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社員の強みを活かすタレントマネジメントの本質

第12回  タレントマネジメントの実現 後編

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情報の一元化

 人事情報は意外にもいろいろな部門、担当者、グループ企業によってそれぞれ違った形で作成されています。人事も知らない従業員情報は数多くあります。たとえば、組織毎の緊急連絡網では、プライベートの携帯電話番号、能力・資格情報では、企業が必要としている資格意外の公的な免許や資格、個別特性では、個人の価値観や資質などがあります。これらの情報をどのように一元化させるか、それが問題です。

 人事部が必ずしも従業員に関する情報の全てを把握しているわけではありません。また、その範囲は多岐に渡ります。連結グループまで及ぶと、そもそもそれぞれの人事制度も違う上、人事情報も違い、各社が独自の人事情報を管理しています。人事部内においても現行の人事システムに機能がないため、独自にExcelなどで管理している場合はあります。これらの分散化された、バラバラな情報を一元化、すなわち統一化するより、人事がタレントマネジメントで新たに統一し、一元管理する機能を構築すれば、問題解決だと思ってはいませんか。
 あるべき姿のタレントマネジメントの情報は、一か所で一元化、集中化し管理されたものです。しかし、すべての組織、グループ企業で、人事が勧める情報の範囲とその内容、フォーマットに至るまで100%賛成をしてくれることはありません。すなわち、一元化への複雑で困難なプロセスを通過しなければ、人事部が運用管理するタレントマネジメント・システムは現場では受け入れてもらえません。システムと人事部への信頼性も情報の有効性にも問題が生じてしまいます。
 さまざまな情報やそのフォーマットを全て本社仕様に合わせようと進めたとしても簡単ではないため、新タレントマネジメントのシステムに全てを託してそれに統一化して進めても失敗します。

 情報を管理するとき、各部門、各グループ企業に共通する最低限の共通部分にするのか、それとも、最大の和集合の情報にするのか。タレントマネジメントの運用管理に大きく影響を与える問題です。共通部分にすると、タレントマネジメントの情報は最低限で済むので楽です。一方、全グループ企業の情報の全てを和集合で管理するためにはどこまで利用価値があるかを考える必要があります。
 タレントマネジメントは、基本的には連結決済のグループ企業までを対象としていくので、一元管理の範囲は、一度に完成形ができなくても問題ありません。数年かけて、フェーズ別のプロジェクトで遂行していく計画は作成しておきたいものです。

人事情報の標準化

 一元化するに当たって、連結企業などの場合は、人事制度そのものが違うことがあります。その際は標準化も検討すべきです。標準化の場合、必ずしもすべてが本社仕様とは限りません。全体最適化を考慮して、全組織で共通した、標準的な内容に変更をします。

 標準化におけるよくある失敗例として、等級制度が挙げられます。本社の従業員は18等級、グループ会社Aは6等級、Bは20等級のケースを考えてみましょう。一元化では、本社の18等級に合わせることになるのですが、標準化とは、他社状況や人事制度のマクロ的分析や全グループ企業の状況、さらに、経営戦略や人事戦略も考慮したうえで標準化を決めていきます。その結果、9等級にしたとしましょう。
 ここで気を付けたいのは、一気に全グループがどこも経験していない等級制度にいきなり変更になった点です。標準化の議論を十分に行い、各組織も納得性が得られなければ制度の運用管理も混乱し、制度はできてもその影響をうける従業員内で混乱してしまい失敗になるケースが見られます。
 人事情報の標準化を進めるうえで、同時に人事制度も標準化を検討することがあります。決して不可能なことではありませんが、タレントマネジメントを導入しながら、人事情報の一元化、さらに、人事制度の標準化と3つのプロジェクトを同時に行うことは大企業であっても、中堅企業であっても慎重に行わなければなりません。

 制度を変えるとなると、時間も手間も予算もかかります。同じグループ企業といえども、業界が違う、製品もサービスも違う、顧客も違う、そもそもビジネスモデルが違うという環境では、制度も仕組みも規程も違います。たとえば、先の事例の等級制度ですが、人事制度の骨格となる等級制度を標準化することはそんなに簡単には進みません。しかし、この標準化ができなければ、人事評価制度の標準化、教育制度の標準化を先行して行ったとしても、結局、等級制度にたどり着くことになります。
 制度の標準化は必要ですが、タレントマネジメント導入と同期をとって実施することは、要員の割り当てや、スケジュール、成果物などにとって大きく負担となります。著者のお勧めは、タレントマネジメントを一旦構築したのち、人事制度の標準化のプロジェクトへと進めることです。タレントマネジメントでのプロジェクト・マネージャの経験や知識が得られたら、人事制度の標準化プロジェクトできっと役に立ちます。

