経営戦略に必要な人事部とは

前回は、経営戦略に必要な5つの人事機能とその軸となる等級制度の重要性について理解をしました。これらの人事機能は、経営戦略にも成長戦略にも大きく影響を与えるため、経営は常に高い関心を持って関与しておく必要があります。

 前回は、経営戦略に必要な5つの人事機能とその軸となる等級制度の重要性について理解をしました。これらの人事機能は、経営戦略にも成長戦略にも大きく影響を与えるため、経営は常に高い関心を持って関与しておく必要があります。

 今回は、これらの人事機能を任せる人事部の役割について考えてみたいと思います。
 著者も人事部の仕事を25年以上経験しており、人事部の役割の変化を肌で感じています。

人事部の果たす役割が大きく変化している

 欧米企業では、グローバル展開している企業であってもなくても、人事部の果たす役割に大きな変化が起こっています。
 日本企業でも同じような動きはありましたが、変化に対応できた人事は少ないのではないでしょうか。

 人事部といえば、就業規則や人事制度を作り、それらを運用管理する部署です。労務管理業務と呼ばれる、給与計算などの賃金管理、労働時間や労働環境の管理、福利厚生、労使関係などの業務に追われ、採用担当や教育研修担当も年中、それぞれの業務に追われています。
 事業や人事を取巻く環境は、ますます加速するグローバル化や多様化、複雑化、高度化、M&Aなどの影響を避けられません。また、世界中の競合企業だけでない相手に勝ち抜いていかなければならず、グローバル規模での要求レベルも格段に上がっているといえるでしょう。
 このように人事部として、働く社員をどのように対応するのか、という大きな決断を迫られる機会を何回も迎えて来たにも関わらず、未だに変わることができずにいる人事があるのではないでしょうか。

 「人事の役割」の定義の代表的なものがあります。
 ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した著「Human Resource Champions, 1997」に、以下の4つの人事の役割が記載されています。

 1. Strategic Partner(戦略パートナー)
 2. Administrative Expert(管理のエキスパート)
 3. Employee Champion(従業員のチャンピオン)
 4. Change Agent(変革のエージェント)

 この人事の役割をベースに、日本企業の人事担当者700名にアンケート調査をした結果が、『HR総研 人事白書2015』に記載されています。とても興味深い統計が紹介されていますので、この中から2つの統計資料を紹介します。

 まず最初に紹介するのが、図1の「現在の人事部門が求められている役割」の統計です。
 人事担当者の回答では「人事管理のエキスパート(人事管理業務を精密に行う役割)(33%)」と「ビジネスの戦略的パートナー(経営戦略、事業戦略の成果に貢献することができる役割)(31%)」がほぼ同じ割合になっています。

 実際に、その役割をどの程度果たしているのかは分かりませんが、著者の個人的感覚としては、戦略的パートナーの期待は感じているものの、それにまだ答えられていないように思えます。
経営戦略に必要な人事部とは
 一方、図2の「今後、人事部に期待される役割」では、「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)(53%)」が半数を超えています。
 「人事管理のエキスパート」から「戦略的パートナー」へと人事部の役割が変化してきていることがここからも窺えます。
経営戦略に必要な人事部とは

人事部に求められる戦略のパートナー

 ビジネスの成果に貢献する、すなわち、経営戦略に貢献することができる戦略的なビジネス・パートナーとしての役割が、今後、経営から強く求められているのが分かります。

 では、戦略的なビジネス・パートナーとはどのような役割なのでしょうか。

 フォーチュン100社の優良企業(※1)の人事に関する共通点を探していくと、人事部の役割が明らかなってきます。

 この戦略的なパートナーとなるためには、次の2つの段階を踏む必要があります。
 まずは、戦略的パートナーとなることへの意識作りです。
 社員に対する考えから見なおし、人事部の価値についても見直しています。

 次に、戦略的組織になるために価値を提供する人事機能とその機能設計について見直しをします。
 少ない人数でも戦略的な組織になるために、戦略的な機能を持たない人事サービスや作業(例えば、給与処理や福利厚生など)はできる限りアウトソーシングします。また、採用でも募集から書類選考、1次面接試験までの機能だけをアウトソースしています。

 こうした段階を経て、人事部は戦略的なビジネス・パートナーになっていきます。

 戦略的なビジネス・パートナーとは、

(1) 経営陣や現場マネージャ、更には、社員からも信頼され、頼りにされる存在であること。そのためには、まず経営陣やマネージャ、社員とのコミュニケーションが十分にできなければならない
 ・経営陣とのコミュニケーションに於いては、経営方針やビジョン、経営戦略、決算書を理解する知識やスキルがある。
 ・現場のマネージャとのコミュニケーションでは、現場の知識や状況を的確に把握するだけでなく、そのビジネスにも精通しており、マネージャと協力して目標達成のための支援ができる。目標達成に必要な社員に対しても支援ができる。

(2) グローバル化などの課題に取り組むために、あらゆる方向で強いリーダーシップを発揮し、満足度の高い支援や提案、解決策の提供ができる。

(3) 経営戦略に完全一致した人事戦略を作ることができ、その実現の責任を負う。たとえば、経営戦略に基づく人財の確保、配置、活用における実現性と効果性について、現場の組織と連携を取り、具体的な計画に落とすことなど、人財確保において経営戦略と事業成長にマッチした求める人財像に沿った採用が行われるようにマネジメントができる。

(4) 企業の成長戦略に合わせた人財の育成やキャリアパスの設計、それが実現できる。

(5) 社員一人ひとりの情報を統合し、一元管理し、国境や企業間の壁のない登用や配置の支援ができる。社員の適性やキャリアパス、能力開発を考慮した適材適所の把握ができており、タイムリーで適切な人的アドバイスを経営陣や現場のマネージャに行うことができる。

(6) 組織マネジメントに貢献することができる。各組織がそれぞれの使命、役割、目標、戦略に従って、成果が出せるように、個別の目標、チャレンジ、モチベーション、スキルなどを現場のマネージャと共に組織の運用管理の支援を行うことができる。

(7) 部分最適化より全体最適化を優先とする総合的な視点を持っている。

(8) 未来洞察力があり、未来に向けた取り組みに積極的に参加し、計画達成のための変革を起こすことができる。

 フォーチュン100社の優良企業における、戦略的なパートナーの人事部の責任者は、採用担当20年、人事業務一筋20年の経験者はもはやいなく、キャリアパスの途中や最後に人事に来ており、複数の現場経験(営業やマーケティングなど)や海外赴任などの経験を積んだ、現場のビジネスも経験した人財で構成されています。
 また、別の経験者もいます。全世界の社員の情報(ビッグデータ)を正確に、効率よく分析するための高度な統計分析を行うプロが人事の三分の一を占めている企業もあります。

 次回の第6回は、戦略的なビジネス・パートナーとして社員をどのように扱い、どのようにマネジメントするのか、その本質について理解をしていきたいと思います。


※1 100 Best Companies to Work For:http://fortune.com/best-companies/