「対人対応力が身につく」会議 (前編)

会議を『コミュニケーション能力を鍛える場』と考えましょう。会議の参加者をよく観察し、その対応策を学ぶことで、対人対応力を格段にアップさせることができるようになります。

【事例Before】
 とある大規模スーパーで、お弁当の売り上げアップについての話し合いが行われている。
「今日の議題は、最近売り上げが落ち込んでいるお弁当の売り上げアップについてです。お弁当の売り上げアップをするためのアイデア出しをまず行います。谷口さんから右回りで一言ずつお願いします」司会の清水が言った。
「はい。僕はですねえ、以前からうちのお弁当って、なんか味気ないなあって思ってたんですよ。唐揚げ弁当、とんかつ弁当、ハンバーグ弁当、鮭弁当って……なんか学生とか男性が食べるようなものが多いじゃないですか。これからは女性客を取り込む時代ですよ! 女性が喜ぶようなお弁当を作るべきだと思いますね。うちのスーパーの周りって企業さんが多いからたくさんOLさんとかいるはずなんですけど、OLさんは近くのお弁当屋さんとか、○○町のサンドイッチ屋さんにパンを買いに行っています。っていうか、お弁当だけが目の敵にされてますけど、お弁当以外にも売り上げ下がっているものあるんじゃないですか? 100円均一コーナーとか、品揃え悪すぎて客入ってないですよ。あっ、そういえばうちのパンコーナーも、もしかしたら売り上げ落ちちゃってるんじゃないですか? ○○町のサンドイッチ、この間、雑誌にも出てたしなあ~。どうなんですか?」
 谷口が言った。谷口は会議になるといつも積極的に発言するが、一方的にまくし立て、話が脱線することもしばしばだった。
「え~と……パンの売り上げについては、どうなんでしょう? まあ、今はお弁当について考えてくれというのが専務からのお達しなので、それについてはまた改めてということで……。では、次、下出さん、お願いします」
 清水は谷口の隣に座る下出を指名した。
「……え~と……そうですね……私、この店に配属されたばかりでよくわかりませんので、みなさんにお任せします……」
 下出は自信なさそうに小さな声でそう呟き、後は貝になった。

会議はコミュニケーション能力をアップさせる場

 会議にはいろんなタイプの人間が参加します。これまでの連載でご紹介してきた会議の技法を使えば、どんなタイプの相手が参加していてもスムーズに話し合いができ、まとまるのですが、従来の会議のやり方で進められる会議に参加することが多いでしょう。
 その場合は、会議を『コミュニケーション能力を鍛える場』と考えましょう。
 会議の参加者をよく観察し、その対応策を学ぶことで、対人対応力を格段にアップさせることができるようになります。

「自己中心型」はこんなタイプ!

 事例の谷口は、張り切って発言をしていますが、自分の言いたいことを一方的にまくしたてています。このようなタイプは『自己中心型』に分類できます。
 自己中心型の人は、自分の意見にこだわりすぎて、他人の意見に耳を傾けません。「俺が!」「私が!」と、とにかく自分中心で、話が長いです。
 長いだけでも困りものなのですが、自己中心型の発言は、的を得ていないこともよくあります。気持ちが先走っていて、言葉がついていかないのでしょう。聞いている側は「結局、なにが言いたいの?」と首をひねりたくなります。思いつきで話すので、話がとんでもない方向に脱線することもよくあります。
 また、他人の意見に口出すこともしばしば。話を横取りすることも珍しくありません。

「自己中心型」への対応法は?

 会議で自己中心型が暴走すると、ほかの人が話しにくい雰囲気が出来上がります。自己中心型の独演会になりがちなのです。
 こうした状況を回避するには、まず相手に主導権を握らせないことが大切です。もしあなたが進行係なら、次のような言い回しで対応します。
「へぇ~。確かに! 谷口さんはそう思うのですね。ところで、斎藤さんはどんなアイデアがありますか?」
 このように、いったん話を受け取った後、ほかの参加者に話を振ります。多少強引に途中で話を切ってしまっても大丈夫です。律儀に相槌を打ちながら聞いていると、自己中心型はさらに話し出す傾向にあります。
 最初にあらかじめ「発言は○分以内でお願いします。○分を過ぎた場合には途中でも打ち切ります」と言っておくことも効果的です。素直に守るとは限りませんが、暴走しづらくなることは間違いありません。
 話の終わりが来たということが分かるように、大きな音の出るキッチンタイマーを用意たり、「はい、ありがとうございました。拍手~!」と言えば、楽に打ち切ることができます。

「お任せ型」への対応法は?

 自己中心型のように一方的に自分の言いたいことを言う参加者がいる一方で、事例の下出のように、積極的な発言をせず、周りの流れや意見に任せるタイプもいます。このタイプは『お任せ型』に分類できます。お任せ型が多い企業の会議は、総じて盛り上がりません。お任せ型が多い会議には、暴走気味の自己中心型が多かったり、ワンマン経営者が仕切っている場合が多いです。
 お任せ型には、彼らが話しやすいような問いかけ(質問)をしてあげることが大切です。たとえば、次のような質問をします。
「○○さんの意見をぜひ聞かせていただきたいのですが」
 このように、「ほかの誰でもない、あなたの意見が聞きたい」という姿勢で質問をすると、口の重いお任せ型も、責任感を持って会議に臨んで発言してくれるようになります。
【事例After】
「今日の議題は、最近売り上げが落ち込んでいるお弁当の売り上げアップについてです。お弁当の売り上げアップをするためのアイデア出しをまず行いたいと思います。谷口さんから右回りで一言ずつお願いします。発言はひとり30秒以内です。30秒経過しますと話途中でも打ち切ります。お気を付け下さい」司会の清水が言った。
「はい、僕はですねえ、以前からうちのお弁当って、なんか味気ないなあって思ってたんですよ。唐揚げ弁当、とんかつ弁当、ハンバーグ弁当、鮭弁当って……なんか学生とか男性が食べるようなものが多いじゃないですか。これからは女性客を取り込む時代ですよ! 女性が喜ぶようなお弁当を作るべきだと思いますね。うちのスーパーの周りって……」
 谷口の発言の途中で、あらかじめセットされていたキッチンアラームがピピピピと大きな音を立てた。
「はい、谷口さんどうもありがとうございました。女性が喜ぶようなお弁当ですね。拍手~!」
 清水がそう言って拍手をしだした。ほかのメンバーも拍手をする。
 まだなにか話したそうだった谷口だったが、拍手が続くので、大人しく口を閉じた。
「では、次は下出さん、お願いします」
「……え~と……そうですね……私、この店に配属されたばかりでよくわかりませんので、みなさんにお任せします……」
 下出は自信なさげにそう言って俯いた。
「下出さんは○○店で長く勤めておられましたね。○○店で得た経験をもとに、ぜひ下出さんの意見を伺いたいのですが」
 清水がそう言うと、下出は再度口を開いた。
「……○○店では、インスタントのお味噌汁の子袋をサービスでつけていたらお客様から好評でした」
「なるほど! インスタント味噌汁のサービスですね! ありがとうございます。拍手
~! では、次、松田さんお願いします」


POINT
・会議は対人対応力を鍛えるチャンスと考えよう
・『自己中心型』は主導権を握らせないよう、話を受け取った後は別の参加者に話題を振ろう
・『お任せ型』は、「あなたの意見が聞きたいのです」という姿勢で対応しよう