「話をまとめる力を向上させる」会議

「ひと言」ルールで会議を行うようにすると、普段から不要な言葉を削除して話す癖もついてきます。会議で話す力が磨かれるということです。

【事例before 】
 営業部へのサポートに対するアイデア出しを一任された課長の浅丘は、会議が始まると、前に立って意気揚々と話し始めた。
「売り上げが下降気味なので、営業部にはできるだけ外に出てもらうことになりました。そこで、私たちに何ができるか? アイデアを集めたいんですが……。吉川さんは、どんな意見がある?」
 浅丘が最初に指名したのは、組織内では中堅社員の吉川だった。
「はぁ……。えっと、まずですね…、え~……営業部も営業部なりに、その……頑張ってることはわかるのですが…、でも、営業部がどう頑張っているかがいまいちよく分からず、その、営業部が何に困ってるかも分からず……、だから、そもそも我々に何ができるかもわからないんですよね。営業部が、その、何を求めてるのか、そのあたりが明確になれば、もっといいアイデアも出せると思うんですよ。なので、その、私が今から言う意見は、そんな状態で考えたアイデアなので、良いアイデアかどうかわかりませんが……」
 ……と、前置きが長い吉川の発言に、浅丘課長はしびれを切らしてこう言った。
「……だから、何? 時間もあまりないので手短に頼むよ」
「えぇ……だから、あの、つまりですね、私の意見は…各営業担当に1名づつサポートをつけたらどうかということです!」
 それを聞きながら、浅丘課長はホワイトボードに「吉川:各営業担当に1名ずつサポートをつける」と書き「はい、次! 風間さんの意見は?」と言った。
「営業担当に1名ずつサポートをつけると、営業は助かるかもしれませんが、私たちの仕事が止まってしまいますよね。継続するわけでもないのに……。一定期間だけですよね。そのために営業の仕事を覚えるのも私はどうかと思うんですよね。それより、継続性のあるサポートということで考えたら、営業が時間をかけてることで、もっと時間の短縮になることはないか? それが何かだと思うんですよね~」
 という風間の長くまとまりのない発言に、「……だから? なんですか?」と、イライラした口調で浅丘は言った。
 風間は一呼吸おき、こう続けた。
「ですから、営業が作成しやすい企画書のフレームを作成したらいいのではないでしょうか?」
「あぁ、営業が作成しやすい……」と言いながら、浅丘は板書を始め、「企画書のフレームをさ・く・せ・い!と……」意見を書き切った。

話は「ひと言だけ」で発言させること

 事例では、社員の長い前置きやまとまりのない発言に、課長の浅丘はイライラしていますね。
これは、浅丘の会議の進め方にも問題があります。「どんな意見がある?」のような尋ね方をするから、参加者の話の前置きが長くなったり、まとまりのないものになるのです。

 会議で素早く多くの意見を集めるために、「ひと言」ルールにします。
 たとえば、アイデアだけをひと言で発言するようにし、アイデアの背景や理由などは一切発言をしないようにします。ちなみに、ひと言というのは、1文です。句読点の句点は1つだけです。
 このようなルールがあると、「なにか役に立つこと、良いことを言わなければ……」と考えて躊躇することもありません。また、話が長くなることも防げます。
 「ひと言」ルールで会議を行うようにすると、普段から不要な言葉を削除して話す癖もついてきます。会議で話す力が磨かれるということです。

意見は、視点に分けて発言させる

 「ひと言」ルールにするためには、“視点を分けた話し合い”が必要となります。

①アイデア出しの時間 
②出た各アイデアの良い点を出す時間 
③出た各アイデアの良くない点を出す時間 
④良くない点の対策を考える時間

 ……など、細かく視点を分解して議論していきます。

 お手本を見せるために、進行係が最初に発言をするようにします。たとえば、①アイデア出しの時間で、進行係が「各営業担当に1名づつサポートをつける」と発言すると、その右隣(もしくは左隣)が「企画書のフレームを作成」と意見を出していきます。一人ひと言を順番に言い、時間が来るまでぐるぐる回していきます。時間が来たら、次のテーマ(②出た各アイデアの良い点を出す時間)に移ります。
 このようにすることで、たくさんの意見を吸いあげることができます。

メモ係は、話をよく聴き、まとめた意見を書き留める

 会議での発言は、進行係ではなくメモ係が書くようにします。メモ係が発言者の話をしっかり聴き、要約と確認をしてホワイトボードに書き留めます。そのため、メモ係を経験すると、傾聴スキルも強化され、人の話をまとめる力も向上します。また、話の長い人の意見をまとめる大変さが分かるので、自分が発言するときは、書く人の立場で物事を考えることができ、話を短くまとめようと意識して話すようになります。
 メモ係になったとき、もし相手の話が長すぎて、話をまとめることができず、何と書けばよいのか分からなければ「ここには、ひと言で何と書けばいいのか教えていただけますか?」と発言者に質問します。他の参加者が「結局、それって何が言いたいの?」などと言うと、カドもたち、発言者は不快な気分になりがちです。しかし、メモ係からこのように言われる分には、抵抗感はあまり芽生えません。
【事例after 】
「売り上げを上げるために、営業部にはできるだけ外に出てもらうことになりました。そこで今日の会議のゴールは、我々ができる営業のサポートアイデアを3つにまとめること。まずはアイデア出しを行います。その次に、出たアイデアの良い点をみんなで考え、次に良くない点、策、そして最後にまとめに入る、という流れで進めます。時間は各5分です。意見出しは一人ひと言で!……それでは、アイデア出しの会議では、進行係を吉川! メモ係は風間、時間係は浜田でお願いします。では、吉川さんよろしく!」
 と浅丘課長が言うと、吉川は立ち上がり前に出た。
「では、進行係の私から発言し、右回りで時間いっぱい提案しましょう。なかなか意見が出ないようならパスありです。では、私のアイデアですが……各営業担当に1名ずつサポートをつける」
「各営業担当に1名ずつサポートをつける、ですね!」と、メモ係の風間が確認しながらホワイトボードに書き出した。
 そして、吉川の右隣にいた風間も、自分の意見「企画書のフレームを作成」と言いながら、ホワイトボードに書いた。
「え~と……お客様からの問い合わせのうち、既存客で新たな購入のない方のお電話については、こちら側で対応し、営業には繋がない」
 続けて岡倉が言った。
「それは、一言で言うと、なんと書けば良いでしょうか?」と、メモ係の風間が岡倉に質問をした。
「既存客の対応」と岡倉がひと言で述べ、「既存客の対応、ですね」と言いながら風間はホワイトボードに記入した。
 このようにして、時間係の浜田がストップと声をかけるまでテンポよく意見を出し続けていった。

 次回は「批判的思考力(クリティカルシンキング)を向上させる」 会議です。
 お楽しみに!


POINT
・「ひと言」ルールでたくさんの意見を吸い上げ、話す力を磨こう
・視点を細かく分けて話し合おう
・メモ係は話をよく聴き、参加者の意見をすべて書きとめよう