「対人対応力が身につく」会議 (後編)

会議でケチツケ型が発言すると、一気に場の空気が悪くなったり、テンションが下がってしまいがちです。ケチツケ型が多い会議なら、批判の応酬合戦になり、議論は盛り上がっても中身は非生産的になります。

【事例Before】
 エンターテイメントやライフスタイル、恋愛、結婚に関するWEBサイトを展開しているエンジョイサポート社では、新しく子育てママのためのサイトを作るにあたっての戦略会議が行われている真っ最中。
「緒方さんはどんな意見がありますか?」司会の細野が言った。
「そうですね……。たとえばコンセプトですが、“いつまでもキレイで輝いていたいママのための情報サイト”というのはどうでしょうか? 今は、美意識の高いママが増えていますし……。しかも、化粧品メーカーや美容関連グッズ会社、サプリメント会社などとコラボができるかもしれませんよ。対象年齢は20歳~40歳ぐらいがいいのでは?」
 指名を受けた緒方が強気で意見した。
「たしかに! おっしゃる通りですね。さすが現役ママの緒方さんですね! 他に意見がある方はいますか?」
と細野が言うや否や、入社10年目の田中が口を開いた。
「“いつまでもキレイで輝いていたいママのための情報サイト”って、ちょっとコンセプト絞りすぎだと思います。うちは美容関係の会社じゃないんだから。その割に年齢層は20歳~40歳とか幅広すぎで、絞れてないし……そう思いませんか?」
 眉間にしわを寄せて得意げに言う田中だったが、田中の意見はいつも批判的で、少々言い方もキツイ。会議でよく発言をしてくれるのだが、否定された人は落ち込んだりムキになって反論するので、雰囲気が悪くなるのだった。
 司会の細野が、「田中さん、人の意見に対して批判はやめてくださいね……。みなさんはどう思われますか? 他に意見がある方はいらっしゃいませんか?」と言うが、みんな一気にテンションが下がってしまっている。
「……では、はい」と手を上げ、沈黙を破ってくれたのは入社5年目の大久保だった。
「緒方さんの“いつまでも若くキレイでいたいママのための……”というコンセプトですが、今は美意識の高いママが増えているので、良いのではないでしょうか? ただ、確かにこれだけでは美意識の高いママ限定のサイトになってしまうので、少しもったいないかなあと思います。今はママ向けサイトがたくさん作られていて、どの情報が信頼できるの? ということも注目されています。そこで私は、コンセプトとして“輝くママのための本当に信頼できる情報サイト”を提案します。ターゲットは20歳~40歳で幅広く取り込んでいいのでは? ライターさんには少しお金をかけ、信頼できる先生やプロに! 医療情報を配信する際は、現役の医師に監修をお願いして、クオリティの高い情報を配信しましょう」
 大久保の意見が、田中に反対されて落ち込んでいた緒方の顔に輝きをとり戻したのだ。ほかのメンバーも、うんうんと納得して聞いている。大久保の意見はいつも理路整然としていて、なおかつ誰も嫌な気持ちにさせることがない。場の空気も大久保の発言で少し明るくなったのだった。

「ケチツケ型」はこんなタイプ!

 会議で、人の意見に否定・批判的で、他人のアラばかりを指摘する人は、『ケチツケ型』に分類できます。事例の田中がそうですね。
 このタイプは、自分のアイデアは特に持っていません。ただ、問題点を見つけるのがとても得意なのです。裏を返せば、誰も気づかないような問題点に気づくことができる、とても貴重な存在と言えます。
 しかし、会議でケチツケ型が発言すると、一気に場の空気が悪くなったり、テンションが下がってしまいがちです。ケチツケ型が多い会議なら、批判の応酬合戦になり、議論は盛り上がっても中身は非生産的になります。

「ケチツケ型」への対応法は?

