最短で後継者を育成するたったひとつの方法

後継者育成への注目が高まっている。ソフトバンクの孫正義社長が後継者の育成及び社員教育で「ゲーム」を用いていることはご存知だろうか。

歴戦のビジネスパーソンがゲームに注目している

 後継者育成への注目が高まっている。ソフトバンクの孫正義社長が後継者の育成及び社員教育で「ゲーム」を用いていることはご存知だろうか。また、サイバーエージェントの藤田晋社長も麻雀を愛好し、ゲームに強いことはよく知られている。著名な勝間和代氏は、五反田でThe WINWINというボードゲームカフェのオーナーもしていたり、麻雀のプロ試験に合格していたりするというと驚かれることが多い。

 なぜ、ビジネスの第一線で活躍する人々が「ゲーム」に夢中なのだろうか。それは、ゲームとビジネスに何らかの共通点があるからにほかならない。はて、ゲームとビジネスの共通点とはなんだろうか。

ビジネスは実はゲームだ

 相手がいるゲームでは、相手の出方次第で自分の打ち手を変えなければ勝てない。資源を奪い合うゲームでは、自社のコンピタンスを強化して、競合からいかに早期に資源を確保するかに頭を巡らせなければならない。ゲームとビジネスは類似していないだろうか。

 ゲームとビジネスを並べて考えてみよう。ゲームでは、自分の打ち手の変更や、資源配分の意思決定を行うが、実際のビジネスで打ち手の変更や資源配分の意思決定を日常的に行うようになるのはいつ頃だろうか。多くの場合、これらのことを日常的に行うようになるのは、少なくとも管理職以上になってからである。一般社員のうちにこれらの経験が積めることは稀である。

 ゲームには、一般社員が日常業務では経験しないが、経営者にとっては日常的に経験する「意思決定」が詰まっている。経営者に求められる能力はもちろん意思決定だけではないが、意思決定が経営者として会社の舵取りを行う上で最重要な能力の一つであることに疑問の余地はない。そして、意思決定を効果的に学ぶにはゲームが有効なのである。

経営を数時間で経験できる美味しい「高速回転」効果

 こうした「ゲーム」を使った研修が後継者や経営者の育成で人気である。研修でゲームを行う、更にはそれを後継者の育成に使われているというと驚かれる経営者の方も多い。当社は、こうしたゲームを使った研修(以下、ゲーム研修)を提供している「専業の」研修会社であり、国内超大手企業や外資系企業の日本法人の後継者や経営者の育成を数々手がけてきた。

 研修でゲームをするには数時間かかる。研修は当然業務の一貫である。その中でゲームを数時間するというと「長い」とか、人によっては「無駄だ」と感じる方もいるだろう。しかし、ゲームを使った研修での経験はその他の研修での経験とは「異質」である。

ゲームは長期間かかる育成を1日で成し遂げるからこそ「異質」

 どのように異質なのかを説明しよう。例えば、実務でマーケティングのPDCAサイクルを回し、勘所が理解できるまでにどのくらいかかるだろうか。
 1年?
 いや、下手をすると数年かかるかもしれない。

 ゲームだったらどうだろうか。例えば、博報堂コンサルテイングでは、「マーケティングJAM」というマーケティングをテーマにしたゲームを提供している。そのゲームではマーケティング活動のPDCAサイクルを何度も繰り返すことになる。これはつまり、架空とはいえ、数年間実務に従事したのと同じ経験を積むことである。これが「経営活動の高速体験」と呼ばれるゲーム学習の主要な効果の一つである。仕事の場面でPDCAを「1度」回した人材と、架空の場面で、PDCAを「繰り返し」回した人材とを比べると、繰り返した方が練度が高そうなことは察しがつくだろう。

 海外のMBAでは、ケーススタディを浴びるように実施するという。それは架空の経験をシャワーのように浴びることが効果的だから実施されているのである。ゲームを社員に経験させることは、数年の実務経験と比べ、遥かに「短い」数時間であるにも関わらず、実力がつく「美味しい」投資であるが故に「異質」なのだ。

ゲーム研修には即効性がある

 マッキンゼーで人事マネジャーをしていた伊賀泰代氏は、書籍「生産性」の中で、外資系企業の特徴として「在籍期間が短い外資系企業では、研修には参加直後から業務の生産性を上げるという即効性が求められる。」と述べ、その中でも印象に残った事例として、コンピュータを使ったRPG(ロールプレイング)で「判断」の練習をした昇格準備研修を挙げる。

 この研修の中で、マネジャーは「マネジャーの仕事とはトレードオフが存在する状況において判断を下すこと」だと学べるということである。

 日本企業では、ゲーム研修は即効性がないものだと思われがちだが、全く逆の視点もあるのである。

架空の人生をゲームで経験すればプロ経営者に成長できる

 優秀な人材は、実務で体験と内省を繰り返し、自分の血や肉に変えていく。こうした人材は、ゲーム研修での体験と内省から学び取り、経営の各局面を俯瞰し、各局面で妥当な意思決定ができるプロ経営者に成長していく。

 御社の後継者候補をプロ経営者にしたいかどうかはわからないが、三枝匡氏の「ザ・会社改造(2016)」には、プロ経営者について以下のように記載されている。

“有名なカリスマ経営者と呼ばれる人でも、「プロ経営者」とは限らない。ひとつの会社の経験だけなら、「その会社の経営者」にすぎず、そこでしか通用しない経営をしているのかもしれない。プロ経営者となれば、業種、規模、組織カルチャーなどの違いを超えて、どこの企業に行っても通じる「汎用的な」経営スキル、戦略能力、企業家マインドを蓄積している。その裏付けとしてプロ経営者は、過去に修羅場を含む「豊富な経営経験」を積んでいる。難しい状況に直面しても、これは「いつか来た道」「いつか見た景色」だと平然としていられる。”


 ゲームを繰り返すことで、擬似的経営体験を豊富に積める。様々な環境(ルール)で最適な打ち手を考え続ける経験は、普遍的な経営スキルの獲得に繋がる。それがひいては、これまでに経験したことがない新規事業や海外事業、プロジェクトでの活躍につながり、その成功体験が、経営者としての道に連鎖していくのではないだろうか。

 ゲーム研修で学習した参加者にとって、現実の経営は「いつか来た道」に見える。後継者を最短で育成するたった一つの方法とは「ゲーム」なのである。