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ゲームを使って後継者を育成する

第5回  御社の後継者に忍び寄る”こじつけ研修”とは!?

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遊戯用ゲームが使われている研修を見たら“こじつけ”を疑おう

遊戯用ゲームが使われている研修を見たら“こじつけ”を疑おう

 これまで、ゲームを使った研修の効果の高さを書いてきた。読者の中には、「ゲームがそんなによいなら、市販のボードゲームを研修に利用すればよいのではないか」と感じる方もいるだろう。実は、遊戯用のボードゲームやカードゲーム(以下、遊戯用ゲームと呼ぶ)を使った研修もあり、それに講師を派遣している会社もある。ただ、遊戯用ゲームを使った研修は、ときに素晴らしい成果に繋がるが、ファシリテーターが無理に結論に誘導する、気づきを無視した「こじつけ研修」になりがちなので、そうならないかどうかを慎重に確認する必要がある。

遊戯用ゲームは学ぶためのものではない

 まず、遊戯用ゲームと研修用のゲームの最大の違いを書きたい。良い遊戯用ゲームを考えてみよう。異論は様々あろうが、逆転の可能性がなく、途中で負けが確定して意欲が失われるゲームを良いとは思わないだろう。このため、逆転可能性が遊戯用ゲームには求められる。また、「このやり方をすれば絶対に優位に立てる」というゲームは興ざめだ。なので、様々な戦略があり、ジレンマに満ちたゲームが良いとされる。そのために、遊戯用ゲームの開発者は丹念にバランス調整を行う。

 さて、研修用のゲームの側から考えてみよう。失策ばかりにも関わらず、最後にイベントカードで逆転できるゲームはどうだろう。戦略に基づいて、原料の買い占めを行って、高値販売しようとしていたら、唐突に安い原料が市場に溢れるゲームはどうだろう。これまでの努力が無駄になって興ざめだ。また、ビジネスでは定石とされる打ち手がある。それが不明確で「何をやっても勝利しうる」ゲームだったら、終了後にどう振り返れば学べるだろうか。これがまさに遊戯用ゲームを使った研修に「学べない」と批判が集まる理由の一つである。遊戯用ゲームはそもそも学ぶために作られておらず、ゲーム中に起こることも非常に動的である。そこから教訓を紡ぎ出すには高いファシリテーションスキルが求められるため、予め用意した結論に誘導しがちである。ただ、誘導的な進め方はゲーム研修の強みを殺す。誘導するのであれば、知識を植え付ける導管型の研修で十分だ。その点で遊戯用ゲームを研修に用いるのは玄人向きである。

“こじつけ研修”が生まれるメカニズムとは!?

 学習には「意図的学習」と「偶発的学習」の2種類がある。意図的学習は「意図した学習活動の中で学ぶこと」、偶発的学習は「学習を意図していない活動で自然と学べていること」だ。例えば、ドラゴンクエストで横文字のモンスター名を目にすることで英単語が学べたとしたらこれは意図していないという点で、偶発的学習となる。

 ゲーム研修で使われるゲームは、学習を目的に作られる。一方、遊戯用ゲームは、遊びを目的に制作され、意図的学習を想定していない。ただし、人は何からでも学ぶ生き物である。このため、遊戯用ゲームを遊んで「これは学べそうだぞ」と感じるのは自然だ。そこに後付けで、偶発的学習を取り上げ、「このゲームはPDCAを学ぶのが目的だ」と強弁すると、偶発的学習は意図的学習に変質し、ゲーム研修として成立してしまう。これが本当に悩ましく、当社ではこうした研修を「こじつけ研修」と呼ぶ。

 例えば、スーパーマリオで敵が迫ってきたという状況に対して、ジャンプして躱すか踏み潰すかを選択するから状況対応もしくは危機管理の研修だといわれたらどうだろう。ドラゴンクエストは、横文字のモンスター名から英単語を学ぶ研修だといわれたら、こじつけだと思うだろう。これは人材開発の様々な分野で起こっている。例えば、音楽だったり、芸術だったり、スポーツだったり、どのような活動にも偶発的学習がある。どのような分野でも未経験者がその体験をすればそれなりに示唆はある。そこを取り上げて研修化することで、こじつけ研修が生まれるのである。

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