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事件は現場で起きている!複雑難解なインド法規制の実態に迫る

第3回  製造業者が工場完成までに直面する経理実務の実態を理解する

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 今回のテーマは、インドに進出した日系メーカーがインド国内で工場が完成するまでに直面する経理実務の実態についてです。
 例えば、南インドのチェンナイにおいて製造を行う企業は、工場建設に際して、土地の確保から建設許可(CTE: Consent To Establishment)の取得、その他消防許可や水供給、電力、受電安全設備、工場ライセンス、操業許可(CTO:Consent To Operation)など、さまざまな許認可・ライセンス等を取得する必要があり、他州においても同様の法令・義務が規定されていることと思います。また、実際の工場建設の現場では、電気や水処理、通信配線等の各種インフラ設備の導入や、製造機械の据え付けなど、工場完成までのプロセスの中で直面する重要な局面において、インド駐在員だけでなく、日本からの出張者が適宜そのサポートに入るケースは多いのではないかと思われます。
 しかしながら、これら一連のプロセスにおいて発生するさまざまな取引実態を正しく理解し、そして、企業経営や会計監査の観点、さらにはインドの税務、法務、訴訟リスクに至るまで、それぞれの観点から多面的に経理実務を正しく判断・処理していくことは決して簡単ではありません。今回は、そんな製造業特有のインド経理実務の実態についてご紹介をしたいと思います。

工場完成までに支払う人件費やその他間接費の取り扱いについて

 インド会計基準は、製造業者に対して、工場建設にかかる直接的または間接的に発生する費用をすべて資産計上することを求めています。実務的には、工場建設に関連する費用をすべて“建設仮勘定”として資産計上しておき、工場が完成した時点で“建物”として固定資産に振り替えます。なお、“間接的に発生する費用”の定義があいまいであることや、また、その全てを拾い上げることは簡単ではないために、金額的に重要性の高いものを中心に、そのひとつひとつの費用を資産計上すべきか否か判断していくことになります。
 ここで最も重要なのは、工場建設に際して発生する労務費です。つまり、(1)工場建設サポートのために日本から来る出張者の人件費および彼らの出張旅費は、原則、全て資産計上をする必要があります。そして、(2)インド駐在員の人件費についても、全体の業務時間のうち、工場建設のために費やした業務時間部分については、その割合に応じて人件費を按分し、工場建設にかかる駐在員の人件費として同様に資産計上をする必要があります。
 また、しばしば論点になるのは、上記インド駐在員が利用しているレンタカー代や、アパートの家賃、また、工場建設のための借入金の利息、工事にかかる電気代などもその費用の性質や金額的重要性の観点からひとつひとつ判断していく必要があるため注意が必要です。

工場が完成するまでに支払うサービス税や物品税の取り扱いについて

 製造業者は、工場が完成するまでに様々なサービスの提供を受けたり、物品を購入したりしますが、工場建設に関連する費用は原則、“建設仮勘定”に資産計上する必要があることはすでに申し上げたとおりです。ここでは、その際に企業が同時に支払うサービス税や物品税の取り扱いについてご紹介したいと思います。税金の相殺制度については前回ご紹介したので詳しくは触れませんが、原則、直接的もしくは間接的に製造にかかわるサービス提供や物品の購買に際して支払うサービス税や物品税については、CENVAT Creditとして税額控除の対象となります(=将来的に控除できるため支払った税金がコストになりません)。
 ちなみに、具体的にどのような支払税金が税額控除の対象となるかの詳細については、“CENVAT Credit Rules, 2004”の中で規定されています。しかしながら、2011年3月にインド税務当局から発表された通達によると、工場の建設等(setting up of a factory)にかかる支払サービス税については、同規定上、税額控除の対象から除外されることとなりました。この通達の発表により、工場が完成するまでに支払うサービス税の取り扱いについては、さまざまな議論・判断を要する論点となっています。例えば、工場建設用の土地を99年リースで取得した場合には、土地リース代をサービス税込で一括前払いしているケースが散見されます。
 この場合には、一括前払いした支払サービス税の中に、工場の建設が完了するまでの期間にかかるサービス税と、工場が完成して製造オペレーションが開始した後の期間にかかるサービス税の両方が含まれていることになりますが、一括前払いしたサービス税のどこまでが税額控除の対象となるのかが不明瞭です。場合によっては、これらの支払サービス税についても“建設仮勘定”に資産計上しておくべきという判断もあり得るため、取引実態を正しく理解した上で十分な検討が必要となります。実際に、通達が発表されてからまだ4年ほどしか経っていないため、過去の最高裁等の判例の数がまだ少ないという点においても判断が難しい論点あることは間違いありません。

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