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経営者“心と体の健康法”あれこれ実践記

第10回  心と体の健康のバランスをどう取るか 2

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 またまた、前回のコラムからずいぶん時間が空いてしまいました。
 健康法は長続きするのですが、締切が特になく自由に書いていいコラム執筆は、私の場合なかなか習慣化できません。と言い訳をしていたら、編集者からいきなり締切を設けられてしまいました。厳しー!

自分の心の状態を俯瞰して観察するということ

 さて、前回は「多忙な40~50代の経営者が、心身ともにより良い状態を保つために、特に心の健康を促進していく方法」として、自分の心の状態を把握すること、つまり「自分の心の状態を俯瞰して観察すること」が大事だと書きました。
 医師であれば、まずは健康状態を診察しないと診療に進めませんね。同じように今ある自分の心の状態を診察してみようということです。

 経営者は孤独だとよく言われます。寝ても覚めても会社の経営状態が気にかかり、重要な最終判断を誰にも相談せず、すべて自分で行わなければならないこともあります。仕事とはいえ大きな判断業務が続くと脳ミソが疲れ切ってしまい、ついミスを犯しやすくなります。

 また、たとえ不安や焦りがあっても、社員や取引先の前ではそうした感情を押し隠すことも多いでしょう。悩みを他人に話すことで心の負担が軽くなりますが、経営者の立場上、できないことも少なくありません。そうした状態の中ではつい無理が重なってしまい、心の健康状態を保つことが難しくなります。

 周りから見えにくい経営者の心の状態をまず知るべきは自分です。ただ、自分の心ですから感情などのバイアスがかかり、客観的にとらえることが難しいというのが正直なところです。だからこそ目線を現状の自分より一段上に上げて、俯瞰して観察することが重要なのです。

 少し専門的な用語を使うと、こうして俯瞰して自分を見ることを「メタ認知」と言います。「メタ」とはギリシア語由来の接頭辞で、「高次の~」「~を超えた」などの意味合いを持つ言葉であり、「メタ認知」とは、普段の自分を俯瞰して認知すること、自分の今ある状態、考え、感情、行動などを客観的に把握し認識することです。

自分のことをコントロールしやすくなる

 こういうと少々難しいように思えますが、要は自分のことを「他人ごと」のように見るということです。
 たとえば、心の状態が重い、おかしいと感じたり、自分のことを否定的な感情で見てしまう場合、

「なぜこの人は、不安な気持ちでいるのだろう?」

「なぜこの人は、ささいなことで身近な人につらくあたってしまうのだろう?」

「なぜこの人は、いつも焦っていて集中力を保てないのだろう?」

「なぜこの人は、特定の人たちに対していやな感情を持っているんだろう?」

「なぜこの人は、もうみんなの前からなくなってしまいたいなどと考えてしまうのだろう?」

 こんなふうに自分に対して「他人ごと」のように分析し、その「他人」にアドバイスをしてやるのです。
 そうすると、意外なことに躓いていることに気づいたり、それならこうすれば落ち着くではないかと、解決方法が浮かんだりして、すっと気持ちが軽くなってきます。
 これは、自分で自分をコントロールしやすくなるということであり、感情的にどうしようもならない状態に陥っても、早めに抜け出せるようになります。

 以下は私が起業をしてしばらく経った頃の話です。
 胸の中にずーっと不安があって、私はその「心の不調」に薄々気づきながらも忙しいからと放置していました。すると、やることなすこと中途半端になり、当然、半端な仕事では物事はうまくいきませんから、苛立ちから人につらく当たっているうちに、いつの間にか自分の感情がコントロールできなくなっていました。
 もちろん、起業当初は経営が安定せず、不安になるのも仕方がないのですが、自分の心を見つめるということを怠ったがために負の連鎖に陥り、かえって不安や焦りを大きくしてしまったのでした。

 こうした状況を打開したのが先ほどご紹介した「メタ認知」、つまり自分を「他人ごと」として見ることでした。
「うまくいっていることも結構あるじゃないか。お前なかなかやるな。いまのままで大丈夫、大丈夫。いま不安に思っていることは●●が原因だが、それは時間がたたないと解決しないので、とりあえず1か月間脇において、今できる▲▲に集中するようにしよう。それができたら、褒美をやろう」
 こんな風に自分にアドバイスしてみると、やがて心が軽くなり、スランプを抜け出せたことを今も鮮明に覚えています。

 私も完全にできているかというと、まだまだほど遠いのですが、経営者こそ自分を俯瞰してみる「メタ認知」の手法は、心の健康状態を保つのに不可欠だと思います。
 みなさんも試してみてはいかがでしょうか?

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プロフィール

ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長 寺澤 康介

ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長 寺澤 康介

1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。約6 万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。 約25年間、大企業から中堅中小企業まで幅広く採用、人事関連のコンサルティングを行う。週刊東洋経済、労政時報、企業と人材、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春などに執筆、出演、取材記事掲載多数。企業、大学等での講演を年間数十回行っている。

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