ポジティブな言葉が呼び込むポジティブな結果

自分を取り巻く環境が変わりそうなとき、たとえば売上拡大に向けて新たな取り組みが始まるとき、「ムリ!」「やりたくない」と思う人と「できる!」「そうなりたい」と思う人とでは、組織や個人にとって望ましいレベルに達することができるか否か、その可能性が大きく違ってきます。

 自分を取り巻く環境が変わりそうなとき、たとえば売上拡大に向けて新たな取り組みが始まるとき、「ムリ!」「やりたくない」と思う人と「できる!」「そうなりたい」と思う人とでは、組織や個人にとって望ましいレベルに達することができるか否か、その可能性が大きく違ってきます。

 思わず「ムリ!」と発想してしまう人は、おそらく他の場面でも同じようにネガティブな発想をする習慣が身についています。逆に「できる!」とポジティブに発想する人は、困難に直面しても乗り越えるための方策を見つけようとするでしょう。

潜在意識を味方につけるか、敵に回すか

 ビジネスシーンにおいてポジティブに発想できる人を増やした方が、より生産性も上がり、組織風土も活性化するであろうことは容易に想像ができますし、企業としては社員にポジティブ発想をするよう指導したくなるでしょう。

 しかし、厄介な問題があります。それは、多くのケースにおいて、ネガティブに発想する人も好きでマイナス方向に考えている訳ではないことです。先ほど「思わず」と書きましたが、まさに無意識のうちに発想してしまっているのです。

 これは、上司や同僚が「あなたのためにも、組織のためにも、ポジティブに考えた方がいいよ」と表面的にアドバイスしても、本人は“自覚症状”がないために「何を言ってるの?」と思うばかりで、言動や行動の変容に至らないことを意味します。

 無意識に発想してしまうという現象のベースにあるのが「潜在意識」と呼ばれるものです。この潜在意識でネガティブに発想するか、ポジティブに発想するかによって、結果として望ましい業績に結びつく言動・行動をとることができるか否かが決まります。

 潜在意識とは、自分で認識しづらい世界の話であり、ましてや他人には当然見えないものです。したがって、潜在意識レベルの発想を変容しようとすると、それなりに手間をかけたトレーニングが必要です。

 前回で解説したペップトーク(相手を勇気づけるポジティブな発想に基づいたショートスピーチ)は、潜在意識に響くよう言葉を選び、ストーリーを作り上げるもので、言動や行動改革に効果があります。

私たちは既に気がついている

 受験生に向かって「落ちるなよ、滑るなよ」と平気で言う人はいないでしょう。病院へ入院患者を見舞いに行ったときに「死ぬなよ」と言う人は、おそらく周囲から非常識だと思われるでしょう。

 なぜでしょうか?
 もちろん相手に対して失礼という理由もありますが、それ以上に、私たちは「ネガティブな言葉が、潜在意識に対してネガティブに作用する」こと、すなわちイメージに操られて体が動いたり、免疫力が下がってマイナスの状態に向かっていく可能性があることを経験則で知っているからです。

 同じように、野球の試合中に「高めに手を出すな!」と監督からの指示が出ると、「高めに手を出してはいけない」と意識するあまり、思わず高めに手を出して三振してしまうそうです。

 デパートの通路で走り回っている小さいお子さんに対し、お母さんが「そんなに走ってたら転ぶよ、転ぶよ……ほーら、転んだ。何やってるの!」と、あたかも転ぶことを予見していたかのように叱る光景もよく見かけます。

 重要な書類を作成しているときに、上司から「計算ミスをするなよ!」と言われた場合、「計算ミスをしないように」と緊張してしまい、指が勝手にキーを押し間違え、結果として計算ミスをしてしまった経験のある人も多いでしょう。

 このような事例は枚挙にいとまがないほど私たちの周囲にあふれており、共通しているのは「高めに手を出す」「転ぶ」「ミスをする」といったように、“悪い状態”や“何かをしてはならないという指示”を示す言葉が含まれていることです。

日本語の構造に要注意

 このように、言葉が潜在意識に働きかけ、人間の行動や状態を左右するという現象は世界共通ではありますが、日本語は重要なポイントを語尾で決めるという特徴のある言語であり、日本人にとっては注意したい点があります。

 私は明日会社に行き(      )。
 この一文の( )内には、「ます」「ません」「たいです」など、まったく意味の異なる語尾が入ります。最後までしっかり聞かなければ、この人が何をしたいのかが分かりません。

 さらに厄介なことには、人間の記憶とは曖昧なもので、前半の「会社に行き」は記憶に残るものの、後半部分を聞き落としたり、忘れたりしがちなのです。英語の場合は逆に、
 I’ll go to the office tomorrow.   (会社に行きます)
 I’ll not go to the office tomorrow. (会社に行きません)
 このように、話のポイントが冒頭で分かる仕組みになっています。

 したがって、前述の例で考えると、日本語では「高めに手を」「転ぶ」「ミスを」の部分が記憶に残りやすく、後で否定したり反対のことをするように指示を出しても、身体は高めに手を出すよう反射的に動き、お母さんの意図とは逆に転んでしまい、部下は思わず計算ミスをする、という事態を引き起こす可能性が英語と比較して高いのです。

 このように「ミスをするな」というネガティブな表現は、「ミス」というネガティブな部分が相手の記憶に残り、ミスをするように潜在意識が行動・言動を誘導してしまうので、「ミスをしろ」と言っているのに等しいといえます。

1日に7万語を思いつく脳

 これではうかつに部下に注意をうながしたり、指導できないと思われるかも知れませんが、逆に考えればよいのです。すなわち、ネガティブな言葉がネガティブな結果を招くように、ポジティブな言葉はポジティブな結果を招くのです。

 したがって、前述の例では「低めに的を絞ろう」「ゆっくり歩きなさい」「確認しながら計算しよう」とポジティブに発想し、ポジティブな言葉で指示を出せば、相手は望ましい方向へ動き、成功する確率が高まります。

 さて、一説によると人間が一日に発想する言葉は7万語に及ぶそうです。この膨大な量の言葉が、潜在意識の中でポジティブに働くのか、ネガティブに働くのかを考えると、普段からポジティブな発想と言葉がけを心掛けている管理職は、おそらく部下への指示もポジティブであり、部下も成果に向かって動きやすいであろうことが想像できます。

 個人の問題としても「できる」「いいね」といったポジティブな言葉に彩られた人生と、「どうせダメ」「私なんか」といったネガティブな言葉に浸った人生とでは、おそらく終焉を迎えた時の幸福感や満足感は大きく違うでしょう。

 次回からは、仮にネガティブな発想に陥りそうなときに、ポジティブに発想したり、相手が前向きに動けるような言葉がけするためのトレーニング法や、組織の中での仕組み作りについて述べていきます。