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ゲームを使って後継者を育成する

第6回  有名企業の後継者候補はなぜゲームで倒産を繰り返すのか

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「想起」が御社を倒産に導く行動を抑止できる

 これらの例は、どこかの出来の悪い企業や過去の研修の中での極端な話ではない。起こる頻度の高い順に取り上げており、御社にも起こりうる話である。だからといって、絶望する必要はない。

 とある導入企業の話を紹介しよう。その企業では、初回に運のない状況を扱う経営シミュレーション「パースペクティブ」を実施した。とある参加者は、キャッシュフローを見積もれず、選択肢を絞りきれずに、無用な計算に時間を取られて成績が芳しくなかった。その参加者には、強い悔しさと「キャッシュフローを見積もるのが当たり前だ」というエピソード記憶が楔のように胸に刻まれた。

 さすがは経営者候補である。次に実施した経営シミュレーション「あかんたぶる」では、この学びを経営に適用した。このため、「パースペクティブ」の未経験者と比べて、良い結果を残せた。これは、前の研修での学びが次の研修で想起され、結果につながったことに他ならない。こうして、経営シミュレーションで苦い経験を学びに変え、知識を他の場面でも適用できるようになれば、実際の経営でも考え方を適用できるようになり、被害の大きい危機的行動を抑止できる。

本やネットで見聞きした知識と体験・経験を伴った知識は価値が違う

 プライミング効果をご存知だろうか。例えば、「○め○た」の○を埋めようと言われてもなかなか思いつかないのではないだろうか。少し考えてみて欲しい。

 次に、「きめかた」という文字を見てほしい。その直後に、上の○を見ると、これしか入らないような気がしてくる。正解は「ためした」なのだが、潜在記憶が作用し、脳に「きめかた」が刻み込まれるため、「きめかた」が正解だと感じてしまう。これは、上述の「よく言われること」「通説とされること」「先人のありがたい言葉」も同様であるが、ゲームで繰り返し行なったことは、類型のパターンとして「よく言われること」「通説とされること」「先人のありがたい言葉」よりも強く潜在意識に刻み込まれ、現実で似た場面があった際にそこから取り出せる(これを「想起」という)。経営シミュレーションでは、良い想起を促す良質な経営体験を擬似的に提供できる。

 これが、本やネットで見聞きした知識と、体験・経験を伴った知識との価値の違いである。また、第1回で「架空とはいえ、数年間実務に従事したのと同じ経験を積むことである。これが『経営活動の高速体験』と呼ばれるゲーム学習の主要な効果の一つである。」と書いた通り、ゲーム研修で体験するような体験・経験を現実で積むには年単位の時間を要する。しかし、ゲーム研修ではこうした体験が1日で積める。

 経営者の意思決定は重たく、業績に大きな影響を与える。昨今、「プロ経営者」が求められているが、プロ経営者とアマ経営者の違いは、経営の場面で具体的に何を適用すべきかが想起できるか否かである。経営シミュレーションを行うことで、熟達した経営者になるまでのスピードや経営結果に差が出るため、投資に値すると思っていただける方も多い。こうした点で、一般の座学の研修と経営シミュレーション研修は一線を画すのである。

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プロフィール

カレイドソリューションズ株式会社 代表取締役開発者 / Ludix Lab フェロー 高橋 興史 氏

カレイドソリューションズ株式会社 代表取締役開発者 / Ludix Lab フェロー 高橋 興史 氏

上場企業や人事コンサルティング会社、ベンチャー企業役員を経て2008年に起業。研修の内製化を通じて、教育研修費の偏在を是正し、研修の絶対数の増加を通じた企業の生産性向上を目指して活動している。特に、自らのビジネス経験を踏まえたクリエイティブなゲーム研修の開発に強みを持つ。主な開発実績に財務研修「パースペクティブ」、倒産疑似体験ゲーム「あかんたぶる」などがある。2014年よりゲームを使った学習の研究団体”Ludix Lab”に参画し、共著として”入門 企業内ゲーム研修”を出版。東京大学や慶應義塾大学大学院などでもゲームをテーマとした講演活動を精力的に行っている。

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