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第9回  日本企業の人事課題

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経営視点による人事課題

 図2は2016年11月に発表された、「第37回 当面する企業経営課題に関する調査 日本企業の経営課題2016」(日本能率協会)のアンケート結果です。人事に関する課題として、トップに挙がっているのが、2位の「人材の強化(採用・育成・多様化への対応)です。広い意味で、先に話題にした後任者育成も含まれています。
経営視点による人事課題

 日本能率協会は、2015年1月にも「第36回 当面する企業経営課題に関する調査 企業の経営課題 組織人事編」を発行しています。この調査には、グローバル人材の不足、次世代のビジネスリーダーの不足と言った、採用、育成、配置にまたがる課題が挙げられています。
 「事業基盤の強化・再編」において、経営はタイムリーに適切な人材を集め、育成し、配置し、評価し、処遇する、という一連のマネジメントが求められます。集めただけでも、育成しただけでも、事業機能は機能しません。
 さらに、グローバルに関係する企業は、人を動かす仕組み作りの範囲が、国内からグローバルへと一気に拡大されてしまいました。しかし、国内だけの人材優先の体質、海外支社でも日本人優位な制度や待遇、海外の人事とのコミュニケーション不足、本社の人事戦略や計画、ポリシーの共有不足など、人事が解決していかなければならない課題が山積みです。また、海外のローカルスタッフをどのようにして動かしたらいいのか、どのような価値観で仕事をし、何を評価すればいいのか、本社人事では全く手も足もでないため、現地任せとなっている企業も多いのではないでしょうか。

 このような課題の原因を深く調べていくと、確かに現象として現れる課題は様々なのですが、その根底となる要因は意外にも人事に一番身近で基本的なところにありました。それは、人事戦略と人財マネジメントに、そもそも根本的で重要な課題だったとことに気づきます。
 組織構造や人事制度、人材は人事戦略に強く影響されます。そして、人材と組織は人財マネジメントによって管理されています。この仕組みを理解した上で、どのような人事戦略を立案し、どのような具現化策を人財マネジメントで展開させるのか、その責任と役割は人事部にあるのです。これができない人事部は、この役割を経営企画部や経営戦略室などといった現場の部門に任せることになります。経営陣も人事部の実態が良く分かっているので、人事部には任せられないというのです。
 話を戻すと、経営視点による人事課題とは、人事自体に人事戦略が策定できず、人財マネジメントが現場任せになっている、というきわめて重要な点にあるのです。

「人事戦略」が作れない人事

 「人事戦略」とは、企業の成長戦略も含む経営戦略や各事業戦略を実現させるための戦略です。当然、経営戦略に一致したものでなければ経営目標の達成は困難になります。人事戦略が不十分な場合は、人事に代わって経営陣が人材と組織の戦略を考えることになりますが、基本戦略はできたとしても、実行させるための人財マネジメントまで設計し、実行するのは非常に難しいでしょう。企業規模が小さい場合は、経営が全ての戦略やマネジメントを行っても問題は起こらないかもしれませんが、規模が大きくなってくると役割分担をしながら、それぞれの専門家に役割と責任を与えていかなければ立ち行かなくなってしまいます。
 組織、制度、働く環境、人財について総合的に検討し、策を練っていくためには、人事戦略が単独で独立したものであってはなりません。

 しかし、この意識を念頭に置いて「人事戦略」作りに取り掛かったにもかかわらず、実際にできた「人事戦略」を見てみると、経営戦略と一致していないこともよくあります。
 原因は、「人事戦略」を具現化させていく際、関係する業務や組織からの強いニーズに引きずられてしまうことにあります。
 こうしたニーズによって徐々に経営戦略から乖離し始め、出来上がる頃には(残念ながら)きわめて現場ニーズの強い、それぞれの組織に部分最適化された人事戦略になってしまうことも珍しくありません。各組織の部分最適化をいくら整理し集約したところで、経営戦略の実現に一致する全体最適化にはならないのです。

 戦略の作成は、PDCAマネジメントの経験が必須で基本です。
 Planは計画です。目標を達成するためのアクションプラン(実行計画)も含まれます。この計画とは、目標達成させるための最適なやり方で計画が検討されなければなりません。計画策定とは、「仮説」策定です。目標を達成するのに、なるべく無駄なことはやりたくないので、最適で実行可能な「仮説」策定が求められます。戦略策定には、ビジョン(中長期的な目標)に向かってのロードマップと、その具現化のための「仮説」策定となります。最終的には、仮説検証ができなければなりません。これを何度も繰り返すことによって質のいい「戦略」ができるのです。人事戦略と言う仮説策定では、経営と各事業の目標達成における人事面での「仮説」を検討し、策定し、検証するプロセスを踏みます。人事部は経営を理解し、各事業部を理解し、全体整合性を意識しながら、しかも未来洞察(米国企業ではフォーサイトと呼ぶ)を持って「人事戦略」を策定するという、極めて高度な能力が求められます。

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