「物語」でチームにエネルギーをチャージする

やってもやっても求められ続ける業績。働く以上成果を出さなければならないことはわかっていても、時には「疲れた」と感じることもあるのではないでしょうか。経営者や管理職は、そのような気持ちをなかなか吐露しにくいもの。そのため、メンバーが疲れた様子を見せたり、元気がなかったりすると「やる気を出してほしい」と思うのかもしれません。

 やってもやっても求められ続ける業績。働く以上成果を出さなければならないことはわかっていても、時には「疲れた」と感じることもあるのではないでしょうか。経営者や管理職は、そのような気持ちをなかなか吐露しにくいもの。そのため、メンバーが疲れた様子を見せたり、元気がなかったりすると「やる気を出してほしい」と思うのかもしれません。
 しかし、経営者、管理職であっても一人の人間です。「疲れた」と思う気持ちがあって当然。「休みたい」と思うこともあるでしょう。そうした自分の心の声は押し殺さずに、「あ~、自分は疲れてるんだな」、「休みたいと思っているんだな」という心の声を大事にしてみてはいかがでしょうか。その理由は、ご自身の心の声を大事にすることは、メンバーの気持ちに寄り添うことにつながり、彼らの気持ちに添った働きかけを生み出すきっかけになるからです。

 このようなことを申し上げるのは、近年、企業研修の現場で接する参加者の多くが、とにかく「疲れきっているなぁ」と感じるから。一生懸命施策に取り組んでも、短期間で変化する環境により、成果らしい成果として評価されにくい。こんなことが続けば、誰でも疲弊してしまいます。
 しかし、そんな彼らに研修の中でこれからお伝えする次の視点でメッセージを伝えると、気持ちがリフレッシュされたり、前向きな気持ちが喚起されるよう。

 そこで今回は、メンバーに元気がないと感じたり、チームのムードが停滞しているときに発信すると効果的なメッセージについてお伝えします。

 まずは次の図をご覧ください。
「物語」でチームにエネルギーをチャージする
 どのような組織でも、過去があり、目指す未来があり、そして「今」があります。メンバーに元気がない、組織が停滞しているときというのは、将来に不安を感じているか、過去からの課題を克服できずに悩んでいたり、意欲が低下している状態です。

 不安や悩みがあるときというのは、マイナスな感情に支配され、希望や自信を失っている状態といえます。そこで必要なのは視点を変えることです。しかし人は、マイナス感情に支配されていると、なかなか視点を変えることができません。他者からの働きかけにより「そういう見方もあるな」と気づかせていくことが必要です。といっても、すぐに気づいて感情が変化する人もいれば、なかなか変化しない人もいます。そのためリーダーに必要なのは、時、人、場を変えながら繰り返し肯定的なメッセージを伝えていくことです。

 それではどのようなメッセージを伝えると効果があるのでしょうか? 目的や状況に合わせられるよう、次の3つの視点をご紹介します。

視点1:将来への漠然とした不安があるとき

 経営ビジョン、中長期経営計画、単年度の目標など、未来に向けた数量的な情報は発信されていることでしょう。しかし、それらの情報と自分の仕事とのつながりが具体的にイメージできている社員はそれほど多くありません。
 また、それらの目標に対してはコミットメントを求められますが、本音では「無理かもしれない」と感じていることを、言えないでいることがほとんどです。
 組織の方向性と自分の仕事とのつながりが見えず、まして「できるだろうか?」と思っていれば、不安を感じても無理はありません。
 そこで大事なのが、「私たちの仕事は、誰の、どんな役に立っているのだろうか?」、「それにより、私たちは何が得られるのだろうか?」、「どうなると私たちは嬉しいだろうか?」ということを自分たちごととして感じられるレベルまで落とし込むことです。
 このような話の中で「どうしたら嬉しいか」について一般的に最初にイメージとして出てくるのは、「給料があがること」、「お休みが取りやすいこと」などです。もし今それが出来ていないのであれば、それらの中から今できそうなことを目標として設定し、伝えることも一考です。例えば「毎週日を決めて、早く帰れる日を作ろう(だからそのために工夫しよう)」や、「それぞれが有給をとりやすいようにお互い助け合える職場を作っていこう」など。
 未来像というと、高邁なイメージをもたなければならない印象を受けますが、そんなことはありません。皆で少し力を合わせれば出来そうな未来像を作り、それを職場の目標とする。このような視点がチームに活力を与えます。

