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経営階層に求められる能力とは?

第5回  日本文化に息づく『観の目』の視点

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 第4回では、「相生・相剋」と「システム思考」の関係を明らかにし、経営階層の役割である「矛盾の克服」に対する「経営ビジョン・理念・使命」の重要性について言及しました。今回は日本文化に息づく「観の目」の視点について解説したいと思います。

 日本の芸道における技の継承において重要なのが「型」です。これは西洋における「標準マニュアル」とは、似て非なるものです。「型」においては最少のやるべきことのみが記述され、どうやって修得するかという具体的やり方については記述されません。修得するには不親切かもしれませんが、見よう見まねで努力しているうちに、自分に合った修得方法を身に付けられるようになっていきます。シンプルな「型」のみを継承することで、修得の方法についてはかなりの自由度を与えています。
 これが芸道の継承形式として有名な「守破離」の「守」の部分です。技の具体的修得方法というものを捨象して、基本となる「型」のみを残すことで、逆にそこに多様性、自由度を受容できるようにしています。続く「破離」では、いよいよ自分なりの技の工夫への段階に入っていきます。このプロセスで重要となるのは、型の奥にある精神的価値です。自分なりの型を創造するためには自分が大切にする価値を定めなければなりません。これは経営にも共通な理念価値ですね。
 日本の芸道における技の継承には、「HOWからWhatへの抽象化」、そして「WhatからWhy」への抽象化の二段階の抽象化が織り込まれています。この「抽象化」の思考法が、実は経営階層にとって必要な「観の目」を獲得するうえで、欠くことのできないものであると言えます。「抽象化」により「俯瞰」の広さと「観察」の深さを得られるようになります。物事の本質や要点を見抜く力となっていくわけです。
 これらについて茶道、能、日本画を例に見ていきたいと思います。

茶道と「観の目」

 茶道は、陰陽五行の思想に則って構築されているといって過言ではありません。茶室の間取りは、きっちりと陰陽五行の配置に合わせています。躙(にじ)り口という入り口から通い畳に踏み込みます。人の入場を太陽の日の出に例え、火の気に位置づけています。その後、貴人は水の気の貴人畳に移動し、次の客人は木の気の客畳に座ります。水の気は精神的働きのことですが、貴人をそこに配置するというのは貴人を精神的高みにある人(すなわち悟りたる人)と位置づけていることがわかります。客人は木の気ですので、まだこれから成長の余地がある存在と位置づけているわけです。炉は土気ということで真ん中の炉畳に配置されます。炉で燃えた炭は灰となり土に帰ることになります。亭主は金の気の点前畳に位置します。ここには金属を使った茶道具が配置されます。金の気は体系を示すので、茶道の全体プロセスを仕切るという意味になります。貴人畳の後ろには床の間が配置されます。床の間には掛け軸をかけ、茶会のテーマが亭主から貴人・客人に伝えられます。又、花も活けられ床の間の精神的高みを表現します。
茶道と「観の目」

 茶事は、火(陽)で水(陰)を沸かす釜(金:陰)という関係で、陰陽交換の一期一会と位置づけられています。茶道では千利休が有名ですが、その茶道の心得に「四規七則」というものがあります。四規は「和敬静寂(わけいせいじゃく)」の心です。
「和」…茶室の空間を調和の空間とする心得をさしています。 
「敬」…茶室を構成する人、物、自然を尊重し、敬う心得をさしています。    
「清」…茶道具、茶室、亭主の心構え全てを清らかに整える心得をさしています。
「寂」…心静かでゆるぎない信念に基づく不動心、全てを受容し包み込む懐の深さとい
う、茶道を極めた究極の心得を指しています。

七則は、以下のように定められています。

一 茶は服(ふく)のよきように点(た)て
 これは自分中心のお点前(てまえ)ではなく、貴人・客人にとってちょうどよいお茶を点(た)てなさいという戒めです。

二 炭は湯の湧くように置き
炭の役割を効果的に発揮するための配置の仕方を考えよ、との戒めです。
又、比喩(ひゆ)的に何ごとも要点を押さえて対応する戒めも含まれています。

三 冬は暖かく夏は涼しく
 花は自然に「あるよう」に活けなさい、という戒めです。これは自然のあるがままにという意味ではなく、花の本質を尊重して活けなさいという意味を表しています。

四 花は野にあるように入れ
茶室の環境を、貴人・客人にとって心地よい環境に整えよ、という戒めです。

五 刻限は早めに
 茶事を余裕をもって準備せよ、という戒めです。時間の余裕があることで茶道に集中できますし、不測の事態にも対応しやすくなります。

六 降らずとも雨具の用意
 何事も、起こりうる事態に対して、柔軟に対応できるように準備せよ、という戒めです。

七 相客(あいきゃく)に心せよ
「相客」とは茶会で同席した人のことで、貴人・客人の区別なく全員に気配りを怠るな、という戒めです。

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