あなたの職場のストーリーを語り、リーダーシップを組織に浸透させよう

【世界に通用するリーダーをつくる】第五回は、リーダーシップとは何か、その理解と共有について考えます。職場で実践されているリーダーシップのストーリーを活用し、リーダーシップを組織に浸透させるための方法を一緒に考えていきましょう。

【世界に通用するリーダーをつくる】前回は世界に通用する真のリーダーシップが日本で育ちにくい状況を、3つのポイントに分けて診断しました。今回はその最初のステップとなる、リーダーシップの理解と共有についての処方箋を作ります。職場で実践されているリーダーシップのストーリーを活用し、リーダーシップとは何かについて組織に浸透させるための方法を一緒に考えていきましょう。

1.リーダーシップを定義する

 リーダーシップは資質ではない。またスキルやテクニックでもない。目的のために、危険を冒しても自分自身の意志と勇気をもって選択し、実際にとる行動である。リーダーシップを育てるために最初に行うべきことは、このリーダーシップの意味するところを組織のなかで徹底すること。理解を促すためには、分かりやすくかつ共感を得られるようなストーリーが効果的だ。皆さんの職場で起こっている身近な出来事を取り上げて、リーダーシップの意味を考えてみるというのはどうだろうか。
 具体例を紹介しよう。人事部門の給与グループでは昨年から今年にかけて数回にわたって給与支給に大きなエラーを発生させてしまっていた。グループ・マネジャーは、オペレーションを見直し標準化することにより、その解決を図ろうとした。正確かつ効率的な給与支給サービスを提供することを目指してプロジェクトを開始し、いくつかのチェンジに着手した。
 その一つに、全社に発信する人事異動の告知文書の中止があった。目的に沿った重要業務にリソースを振り向けるためのこの変更はリスクを伴っていた。つまりこの告知を使っていたクライアント(社員およびマネジャー)にとっての便宜が失われることに対して抵抗が生まれる可能性があった。ここでマネジャーがとる行動の選択肢は二通りだ。目的のために変更を貫くか、リスクを避けて現状維持するか。マネジャーは同僚である部門担当人事や上司の意見を求める。同僚は目的を理解し合意はするものの、部門担当という立場から対立を作ることは避けたいという思いがその言動に表れる。上司はマネジャーに実行責任を委ね、全面的にサポートすることを約束する。マネジャーは自らの意志により決断を迫られる。そしてこの変更を実行することを選択する。
 マネジャーはこの決定を全社にコミュニケーションする。クライアントからの問い合わせや要求には、大きな視点に立って全体像を見据え、細部の問題から目的の本質に注意を向けられるよう丁寧に議論を促していく。権威に頼ることなく、自信と共感をもってオープンにかつ真摯に対応し、目的の達成に向けてブレることなく進めていく。
 私たちはこれをリーダーシップと呼ぶ。このリーダーシップの原動力になるのは目的である。チェンジの推進によって一部の人々が何かを失うこととなる場合、これは受け入れがたいものであるため様々な形での抵抗が生じる。時にそれは推進する者に対する非難となって表れる。その非難をしっかりと受け止めながら、揺らぐことなく踏みとどまることが重要だ。リスクを判断し対処しながらも、焦らず確実に前へ進める。危険を冒しても仕事を続けるのは目的のためである。誰かがやってくれると考えるのでなく自らが行うべき仕事をその目的に向けて進めていく、その実践をリーダーシップと定義する。それは生まれもっての性格や特性ではなく誰にでも可能な行動である。その行動を支えるものとしてコミュニケーションやチェンジマネジメントなどのスキルは役に立つが、それはあくまでツールである。目的のために、危険を冒しても自分自身の意志と勇気をもって選択し実際に行動することをリーダーシップととらえ、組織の中で広く語っていくことが大切だ。

2.リーダーシップを広める

 組織にはそれぞれ独自の文化があり、それが人々の行動に影響を与えている。あなたの会社の職場において最も重要視されるべき行動やリーダーシップは、あなたの職場で実際に起こっていることから導き出される。それらを集めてトップ自らがよく吟味し、経営陣が十分に理解し実感したものについて、全社に伝えられるように言葉にすることが欠かせない。
 筆者が勤めてきたグローバル企業においては、例えばERICSSONではOur Way of Leading、3MではLeadership Attributesとして明文化され全社に展開されていた。PHILIPSにおいても同様である。数年前から進めているAccelerate! という変革のプログラムに沿ってLeadershipに関しても見直しが進められ2014年より Our Competences という6つの項目からなるガイドが発表、展開されている。次回は当社におけるこの具体例を紹介する。