 問題点を見つけて指摘するのは得意であるが、自分のアイデアや解決策は持っていないケチツケ型。ケチツケ型の参加者には、以下のような言い回しで対応しましょう。
「たしかに! そんな考え方もできますね! では、○○さんはそのご指摘の点に関して、どんなふうにすれば良いと思いますか?」
 このように、いったん否定された意見を受け入れてから、アイデアや解決策を求めます。
 すると、ケチツケ型の人もただ批判するだけではなく、自らアイデアや解決策を考える人に育成できるのです。

「建設的型」はみんなのお手本になる貴重な人物

 会議で相手の意見を認め、なおかつ自分のアイデアも持ち、論理立てて話すことができる人は、『建設的型』に分類できます。事例の大久保のような人物です。
 まさに会議において理想的な人物です。会議に参加する人がみんな建設的型ばかりだったら話し合いがとてもはかどるのですが、なかなかそういうわけにもいきません。
 会議の場に「建設的型」タイプの人がいる場合は、トップバッターで発言してもらい参考にさせます。みんなを「建設的型」タイプに育成できるよう会議で工夫しましょう。

「この人はこのタイプ」と決めつけない

 前編では『自己中心型』と『お任せ型』、そして今回の後編では『ケチツケ型』と『建設的型』についてお伝えしました。
 人はその時の立場や状況によってタイプが変化します。たとえば、普段の仕事では『お任せ型』タイプでも、会議や話し合いになると『建設的型』タイプになる人もいます。あるいは、部下の前では『自己中心型』タイプなのに、上司など自分より上の立場の人たちの前では、『お任せ型』タイプになる人もいます。
 そこで大切になってくるのが、「この人はこうだ」と決め付けるのではなく、「今の状況では、どのタイプなのか?」という判断と、柔軟な対応です。
 参加者をよく観察し、場面に応じて対応し、対人対応力をレベルアップさせましょう。
【事例After】
「緒方さんはどんな意見がありますか?」司会の細野が言った。
「そうですね……。たとえばコンセプトですが、“いつまでもキレイで輝いていたいママのための情報サイト”というのはどうでしょうか? 今は、美意識の高いママが増えていますし……。しかも、化粧品メーカーや美容関連グッズ会社、サプリメント会社などとコラボができるかもしれませんよ。対象年齢は20歳~40歳ぐらいがいいのでは?」
 指名を受けた緒方が強気で意見した。
「たしかに! おっしゃる通りですね。さすが現役ママの緒方さんですね! 他に意見がある方はいますか?」
と細野が言うや否や、入社10年目の田中が口を開いた。
「“いつまでもキレイで輝いていたいママのための情報サイト”って、ちょっとコンセプト絞りすぎだと思います。うちは美容関係の会社じゃないんだから。その割に年齢層は20歳~40歳とか幅広すぎで、絞れてないし…そう思いませんか?」
 眉間にしわを寄せて得意げに言う田中。
 そこで司会の細野が、笑顔でと尋ねた。
「たしかに……そんな考え方もできますね! コンセプトの絞り過ぎ、そして年齢層は幅広すぎ、ですね! 貴重な意見ですね。では、田中さんはどんなサイトにすれば良いと思いますか?」
「え? え~と……そうだなあ。どんなふうにすれば良いかまでは考えてなかったので、ちょっと考えます」と、戸惑いながら真っ赤な顔の表情で答える田中。
「ありがとうございます。思いついたらぜひまた、教えてください。では大久保さんのご意見は、いかがでしょうか?」と、細野はすかさず大久保に話を振った。
「はい。緒方さんの“いつまでも若くキレイでいたいママのための……”というコンセプトですが、今は美意識の高いママが増えているので、良いのではないでしょうか? ただ、確かにこれだけでは美意識の高いママ限定のサイトになってしまうので、少しもったいないかなあと思います。今はママ向けサイトがたくさん作られていて、どの情報が信頼できるの? ということも注目されています。そこで私は、コンセプトとして“輝くママのための本当に信頼できる情報サイト”を提案します。ターゲットは20歳~40歳で幅広く取り込んでいいのでは? ライターさんには少しお金をかけ、信頼できる先生やプロに! 医療情報を配信する際は現役の医師に監修をお願いして、クオリティの高い情報を配信しましょう」
「大久保さん。とても分かりやすいご説明をありがとうございます! よく分かりました。では次、船橋さんのお考えはどうでしょうか?」と細野は、次の参加者を名指しした。

POINT
・『ケチツケ型』には、意見を受け入れた後、アイデアを尋ねよう
・『建設的型』は、みんなのお手本になってもらおう
・どのタイプが決めつけず、時と場合の状況で判断し対応しよう