需要創造型経営を支える創造的な組織文化

創造的な組織文化を支える仕事ぶりは、次の三つの価値観と行動様式で分類することができます。これらが高い状態(お役立ちに、共創し協働して、チャレンジし続ける仕事ぶり)をつくることによって、創造的な組織づくりが可能になり、需要創造型経営を促進すると考えています。

 創造的な組織文化を支える仕事ぶりは、次の三つの価値観と行動様式で分類することができます。

①より良い社会や市場にするために役立つこと→お役立ちの価値観と行動様式
②知恵と力を結集すること→協調の価値観と行動様式
③チャレンジすること→挑戦の価値観と行動様式

 組織文化の構成要素は数多くありますが、ジェックでは、この三つの価値観とそれに基づく行動様式による集団の特徴を集団性格と位置づけ、これらが高い状態(お役立ちに、共創し協働して、チャレンジし続ける仕事ぶり)をつくることによって、創造的な組織づくりが可能になり、需要創造型経営を促進すると考えています(※1)。

創造性を発揮するための要件と集団性格の関係

 「創造性」というと、さまざまな分野がありますが、今回はビジネスにおける「創造性発揮の要件」について整理していきましょう。
 世の中には「アイデア商品」と言われるものがたくさんあります。また、顧客接点において、お客様の個別事情に合わせて自社商品の新たな用途を創造することもあるでしょう。
 では、このような創造的な価値(サービス・商品)はどのようにして生まれてきているのでしょうか。

1. 必要を発見・創造し、充足する
 「現存する価値(サービス・商品)」は、そのほとんどが消費者が「必要」を感じ、「こんなものがあれば欲しい」「こんなサービスをしてくれればありがたい」といったニーズ(必要性)を満たすために生まれてきています。
 例えば、男性が「男性らしい」と思っていた男性化粧品の匂いが、女性からすると「不快に感じる匂い」ということがありました。そこで化粧品会社は「女性が不快に感じない商品」をつくることに取り組んで、開発を成功させたそうです。
 つまり、現在ニーズを感じるものや、今後必要になるであろうことを充足するために役に立つことは何かと考えるとき、創造性が発揮されるのです。

2. 試行錯誤と実験的行為
 ニーズが分かったとしてもそれを充足するには、実験的な行為を何度も進め、試行錯誤することが必要です。そのプロセスで、ニーズと充足する価値を一致させることが精査されるようになります。
 これこそが、あくなき挑戦の価値観と行動様式を意味します。
 また、全てのニーズを満たすことができるとは限りません。自分だけでなく自社の強みや専門分野で満たさなければ、責任の持てる価値(サービス・商品)にはなりにくいものです。

3. 的絞り
 次に、ニーズのどこに的を絞るのかという知恵が必要になってきます。これは、戦略思考(選択と集中)と呼ばれる思考の一つで、ニーズや仕事の全体像をイメージした上で、何に的を絞れば、一石五鳥のお役立ちになるのか考えることを意味します。

4. 統合思考
 さらに、どちらかが得をしてどちらかが損をするというような発想ではなく、両者が得をするための知恵を出さなければなりません。それは、お互いがお互いの役に立つための創造性を発揮することです。

5. 思考の枠組みを外す
 4のような発想をするためには、思考の枠組みを外すことが必要になります。人間の思考には、事実認識としての「ものの見方」や「こうすれば、こうなる」といった因果の理論があります。その思考が、いつの間にか自分自身で枠組みを作り、固定観念となり、自らの思考プロセスを狭いものにしてしまうことがあるのです。
 創造性を発揮するためには、固定観念を取り除き、ニュートラルな立場から今までのやり方や考え方を鳥瞰し、新たな発想や起点を生み出す必要があります。
 例えば「成功とは、金銭と権力と名誉である」という成功観(成功とはこういうものだという事実認識)を持つ人がいるとします。すると、その人はそのような枠組みの中だけで考え、判断しようとするでしょう。こういった思い込みは結果的に、他人と比較し自分自身をおとしめる思考から抜け出せなくなる場合が多くあります。
 しかし、この枠組みを外し「本当の成功とは、自分にしか果たせない、誰かの役に立つ使命を果たすことだ」というような成功観に「気付く」ことができると、思考の枠組みや選択肢が広がるようになり、新たなアイデアが生まれやすくなります。
 これには、「思考の枠組みを外して発想することが許される」という安心感を持つことができる集団の中にいることが前提です。

6. 集団の中での安心感を作る
 人間は集団を形成すると、その集団の中で自分の存在に対する不安感が発生するものです。その不安感を安心感に変えていかなければ、思考は限定されてしまいます。
 不安感による思考の選択肢は「戦うか、逃げるか」という二者択一の思考に陥りがちですが、安心感が土台にあれば、さまざまな選択肢を考えることができるようになります。この安心感が、思考の枠組みを外し、創造性を発揮する土台をつくることになるのです。

 以上のように、創造性発揮のための要件は、集団性格を高めることでクリアできる関係にあります。


※1 三つの価値観と行動様式(挑戦・協調・お役立ち)の有効性は、慶応大学との共同研究によって検証されています。