経営トップの経営判断の基準とは ~Y理論経営を基準とする~

不倒不滅(長寿)の企業を実現するための「経営判断の基準」とは何か。今回のテーマは「Y理論経営を基準とする」です。 Y理論とは、「人間は生来、働くことが好き」という、働くことに対する人間観のことです。逆に、「人間は生来、仕事が嫌い」という人間観を「X理論」と言います(ダグラス・マグレガーの主張を基にジェックで解釈)。

Y理論の人間観に立ち戻る

 不倒不滅(長寿)の企業を実現するための「経営判断の基準」とは何か。

 今回のテーマは「Y理論経営を基準とする」です。Y理論とは、「人間は生来、働くことが好き」という、働くことに対する人間観のことです。逆に、「人間は生来、仕事が嫌い」という人間観を「X理論」と言います(ダグラス・マグレガーの主張を基にジェックで解釈)。
 このY理論の人間観に立ち、マネジメント、オペレーション、提供価値(サービス・商品)に至るまで一気通貫させることを「Y理論経営」と呼んでいます。これを、経営の原点とし、立ち戻って判断することが重要です。すると、価値創造につながる社員や組織の美点が見えてきます。その美点を経営トップが見つめ続ければ、社員や組織はそれを敏感に察知し、期待に応えようとします。
 そして、Y理論に立ったマネジメントは、一人ひとりの働く意欲を引き出すことにもなります。さらに、社員同士の信頼を増幅することにもなるのです。
 これは、良い組織文化をつくることにもつながります。社会や市場をより良くするような理念を実践し、お役立ちのために、新たな価値(サービス・商品)を創造し続ける不倒不滅(長寿)企業をつくる土台になる考え方となるのです。
 だから、経営判断の基準として、「Y理論経営」を判断基準にすることです。

経営トップの葛藤

 経営トップから「理屈は分かっている。しかし、現実は違うのですよ」という葛藤の言葉もよく聞きます。例えば、

①経営トップから見れば、社員や組織のレベルが低く見える。特に、「考えない社員や組織、依存的な社員や組織」に見えるので、事細かく指示を出すべきか、自主性を重んじるべきかと、葛藤する。
②Y理論と言いながら、マネジメントもオペレーションも、美点凝視ではなく欠点凝視が強く、現実とのギャップに葛藤する。

 このような葛藤を抱えるため、次のような判断に陥ることがあります。

①次期経営幹部の人選は、能力が高ければ、X理論的人選が中心となってもよい。  
②「Y理論は規律に甘くなる」との指摘に、適切な対処ができず、自らの判断を徹底できない。
③経営トップに忍耐力が要求される「自立的な価値創造の重視」よりも、目先の業績を追及する「アメ・ムチ型のマネジメント」を容認してしまう。

社長就任時に「Y理論経営の徹底」を宣言

 私が社長に就任した時、再度、「Y理論経営を徹底すること」を宣言しました。
 もちろん、ジェックは設立間もない頃からY理論を打ち出し、特に管理者対象のコースでは、強く訴えてきました。しかし、振り返ると、長年のバブル期やバブル崩壊後の時代を経験するうちに、Y理論に基づいた経営を徹底し、深めることがおろそかになっていました。
 本来、Y理論のマネジメントを徹底すれば、「気づき」が促進され、価値創造力が発揮されるはずです。しかし、現状のマネジメントや制度・仕組みに反映されず、Y理論経営が徹底されていないのです。

 私が最も悩んだのが、「経営方針の打ち出し方」です。
 これまでは、新しく経営方針を打ち出す時、「これまでの考え方・やり方を全面否定された」と社員に受けとめられかねない打ち出し方をするのが通例でした。その方が、インパクトがあり、浸透しやすいというメリットがあるからです。
 しかし、デメリットもありました。社員に、変えてはならない不易の部分まで否定されたと受け取られ、大切な言葉や行動が継続されないという不具合が生じるのです。社員は「今までもY理論の経営をやってきた」という自負を持っていますから、また同じように、「全面否定された」と受け取られ、経営方針そのものを、最初から理解しようとしないことも予測されます。

Y理論に基づいた経営方針発表

 私は、「Y理論を徹底させたいのであれば、経営トップの方針発表や浸透方法も、Y理論に基づいて実践することだ」と心の中で結論付けました。そして、「たとえ多少時間がかかっても、忍耐強く、知恵を引き出していけば、最終的には社員は応えてくれる。一人でも、お客さま一社でも手応えが見つかれば、必ず浸透し、業績成果という結果が付いてくる」と心を決めました。
 このように自分の心が決まった時、さまざまな方針発表や浸透方法のアイデアが生まれてきたのです。経営幹部からも良いアイデアが生まれてきました。

 総合的に振り返って、留意したことをまとめると以下の通りです。

①経営幹部を含め、社員全員をY理論の目で見直す。
②Y理論に基づくマネジメント、すなわち行動理論改革の「気づき」の手法のたたき台を提示し、経営幹部、社員全員の持っている知恵を引き出す。
③全面否定ではなく、今までのやり方を状況に応じた打ち手として肯定し、その上で、状況の違いから今までの考え方と違う経営方針を打ち出すという点を明確にする。
④小さな成果を即取り上げ、成果事例とすることを盛り込む。
⑤Yラインの徹底にも取り組む。

 今では、Y理論に基づく「気づき」による行動理論の改革手法が社内に浸透し、マネジメントにおいても、「小さな成果を即褒める」ことが習慣化してきています。今まで以上に、お客さまが、その先のお客さまに選ばれ続けるようになり、成果も上がってきています。
 以上から、経営トップが経営判断に迷った時は、「Y理論の経営」に立ち戻ることが重要なのです。

経営判断まとめ:「Y理論の経営」で判断せよ

 経営の基本は、社員すなわち個人と、組織の可能性を信じることから始まります。
 個人は、自分のお役立ちビジョンを描き、実現する力を持っています。組織は、個人の可能性を引き出し、組織のシナジーを発揮して、個人ではできない非凡なことを成し遂げることができます。
 Y理論の人間観、すなわち「働くことが好き」「創造性を発揮できる」「主体的に責任を持つ」などを前提にして、個人や組織をみる。これを徹底することが重要なのです。