経営トップの「内省的実践」とは? ~需要創造型の実践理念経営を促進する~

世界経済の市場環境は相変わらず激変しています。今回は、この激変の時代に成功確率の高い「経営の舵取り」(以下「舵取り」)をするための、経営トップの「内省的実践」について考えたいと思います。「舵取り」とは「市場環境の必然を先見し、道を定める」こと。「内省的実践」とは、メタ認知を働かせながら実務を行い、成功確率を上げていくことです。

経営トップの「舵取り」の困難さ

 世界経済の市場環境は相変わらず激変しています。
 今回は、この激変の時代に成功確率の高い「経営の舵取り」(以下「舵取り」)をするための、経営トップの「内省的実践」について考えたいと思います。「舵取り」とは「市場環境の必然を先見し、道を定める」こと。「内省的実践」とは、メタ認知を働かせながら実務を行い、成功確率を上げていくことです。
 さて、激変する市場環境の中での「舵取り」は至難の技ですが、例えば、トヨタ自動車のハイブリッド車開発は、成功例といえるでしょう。
 脚光を浴びたのは、数年前からですが、取り組み始めたのは、実に30年以上前にさかのぼるから驚きです。
 エンジンと電気モーターのW動力源で、エコや低燃費を実現した車の誕生は、まさに「時代の必然を読んだ新事業」を育てた成果と言っても、過言ではありません。
 しかし、トヨタ自動車のような長期的スパンでの「舵取り」ができる企業は数少ないのが実態ではないでしょうか。
 経営トップは、さまざまな決済、株主対応、取引先との良好な関係の構築など、日々数多の「舵取り」をしながら、組織をどこに向かわせるのかという難題を抱えています。
 市場環境が読めなくても経営判断をし、結果を一定期間内に出さなければならず、「強い不安」がのしかかる。そんな中でも、最終的に自分が決めなければならない項目が多く、「意志決定した事項」に対する成果の検証が問われる立場にあるのです。

経営トップの「内省」の落とし穴

 このようなことから、経営トップが成果の検証をして自らを振り返る、つまり「内省」する時、ともすれば陥りがちな「落とし穴」があります。私自身、経験者ですので、整理してみました。

①短期的成果(一年)を関心事の中心として内省する
②連続性(既存のビジネスモデルによる成果)と革新性(新たな戦略・方針による成果)のどちらかで内省しようとする
③社内の不活性部分や「できていない点」を列挙して内省しようとする
④「理念・ビジョン」の実践と短期業績を分けて内省しようとする

 などです。
 これの原因を掘り下げ、どのような対策を講じているのかも当然、内省することになります。
 私の場合、このような内省を続けていたある日、こう強く感じました。「なんで皆、こんなに疲れているのだろう? ひょっとすると、自分は社員に対して『できてない』を前提に質問しているのではないか? もしそうならば『できていない点』が目に付くだけでなく、『集団の関心事=経営トップの関心事』の枠組の中に社員の意識が限定されてしまう……」と。
 そのような「落とし穴」にはまっていることに気付いた瞬間でした。

「舵取り」の成功率を上げる「内省」

「舵取り」の成功確率を上げるには、本来は以下のように「内省する」のが望ましいのです。

①「短期・中期・長期」を串刺しにした成果に、関心の中心がある
 現場に近づくに従って、より短期の業績に関心がいってしまいがちです。だからこそ、経営トップは「短期・中期・長期」を見据え、串刺しにした業績がどこまでできているかを「内省する」必要があるのです。
②連続性と革新性を「統合」または「両立」させた打ち手や仕事ぶりが、どこまでできているかを「内省する」
 そうしなければ、経営成果の乱高下を必要以上に生じさせるからです。
③「できている点」を見る習慣をつける
 どこまでできるようになったかが重要だからです。
④「理念・ビジョン」の実践化を図る過程での業績成果を「内省する」
 経営トップの「理想的な信念や価値観」を具現化した結果としての成果に関心を持つことが、「理念・ビジョン」の浸透を促すからです。

「内省」の原点は何か

 では、どうしたら「落とし穴」を避けられるのでしょうか?
 大切なことは、内省する時「発想の原点」を間違えないことです。
 以下に、私が①~④の「落とし穴」から抜け出したとき、「仕事とはこういうものだ」と認識した「仕事観」を基にまとめました。

①仕事は謳歌するもの」である
 「本来、多くの人は仕事を謳歌できる」という考え方に立ち返ることです。経営トップには、社員時代にそれなりの成果を挙げた経験を持つ人が多いものです。例えば、お客様から指名されたり、飛び抜けた技術保持者だったり、オペレーション構築に秀でていたなど。
 自分の強みを活かす術を知っており、もともと働くことが好きで、日頃からお客様をはじめ社内外での信頼関係をつくってきたという自信や誇りをお持ちではないでしょうか。
 私自身は「仕事によって、人生の醍醐味と真理を学ばせてもらっている」と感じています。新人のころからさまざまな経験を積み、お客様や組織から教わるプロセスの中で、仕事を謳歌できるようになったからです。

②「役立つことの喜び」を意識する
 自分の「お役立ち意識」を意識することです。
 経営トップは、仕事の成果を挙げる過程で、お客様や組織に喜ばれた経験をお持ちです。この「お役に立つことの喜び」を体感しているからこそ、本来の自分に立ち戻ることができます。
「良い仕事をすればお客様や組織、多くの仲間たちと喜びを共にできる」という「お役立ち意識」は、自分で自分を動機付ける原動力にもなるのです。
 これら「発想の原点」から外れなければ、「短期・中期・長期」を串刺しにした業績や連続性と革新性を統合した成果の進捗などの「内省」ができ、組織の皆が体験できるようになると思えるようになります。
 「仕事は謳歌できるもの」「お役立ちの喜びを体感できるもの」という仕事観がメンバーにも伝わりやすくなり、社員やチームの強みと相まって、組織としての知恵の開発を進めることにつながります。
 つまり、経営トップとして落とし穴にはまることなく「内省的実践」を行えると、成功率の高い「舵取り」ができ、需要創造型の実践理念経営を促進させられるのです。
 また、経営トップの「理念・ビジョン」には、社会貢献を含む場合も多いので、経営トップのお役立ち意識と連動し、経営判断の成功確率が上がれば、組織文化にも好影響を与えていくことでしょう。