タレントマネジメントは必要か

経営戦略を実現するための社員の活用は、その戦略も課題も、企業の成長と共に、高度化し、複雑化しているのではないでしょうか。「社員の強みを活かすタレントマネジメントの本質」を理解することにより、経営戦略を実現する社員を、いかに登用し、活用するかという戦略、課題のひとつの答えが見つかると思います。特に、グローバル企業、グループ企業における経営では、タレントマネジメントを検討してみることをお勧めしています。

 経営戦略を実現するための社員の活用は、その戦略も課題も、企業の成長と共に、高度化し、複雑化しているのではないでしょうか。「社員の強みを活かすタレントマネジメントの本質」を理解することにより、経営戦略を実現する社員を、いかに登用し、活用するかという戦略、課題のひとつの答えが見つかると思います。
 特に、グローバル企業、グループ企業における経営では、タレントマネジメントを検討してみることをお勧めしています。

 タレントマネジメントは、欧米企業ではあたり前の人財マネジメント(この意味は後でおこないます)です。日本でも、やっと、数年前から脚光を浴び始めてきました。
 新しい人財マネジメント手法だから検討してみたいと思っても、日本では、その資料が欧米と比較しても、圧倒的に少ないのが現状です。
 タレントマネジメントのセミナーなども開催されています。しかし、その大半は、アプリケーション開発ベンダーによるものではないでしょうか。そのため、「タレントマネジメントの本質が知りたい」と思っていても、なかなかその機会は得られないのではないでしょうか。

 今回から、全12回で、タレントマネジメントの本質を理解していきます。最終的には、経営としてタレントマネジメントの実現化への心構え、準備作業、対応策などについて理解を深めることができます。さらに、人事部への依頼やベンダーとの議論で、実現化するための経営としての“ぶれない軸”を作ることもがきます。

 タレントマネジメントは、人事制度や人事部門、組織マネジメントとの係わりが強いため、それぞれの関係についても理解をします。この場合、人事視点ではなく、経営視点で本質を理解していきます。

タレントマネジメントは必要か

 タレントマネジメントの概要を理解するために、まずは経営について、あたり前の再確認をしておきたいと思います。

 企業を取巻く環境が変われば、それに合わせて計画の変更、戦略の変更はあたり前です。
外部変化や内部変化に応じた対応策を、タイムリーに講じなければ、事業目標の達成は困難となります。それどころか、企業の成長・拡大も困難となるでしょう。そして、企業存続の問題へと発展することは、経営陣でなくても容易に理解できます。

 しかし、問題は、ここからです。
 経営計画や戦略が、再度、見直され、修正され、関係する各事業や組織の戦略も見直しされるのに、人事戦略はどこまでタイムリーに見直されているでしょうか。

 そもそも、人事戦略のない企業も、珍しいことではありません。人事戦略がある企業でも、「人」の戦略について、経営と、十分に検討されていないことも、珍しいことではありません。「人」の戦略はどこに含まれているのでしょうか。経営戦略ですか、各事業の戦略ですか、それとも、人事戦略でしょうか。

 経営資源の三大要素の中で、最も重要である「人」について、近年のマネジメントはもちろん、戦国の時代においても、そして、孫子の兵法にまでさかのぼることができます。
 松下幸之助氏の「企業は人なり」の言葉はあまりにも有名です。また、武田信玄公の「人は城、人は石垣、人は堀」も有名です。 これらの言葉を使って、「人」の大切さを説いている経営陣は多いのではないでしょうか。

 「人」の大切さを説いている経営陣の思想や哲学が、その経営戦略、各事業の戦略、そして、人事戦略に、どこまで展開されているでしょうか。 経営陣の思想が、社内の仕組みや人事制度、環境、条件づくりに、どこまで具現化されているでしょうか。

 タレントマネジメントには、このような経営陣の「人」に対する思想を具現化させることができる、ひとつのマネジメントツールと言ってもいいでしょう。

人は経営陣の思想次第で「人財」「人材」「人在」「人罪」になる

 実は、この「人」ですが、経営陣の思想次第で、「人」は人財にもなります。人材にもなります。そして、人在、人罪にも変えてしまうことができることを、意識しておくことが大切です。 
 もちろん、社員自身の取組を否定しているわけではありません。
 たとえば、人罪ですが、経営陣がある「人」に、大きな仕事を任せ、しかも、大失敗に終わったとき、「おまえはやっぱり使えないやつだ」「任せた俺がバカだった」「もうコリゴリだ」と見えない「人罪」のレッテルを貼ってしまうことがあります。これを、本人に言う・言わないは関係ありません。
 話が少しズレてしまいましたが、経営陣の「人」に対する思想は重要な要素です。これがタレントマネジメントに影響を与えてしまうので認識しておいてほしいのです。

 人材と人財の違いは、言葉上では、材料と財産の違いです。
材料はコストで、財産は資産です。材料はコスト削減がテーマになり、資産は投資がテーマになると思います。
 さらに、コストは、“損益計算書”で管理され、資産は“貸借対照表”で管理されます。損益計算書は1年単位の短期視点で作成し、貸借対照表は中長期視点が求められます。経営にとっては、この両方をバランスよくマネジメントすることが求められているのではないでしょうか。

事業目標と成長目標を実現させる人材要件を明確にする

 タレントマネジメントも「人」を、短期視点と中長期視点の両視点で、バランスよくマネジメントする思想があります。

 経営におけるマネジメント、すなわち、経営目標によるマネジメントですが、これには、大きく二種類あります。ひとつが、毎年達成しなければならない事業目標です。そして、もうひとつが、長期的な事業の成長目標です。

