第22回 提案の受け方

部下からの提案に対するリーダーの対応は、組織運営上、極めて重要である。提案時のリーダーのコミュニケーション次第で、部下が“やる気”を出すこともあれば、反対に“やる気”失うこともあるからだ。それは一体、どのような仕組みになっているのだろうか。

部下からの提案に対するリーダーの対応は、組織運営上、極めて重要である。提案時のリーダーのコミュニケーション次第で、部下が“やる気”を出すこともあれば、反対に“やる気”失うこともあるからだ。それは一体、どのような仕組みになっているのだろうか。

部下の“やる気”を削いでしまう「提案の受け方」とは

部下の“やる気”を失わせることなく提案を受けるのは簡単ではない。それでは、典型的な「好ましくない提案の受け方」を紹介しよう。

(1)話を最後まで聞かずに否定する
部下の説明の途中で何を提案したいのかが分かった時、「その考えは、○○だからダメだ」といったように、話を途中でさえぎって否定することがある。このような対応は提案を否定されたことよりも、「話を最後まできちんと聞いてもらえなかった」という“不満感”を部下に抱かせることになる。

(2)部下の提案中、自分の仕事を止めない
部下が「ご提案したいことがあるのですが」と言ってきた時に、「聞いているから話してごらん」と言い、パソコン作業を続けながら話を聞くといった場合がある。このような対応は、部下に対して「本当に私の話を聞く気があるのだろうか」という“不信感”を抱かせやすい。

(3)提案中に“曇った表情”を見せる。あるいは“無表情”である
“曇った表情”で部下の提案を聞いた場合、部下は「何かまずいことを言ってしまったのだろうか」と考えがちである。また、“無表情” でも、部下は「私の提案に何の興味もないのだろうか」などと考えやすい。いずれの対応も、部下の心に“不安感”を醸成する傾向にある。

(4)“満面の笑み”を浮かべながら話を聞く
“満面の笑み”を浮かべながら聞く対応は、好ましいように思えるかもしれない。しかしながら、このような対応は「君が何を言いたいのか、私にはすべてお見通しだよ」とか、「やっとその点に気づいたか。感心、感心!」とかいったメッセージを与えることがある。そのため、ある程度ビジネス経験のある部下は、「子供扱いされている」、「見下されている」という“マイナスの印象”を持つことがある。

(5)メモを取らずに話を聞く
部下の提案内容に対してメモを一切取らず、単に聞いているだけという対応を取ることがある。この場合、部下は「私の提案を検討する気があるのだろうか」などの“疑念”を抱きやすくなる。

以上のような提案の受け方によって部下が“マイナスの感情”を抱いた場合、部下の“やる気”を削ぐ結果となり、業務に対する“前向きな行動”を引き出すことが困難になりがちである。

部下の“前向きな行動”につながる好ましい態度とは

それでは、部下からの提案を受ける時のポイントをいくつか紹介しよう。

(1)「興味深い話を聞いている」という態度を示す
部下の提案に対しては、たとえ取るに足らない内容であってもそのことを表情には出さず、「興味深い話を聞いている」という態度を示しながら話を聞くことが大切である。そのためには、

・部下が立っているのであれば自分も立ち上がり、正対して話を聞く。
・「なるほど」や「そうか」などとの“相づち”や“うなずく動作”を入れながら話を聞く。

などの方法が有効である。このような態度は、部下の心に“安心感”を醸成できるため、部下が自信を持って最後まで意見を言うことが可能になる。

(2)途中で口を挟まず、話をさえぎらない
部下の提案の内容が話の途中でわかってしまったとしても、話している最中は口を挟まずに最後まで聞き続けることが大切である。その結果、部下に「最後まで話を聞いてもらえた」という“達成感”を与えることが可能になる。上司としての意見は、部下の説明が一段落したところで話すようにしたい。

部下の説明が要領を得ずに話が長くなってしまう場合でも、まずは最後まで聞いてから自分の意見を言い、その後に説明の仕方を指導するとよい。

(3)メモを取りながら聞く
部下の提案に対しては、どのような内容であってもメモを取りながら聞くことが大切である。「上司が自分の提案をメモしている」という行為は、部下の心に大きな“信頼感”を醸成することになる。

また、取るに足らない提案であったとしても、メモの内容はその後の部下指導の材料として大いに役立つはずである。

(4)提案をしてきた事実を評価する
採用不可能な提案を受けてもあからさまに否定をするのではなく、まずは提案を行ってきた事実を評価することが大切である。そのためには、「いろいろ考えているね。とてもいいことだよ!」といった、「提案行為」自体を褒めるような言葉をかけるのがよい。上司に褒められて喜ばない部下はほとんどいないので、たとえ提案が採用されなくても、「次は採用してもらえる提案を出そう!」とモチベーションを上げせることが可能になる。

以上が、部下からの提案に対して、多くのリーダーが見落としがちなポイントである。大切なのは、「この提案にどのように対応すれば、彼(彼女)は今以上に成長するか」という視点である。部下を成長させるには、“やる気”を削がずに“前向きな行動”を引き出すことが欠かせない。ぜひ、皆さんの「提案の受け方」をいま一度、振り返ってみてほしい。


大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表 組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net