない」ということだろう。

会社としては「イノベーションを起こすような新しいアイデアがほしい」と思っている。しかし、教える側が「自分のやり方が最善。このやり方以外は許さない」という考え方では、イノベーションなど起きようもない。OJTで素直に教えられた内容を吸収したとしても、「上司や先輩のコピー」または「劣化コピー」ができあがるだけである。

OJTの内容としても、仕事の手順を教えだけでは、教えたことのできぐあいをチェックしたり、フィードバックをしたりという本来の教育機能は、「忙しくなければ実行される」という程度になりがちだ。

もうひとつの問題点は、企業がもっている「どのような人材になってほしいか」というビジョンが伝わりにくい、という点である。それどころか、教える側に「こういう人材になってほしい」という概念が明確にない、という場合も多々ある。

そもそも企業内の人材育成とは「企業が戦略を達成するため、または、事業が存続・発展するために必要な従業員のスキル・能力を獲得させるもの」であるはずだ。教える側が、企業の戦略を理解、意識できていない状態では、「育成」という言葉は当たらず、単に自分の手足となる部下を作るにとどまってしまう。

社内で研修開発を行うメリット

それでは、「企業の存続・発展のために、従業員に必要なスキル・能力を獲得させる」という、本来の目的に沿った人材育成は、どのように行うべきだろうか。

OJTだけでは不十分だという点は前項で述べた。それなら「Off-JT(研修)」を取り入れればその短所を補完することができるかというと、やはり外部に任せきりでは解決しない部分がある。つまり、外部講師では「企業のビジョン」、「知識」、「技能」、「経験」、「強み」といった「中核的な価値」を伝えることができないという点である。企業が成長し、内部に強みを抱えるようになればなるほど、それを企業内で共有するために社内研修を企画せざるを得なくなるのだ。

先に述べたように、社内で研修を開発することで得られる価値は、「企業独自の強みを次世代に伝える」ということだが、他にも副次的な効果が大きい。

(1)属人化されていた知識・経験などが他のメンバーに共有される

(2)社内で講師をまかされた従業員が、自分の持つ知識・経験を再確認し、さらに他に伝えることで成長できる

(3)研修を通して、講師となる従業員と、受講者として集まってくる従業員(他部署を含む)の間に新たな社内ネットワークが形成される

(4)社内の講師が、自社ならではの内容を自分なりの言葉で伝えることで、社内文化が再確認され、自社に対する愛着・コミットメントが高められる

(5)現場の責任者が教えることに慣れてくることで、部下育成に対する理解や、学ぶことをよしとする風土が醸成される


次世代に伝える内容自体の価値、そして伝えるという行為がもたらす価値、その両方を得ることができるのだ。

ただし、OJTに比べると、やはりコストはかかる。研修の担当者や社内講師は、別の仕事をしている時間を、研修の企画・準備に費やす必要があるからだ。だが、そのコストを上回る価値もあることは確かだ。

外部のよく練られた研修パッケージが有効な場面はもちろんある。しかし、パッケージを採用するとともに、社内での研修開発と両輪で回していくことを考えてみてはいかがだろうか。