 これらの目標の内容は、明らかに違います。
 毎年、事業目標を達成し続けていくこと、これがイコール、事業の成長目標ではないと思います。

 これらの二種類の目標、すなわち、事業目標と成長目標を実現させる人物は、同じでしょうか。

 企業によっては、同じ人かもしれません。企業によっては、違う人かもしれません。
大切なのは、事業目標を達成してくれる“求める人材要件”をどこまで明確にできるかです。そして、成長目標を達成してくれる人の“求める人材要件”です。

 求める人材要件は、次の3つの軸で検討し、明確にしておくことが大切です。 
①性格、資質 
②経験、資格、能力、スキル、コンピテンシー、知識 
③価値観
です。
 たとえば、性格では、フットワークよく積極的に行動が取れる性格。能力では、顧客対応力や問題解決能力。経験では、変革の経験者。価値観とは、やる気の源泉の要因など、といった要件です。

 これらの人材要件を定義し、それらの項目に、社員別の現状データ加えます。これを、統合的に一元管理することによって、経営に必要な「人」が、存在しているのか、それは、誰なのか、どこにいるのか、と言うようにタイムリーに確認することができます。これにより、個人の適性や強みを活かした適材適所の配置、戦略的で計画的な配置が無駄なく効果的に行うことができます。 

 さらに、精度を高めるために、タレントマネジメントでは、その他の付加情報(人事評価データ、育成計画と履歴データ、社内異動履歴データ、キャリアパスなど)を加えます。
 これによって、以下の二大目標を実現するマネジメントツールとして活用することができます。

・1年、または、数年先の事業目標を実現する「人」の適任者をタイムリーに確認し、戦略的に、計画的に配置するマネジメントができる。
・長期的な成長目標に貢献してくれる「人」、次世代リーダー・後任者の適任者を確認し、計画的に育成するために必要な要件を洗い出すことができる。

タレントマネジメントはどんな企業に必要か?

 タレントマネジメントは、経営における「人」のマネジメント、人財マネジメントを実現させるマネジメントツールとして必要です。 ただ、すべての経営に必要だとは思っていません。

 企業の規模がまだ小さいころは、経営陣の頭の中には、社員のデーターベースが、常にフル稼働し、全社員の名前と顔が一致しており、適切な対応ができたと思います。この頃は、人事部も不要だったでしょう。このような環境の企業には、タレントマネジメントは必要ありません。

 やがて、社員数が増加し、さらに、海外拠点が置かれ、グローバル企業へと成長し、同時に、M&Aやグループ経営へと拡大してくると、いかに経営陣といえども、頭の中のデーターベースは限定的にしか稼働できなくなります。
 こうなると、ある海外拠点の「人」は全く知らない。あるグループ企業の「人」も全く知らない。このような経営では、活躍している「人」は、常に同じ人物、いつも負担の多い仕事をしている「人」も、常に同じ人物になっている可能性があります。

 「人」が大切と説いている経営陣が、グローバル経営になり、グループ経営になり、そこにいる「人」を十分に知らないため、「人」がフルに活かされなくなることがあります。このような実態を把握している経営陣は多いと思います。でも、何か限界を感じているもの分かります。

 優秀な「人」が、グローバルのどこかにいても、優秀な「人」が、グループ企業のどこかにいても、そこでしか活躍できないのです。
 ここに、タレントマネジメントによる人財のマネジメントの最大の必要性があります。

 このような環境にある企業では、タレントマネジメントを行わなければ、経営にとってみても「人」の活用も限定的で、社員にとってみてもその活躍の機会が限定的となるでしょう。
 つまり、グローバル経営、グループ経営の企業には、タレントマネジメントは必須です。逆に、グローバル経営もグループ経営もしていない数百人程度の企業には、タレントマネジメントの必要性、利便性はあまりないかもしれません。将来に備えるためでしょうか。

 タレントマネジメントを具現化するためには、求める人材要件を明確に決めておくことが重要です。これは、実は、思ったほど容易ではありません。

 今、すぐにほしい「人」の要件は、すぐに決めることはできます。直面している問題やニーズが明らかになっているからです。また、たとえば、1年後の新規事業の立ち上げにむけてのプロジェクトメンバー、2年後のグローバル経営に向けて、海外支店の支店長の要件なども比較的に、容易でなくても、明確に決めることはできます。

 しかし、企業の成長目標に必要な人材要件は容易ではありません。5年後のビジョンにむけて、その求める人材要件、さらに、10年後の事業後継者の要件となると、簡単には要件を決めることはできません。それは、5年後、10年後の企業の状態が分からないからです。分からないからと言って、無対策では経営マネジメントの先延ばしをしているにすぎません。

 企業は成長していきます。
 その成長の段階には、立上げ・創造段階から始まって、拡大段階、安定成長段階へ、そして、衰退段階、回復段階というそれぞれの段階があるとすると、それぞれの段階で、必要となる人材要件は違ってくるのではないでしょうか。
 5年先、10年先を見たとき、
「企業はどこの成長の段階にいるのか?」
「その時の状態を想像することができるか?」
 成長の段階や状態の仮説を検討するのは、経営の責任です。仮説が立てられれば、人材要件も決めることは可能となります。 

 しかし、経営陣だけで具体的に決めることは困難です。かと言って、人事に丸投げしても機能しません。人事の意識や役割を、まず、確認する必要はありますが、いずれにしても、人事を巻き込まなければなりません。

 経営と人事との関係について、次回の第2回で詳しく理解していきたいと思います。