トラブル報告の受け方

ビジネスの現場にミスやトラブルは付き物である。リーダーがミスやトラブルなどの報告を受けるときには、部下が『動く人材』になるコミュニケーションと『動かない人材』になるコミュニケーションの両方が存在する。

 ビジネスの現場にミスやトラブルは付き物である。リーダーがミスやトラブルなどの報告を受けるときには、部下が『動く人材』になるコミュニケーションと『動かない人材』になるコミュニケーションの両方が存在する。

ミスに声を荒らげる行為は指導ではない

 たとえば、ミスやトラブルなど部下からの「マイナス情報」の報告に対して、「何をやっているんだ!」と声を荒らげるようなリーダーの行為がある。リーダーのこのような対応は、『動く人材』を育成するという点で果たしてどのような意味があるのだろうか。

 リーダーの中には、声を荒らげる行為を部下に対する指導と認識している方がいるようだが、決してそのようなことはない。部下から「マイナス情報」の報告を受けると、リーダーの心の中には少なからず「怒りの感情」が芽生えるものである。部下からの報告に対して声を荒らげる行為は、部下がミスをしたことなどに対して、自分の心の中に芽生えた「怒りの感情」をぶつける行動に他ならない。つまり、“ストレス発散” のためにとられる行動が声を荒らげるという行為である。従って、部下に対する指導行為とは言い難く、一般的にリーダーの対応としては好ましいとは言えない。

声を荒らげるリーダーには「マイナス情報」が集まらない

 部下からの「マイナス情報」の報告に対してリーダーが声を荒らげるような対応をとると、どのようなことが起こるだろうか。一般的に、声を荒らげるリーダーに対して部下は、「反感を持つ」「萎縮する」などの反応を示すものである。その結果、部下はそのようなリーダーに対してミスやトラブルなどの「マイナス情報」は報告しなくなるケースが多い。つまり、上司に「マイナス情報」を上げるという、本来とるべき行動をとらない『動かない人材』になってしまう傾向が強い。

 部下からの「マイナス情報」の報告に対して声を荒らげるという行動をとった結果、ミスやトラブルは隠蔽されるようになり、隠れトラブルが増加してしまうものである。また、部下からの「マイナス情報」の報告に対して、リーダーが次のような対応をとった場合にも、同様の結果を招きがちである。
・ミスの原因を探るのではなく、ミスを起こした責任ばかりを問う。
・部下がミスをしても、リーダーが責任を取らない。
・ミスの報告に耳を貸さず、部下を突き放す。
・リーダーの指示どおりに業務を遂行して発生したミスを、部下の責任にする。
・ミスした部下の個人批判を行い、人格否定と取れる発言をする。

 ミスやトラブルを上司に報告せず、隠そうとする社員が存在する組織には、ミスやトラブルなどの「マイナス情報」を報告しづらい雰囲気があるなど、組織風土に根本的な原因があるケースが少なくない。そのような組織風土を醸成してしまう大きな要因の一つが、ミスやトラブルなどの「マイナス情報」の報告を受けたときのリーダーの前述のような対応にある。トラブルの増加を防ぐためには、いかに「マイナス情報」が迅速に収集され、組織的に対応できるかがポイントになる。そのため、組織を預かる長にとっては「マイナス情報」が円滑に報告される組織風土を作ることが、重要な責務のひとつといえる。

リーダーの冷静な対応が部下を動かす

 「マイナス情報」が上がりやすい組織、企業風土を形成するには、報告を受けたリーダーが「感情的にならず、冷静に部下の報告を受ける」「適切な善後策を講じ、自らトラブル対応の前面に立つ」「ミスをした部下の人格を否定しない」「責任追及に終始せずにミスが発生した原因を探り、再発しない仕組みを作る」「マイナスの情報が迅速に報告された事実を評価する」などの対応をとることが必要である。このような対応ができていれば、部下は安心して些細な「マイナス情報」もリーダーに報告する『動く人材』となりやすく、隠れトラブルの減少やトラブルの未然防止が大いに期待できるようになる。

 部下が「マイナス情報」を報告しなかったことに対して、リーダーが部下の資質を問題視することがある。しかしながら、部下が「マイナス情報」を報告しなかった根本原因は、多くの場合、報告を受けるリーダー自身にあるという事実をよく認識することが大切である。ミスやトラブルに直面した部下が、自らの意思で好ましい行動をとる『動く人材』になるかどうかは、リーダーのコミュニケーション次第と言えよう。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)