 制度の標準化には、1年から3年はかかります。これらを考慮したタレントマネジメントの製品機能がなければなりません。
 たとえば、人事制度の標準化をタレントマネジメント導入後に構築するとします。そうなればタレントマネジメント機能には、本社と該当する関連グループ企業のそれぞれの違った制度が適応できる仕組み・機能が必要となります。それぞれの違う機能を登録するだけでは不十分です。本社機能を仮に標準とした場合、その他の関連企業から本社へ情報を一元管理させるときは、本社との制度の違いをコンバージョン要因(変換表など)として設定させておく機能があるかどうかの検討が必要となります。
 もちろん、これは一時的な機能ですが、標準化させるまでの数年間は必要な機能かと思います。企業間のコンバージョン機能は、根本的には、グループ企業の制度や仕組みの標準化は進めない限り必要となります。コンバージョン機能があるからと言っても、完全に統一させることはできません。最終的に、グループ間での人材の登用、異動、さらには対応といった経営戦略的な人材マネジメントを実現できなければ、本来のタレントマネジメントは発揮できないので重要なテーマとなります。
 タレントマネジメント導入構築に併せて、グループ企業の人事制度や人材マネジメントの仕組みも検討し、標準化させるためのシナリオ作りは、タレントマネジメントを構築する際のグランドデザインとなります。
 まずは、タレントマネジメントの導入範囲を決めて、必要な情報を一元化します。国内の関連企業やグローバルの関連企業のどこまでを範囲とするのかを決めます。また、どのようにして導入範囲を拡大していくか、また、人事制度の標準化、それに、人材のグルーバルや関連企業での相互の異動というようにプロジェクトを始める前に人事部は経営陣と何度も議論を重ねていく必要があります。

おわりに

 人材の顔情報のみの製品から、グローバルに関連企業での人財マネジメントを経営の戦略機能と併せて使用する製品まで幅広く製品群がある中、製品の特定化を目標とせず、人事として、経営としてタレントマネジメントの意義、目的、利益に軸をおいて、検討すべきです。この導入目的や導入手順が明文化できれば、製品の判別はそれほど大変なものではありません。また、プロジェクト体制においても、ベンダー主導で任せっぱなしになることもありません。
 全12回のコラムを読んで頂いた方は「ハコモノのタレントマネジメント制度を導入すれば何とかなる」という安易な気持ちではいられないことをよくご存じだと思います。
 タレントマネジメントを導入し、あらゆる関連企業で人財マネジメントが活発に行われ、従業員の適材適所の配置、経営の成長戦略を実現する人財の登用といったビジョンを、未来洞察を通してその人財マネジメントのありたい姿を描いて戴ければ、最適な制度と製品を通して実現すると思います。

 最後になりましたが、第12回で製品情報を提供していただきました株式会社ワン・オー・ワン社長の二階堂隆様に感謝申し上げます。

 全12回のコラムを最後までお読みいただきましてありがとうございます。

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プロフィール

戦略人財コンサルタント代表 社会保険労務士 鬼本 昌樹 氏

戦略人財コンサルタント代表 社会保険労務士 鬼本 昌樹 氏

25年以上のIT、人事、経営の現場経験を通して独立。
オラクル、GEキャピタル、商社、大手通販などの米国企業、日本企業で人材開発部長、人事部長、役員、副社長を経験し、変革のリーダーとして、組織改革、制度改革、意識改革、人事部変革に貢献し、ベストマネジメント・アワードなどを受賞する。

現在、人事コンサルタントとして、
・タレントマネジメント
・パフォーマンスマネジメント
・デベロップメントマネジメント
を強みとする。
さらに、米国で、行動心理学をマスターし、人が動く仕組み作り、マネジメント作り、そして、人作りに貢献している。日本企業、外資系企業、業界、規模を問わず、幅広くコンサルティング活動を行っている。

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