マネジメント力を向上させるには(内省と対話こそがマネジャーを成長させる)

前回は、マネジメントというものへの幻想が、マネジャーを苦しめるというお話をしました。では、どうすればマネジャーは楽になる(=マネジメント力が向上する)のでしょうか。ミンツバーグは、経験を通じて学ぶ、ただ経験するだけではなく、内省と対話によって「学び」に変えることが必要だと説いています。

 前回は、マネジメントというものへの幻想が、マネジャーを苦しめるというお話をしました。では、どうすればマネジャーは楽になる(=マネジメント力が向上する)のでしょうか。ミンツバーグは、経験を通じて学ぶ、ただ経験するだけではなく、内省と対話によって「学び」に変えることが必要だと説いています。

1.内省とは何か:反省との違い

 自らの経験に学ぶことを、ミンツバーグは第3世代の学習法と定義しました(図参照)。これまでの理論習得や事例研究という方法には、課題があると指摘しました。アクションラーニングにおいても、例えばマーケティング戦略の勘所やメンバーへの動機づけなど、取り上げたプロジェクトに関するノウハウは学べますが、自分に対する理解という観点が欠けているのです。
マネジメント力を向上させるには(内省と対話こそがマネジャーを成長させる)
 例えば、自分の指示に背いて部下が勝手な行動をとったとしましょう。そのマネジャーは、許せないと感じて、思わず皆がいる前で厳しく叱責します。残念なことに部下はひどく落ち込んでしまい、メンタル面に傷を負って日常業務にも支障が生じてしまった、という場面を想像してください。
 この経験から何を学べばいいのでしょうか。
 「皆がいる前では、叱責しない。特に人の尊厳を傷つけるような叱り方をしてはいけない」ということでしょうか。このレベルでとどまっているとハウツーの学びでしかありません。いわゆる反省は、「もう決して○○しません」といった行為レベル(ここでは叱り方)で改善することだと言えます。
 内省では「叱り方」という行為ではなく、それをした「自分」について見つめなおし、その原因を探求します。「どうして皆の前で叱責してしまったのか」と問います。「部下は上司の指示に逆らってはいけない」、「一度指示したら部下は理解しているはずだ」。あるいは、「指示を聞かない部下はきっと自分のことを馬鹿にしているので、力を見せつけなくてはいけない」と思ったのかもしれません。

2.内省とは何か:固定観念を探る

 人は意識的に行動を選択するときと、無意識のうちに行動するときがあります。いずれの場合も、行動の背景には、「○○はこうあるべきだ」という自分なりの考え=固定観念が存在します。固定観念は必ずしも悪いことだけではありませんが、無意識のうちに人は自分のフィルターを通して物事を見て判断しています。
 自分を見つめる、すなわち内省とは、「自らの経験を振り返ることで自分の固定観念に気づき、今後の行為の選択肢の幅を広げて、意思決定の質を高める」ことです。
 前述の事例で、「部下には上司が見えていない事実に基づいて異なる意見を持つことがあり、時としてその判断の方が適切な場合がある」という考えも持つことができるとどうでしょうか。
 指示する場面だけでなく、企画や計画を立てるとき、プロジェクトの進捗報告を受けるときなど、様々な場面でこれまでと異なるコミュニケーションが可能になります。もちろん、場合によっては指示をすぐに徹底することが正しいこともあるでしょう。マネジメントには、いつでも必ずこうすればいいという万能解はありません。その状況に即した最適解を常に探る必要があるので、その妨げになる固定観念を知る、すなわち内省がとても重要になるのです。

3.内省と対話:話し手のコツ

 内省は、文字面から一人で行うことをイメージしがちですが、そうではありません。
 一人で自分の隠れた固定観念に気づくのは難しいものです。内省の英語である「reflect」はもともと反射という意味です。そこから転じて、何かに自分の姿を映して自分を見つめるという意味を持つようになりました。
 自分を映す鏡は二つあります。一つは身近な人、職場では同僚との対話がいいでしょう。もう一つは先人たちの知恵、理論です。
 ここでは、同僚との対話についてそのノウハウをご紹介します。
 まずは話し手の3つのポイントです。