視点2:自信を失っているとき

 仕事の行き詰まり、手ごたえが感じられない、うまくいかずに自信を失う。誰しもこのような経験をします。しかし、そのような状況に直面していると、「このままの状態が続くのではないか」と、不安や焦る気持ちが強くなり、なかなかその状況から脱することができなくなります。
 そのような時に最も有効なのは、相手に寄り添いじっくり話を聞いたうえで、「あなたなら大丈夫だ」と伝えることです。
 しかしそれができるのは、本人が自信を失っていることを自覚し「話をきいてほしい」と頼ってきた時です。通常は、本人が自分の状態に気づかず「なんとなく」モヤモヤしていることが多いものです。
 そこで、リーダーから見てメンバーが「自信を失ってるかもしれないな」と感じたら、組織の過去を振り返り、様々な状況を乗り越えてきたエピソードなどを伝えることが有効です。その際大事なことは「誰でも困難に直面する。でも必ず道は開ける。大丈夫だ」という視点で伝えることです。
 リーダーの多くが、松下幸之助氏や本田宗一郎氏など、苦労を超えて組織を発展させた経営者の話に心を惹かれるのは、彼らが直面した問題や課題の多くは、私たち一人ひとりにも共通する点があり、それを乗り越えるためのヒントが隠されているからではないでしょうか。そして何となくではあっても「できそうだ」という気がしてくるからといえます。
 このように人は、自分だけでは自分の状態になかなか気づくことができないので、時折、「誰でも困難に直面する。でも必ず道は開ける。大丈夫」という視点でメッセージを発信することは、メンバーの感情を切り替えることにつながります。

視点3:一人ひとりの力を引き出したいとき

 「先頭に立って先導する」というのが、リーダーのイメージとして定着していますが、昨今のリーダーに求められる役割は変化しています。その理由は、リーダー一人の頑張りでは出せる成果に限界があるからです。例えば、アイドルグループなどでリーダーになる人をイメージするとわかりやすいかもしれません。リーダーとして活躍するのは、どちらかというと縁の下の力持ち的な、皆の個性を引き出せるような人がリーダーになっています。
 それでは、縁の下の力持ち的リーダーはどのようにメンバーの力を引き出しているのでしょうか。
 よく見ていると彼らが取り組んでいることは、今の組織の状況や課題などを客観的に伝え、「どうしたらいいだろうか?」、「どうしたらできるだろうか?」などメンバーへ問いかけることです。
 問いかけを通じてそれぞれのアイデアを引き出し、それを実行に移す。その繰り返しをしています。
 問いかけを行うとメンバーは、「期待されている」、「自分がいないと」、「自分にしかできない」、「これはやりたい」、「これならいけそうだ」、「面白そうだ」と、それぞれの中で自分なりの目的を持ちます。すると、自発的に考え動きます。
 その様子をはたから見ると、「チームがイキイキしている」、「まとまりがある」と見えます。
 自発的に見えるチームというのは、リーダーの関与は最小限で、投げかけや問いかけが中心だといえるのです。その際のポイントは、メンバーからの意見は出来る限りうけとめ、いくつか気になる点については確認したうえで、まずは「やらせてみる」。ここがポイントです。
 人は任されると力を発揮します。何を任せられると喜ぶのか。このような点をあわせてみていくと、またメンバーの新たな力の引き出しにつながります。

 以上 チームに元気がないとき、ムードが停滞しているときのメッセージについて紹介いたしました。
 まずはリーダーとして、未来、過去、現在において、どのような物語があったか。ご自身の経験を振り返ってみてはいかがでしょうか?