①自分のマネジメント行動に意識を注ぐ
 私たちジェイフィールが行っているリフレクション・ラウンドテーブル(内省と対話を毎週繰り返し行う学習プログラム)で、「先週のマネジメントの中で、ちょっと気になっている出来事を教えてください」と問うと、かなりの方がすぐには自分の行動を思い出せません。中には、手帳を手にして、そもそもどんな1週間だったのかを思い出すのに必死な人もいます。
 多忙なマネジャーは目の前のことを処理することに追われていて、行動した結果には関心があるものの、自分の行動が適切だったのかを振り返る習慣はないようです。内省は、自分の行動を客観的に認識することから始まります。

②場面での気持ち(感情)を思い起こす
 マネジメントの場面を思い出したら、そこでの事実と感情を分けてみます。これは簡単なようで、なかなか難しいものです。
 ある事実が引き起こす感情は、人によって異なることを認識することが大切です。例えば、部下が大きな失敗をしたので怒りの感情が起こった。こんな場面では、誰しも同じと思うかもしれませんが、よくよくその気持ちを探ってみると違いがあります。ある人は、「どうして? やり方がまだわかってなかったのか」とスキルに焦点が当たり、自分自身(マネジャー)を責める気持ちが同時に起こってくるでしょう。あるいは、「どうして? やっぱりあいつはいい加減なところがあるから」と仕事の取り組み姿勢に着目し、部下を責める気持ちが強い人もいるでしょう。
 同じ事実を見ても、その人の固定観念や相手への先入観で沸き起こる感情は異なるのです。つまり、感情に注目すると、固定観念が浮かび上がってきます。

③振り返りの中で感じたことを言葉にする
この段階で、すでに新たな気づきが生まれることもあります。対話の場面では、ここまで一気に話し終えてから、聴き手の問いをもらいましょう。

4.内省と対話:聴き手のコツ

 聴き手のポイントも3つあります。

①話しやすいように傾聴する。
話し手は、考えをまとめてから話していると思いがちですが、意外にそうではありません。皆さんも、話しているときに「あっ、そういえば……」と途中で思い出したり、気づいたりすることがありますよね。話し手がのっているときに起こる事象で、聴き手としてはこういうフレーズが出てくれば上出来です。話し手をのせるように、共感しながら相槌をうってみてください。引き出し方がうまくなれば、日常のコミュニケーションもぐんとよくなります。

②話し手の感情に注目する
話し手の声のトーン、表情、身振り手振りをよく見ましょう。淡々と話すタイプの人でも、わずかに気持ちが高ぶっているところがあります。その場面に自分を置いてみて、話し手と同じような気持ちや行動をとるのかなぁと想像してみてください。微妙に異なるところがあるはずで、そこが対話のポイントとなります。

③話し手が持っていない視点で問いかける
話し手と聴き手(自分)の違いを見つけたら、それを素直にぶつけてみましょう。「どうして、そう思ったの?」、「どうしてそうしたの?」という問いは、話し手には新鮮なはずです。違いがわからなくても、できる限り話し手が持っていないと思う、異なる視点から問うことを試みてください。自分にとっても、柔軟な思考のトレーニングとなります。「共感すれども、迎合せず」の姿勢が大切です。

 職場で、自らの経験を内省し対話することが習慣化していくと、マネジメント力が向上し、組織が活性化していきます。その際、もっとも大切なのは、堅苦しくならないようにざっくばらんな雰囲気を作ることです。
 マネジメントとは型にはまった方法論ではなく、ごく自然な人間らしい行いです。ぜひ、大真面目ではなく、肩の力を抜いて、楽しみながら日々の出来事を語り合ってください。