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ドラッカーが教える人材育成

第2回  人事の決定5つのルール

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組織の成果を決めるもの

組織の成果を決めるもの

 一口に「人事」と言っても、採用、配置、異動、評価、昇格、報酬など、異なる種類の決定が数多くあります。会社それぞれに規定を持ちながら、人間が絡む問題はあまりに複雑で、機械的に決められるものではありません。事業はうまくいくこともあればうまくいかないこともあります。同じように、人事の決定においてもうまくいくこともあればうまくいかないこともあります。事業がうまくいかない場合、同じ失敗を繰り返さないように具体的な対策が打たれるのに対して、人事がうまくいかない場合、同じ失敗を繰り返さないために具体的な対策が打たれることはほとんどありません。成果をあげられなかった人に非難の矛先が向けられるだけです。
 それでは、人事に関してどんなポイントを押さえておく必要があるのでしょうか。ドラッカーはこう言っています。

「人的資源から引き出せるものによって、組織の成果が決定する。それは、誰を採用し、誰を解雇し、誰を異動させ、誰を昇進させるかという人事によって決まる。人事に完璧はない。しかし、人事に成功している者はいる。彼らは五つのルールに従っている。」(『非営利組織の経営』)

 ドラッカーが『非営利組織の経営』で紹介している、成功する人事の5つのルールについてお伝えしていきます。

①人事の失敗に責任を負う
 人事に失敗があるたびに、「○○さんはできない人だった」として片づけてしまうのは責任逃れです。その人事について決めた人が間違ったのです。人事の決定責任をはっきりさせることによって、人事を決定する側の取り組みにも質が問われるようになります。

②成果をあげられなかった者を再度動かす責任を果たす
 成果をあげられない人をそのままにしておくのは、全体の士気にかかわります。任命責任を果たすために、成果をあげられない人を再度異動させる、ということです。
 決定を見誤った人には、それを修正する責任があります。成果のあがらない人をそのままにしておくのは、組織に不利益を及ぼすだけでなく、組織力を低下させてしまいます。また、力が発揮できない仕事を続けさせられることは本人のためにもなりません。それを放置しておくのは決定した人の怠慢です。

③成果があげられなくとも辞めさせたりしない
 新しく任命した人がたとえ成果をあげられなくとも、精神的に追い込んだり、辞めさせたりしてはいけません。その人の強みが活かされていないと解釈しましょう。人事の決定は、その人の強みを発揮するために、その人が強みを発揮できる場所に配置する仕事です。ゆえに、配置されたその人が成果をあげていないからといって、「ダメな社員」と決めつけてはいけません。「ダメな社員」なのではなく、ただ強みを発揮できない仕事を行っているだけです。実際、自分の強みに合った仕事に就いた人は、かなりの高い確率で業績をあげています。米国対外援助協力会(以降、CARE)という、様々な国に人を派遣する組織があります。各国に派遣される人のほとんどは、大学を卒業したばかりの若い人たちです。トレーニングを受けたとはいえ、見知らぬ国に1人で行くわけですから、失敗する率も高いのです。しかし、CAREは、成果をあげられない人がいれば帰国させて労をねぎらったうえで、再び他の国に派遣するようにしています。CAREは、一度仕事に失敗しても二度目の機会を提供しているのです。実際、二度目の機会を得た人の大半は成果をあげています。ここで大事な点は、「再挑戦の機会は一度だけ」ということです。

④常に正しい人事を行うよう務める
 勘とセンスに頼らず、人事を正しい手順で進めることです。組織はそこで働く一人ひとりの能力以上の成果をあげることはできません。一人ひとりが成果をあげて、初めて組織は成果をあげることができます。同時に、組織の目的は、個の総和を超える総和の力を生み出すことです。したがって、人事は適切に行わなければならないのです。
 ドラッカーは、GM(ゼネラル・モーターズ)の役員会に出席していた頃のことを『傍観者の時代』の中で紹介しています。
 その役員会は、常に重要な経営政策について話し合われていました。役員会では小さな部署の責任者を決める人事にもかなりの時間を費やしていました。
 時間のない社長が、なぜ小さな人事にも時間をかけるのだろうと不思議に思ったドラッカーは、その社長に、「あなたのように忙しく時間のない方が、どうしてあのような下の人事に4時間もかけるのですか?」と尋ねました。その社長の答えはこうでした。
「経営者の仕事は重要な決定を行なうことだ。どんなに小さな人事であっても、人事の決定を正しく行わなければ成果はあがらない。たとえ経営者がどんなに良い決定を下したとしても、それを具体化するのは、一つひとつの部署であり、そこで働く一人ひとりだ。人事を正しく行うために4時間をかけなければ、あとで400時間とられる。時間がないから時間をかける必要があるのだ。本当に重要な決定は人事だ。できることは人事を正しく行うことであって、成果をもたらすのは人事である」
 「ゆっくり急ぐ」とはドイツの諺です。即断即決を是非とするあまり、性急に決めて、あとになって困るよりも、じっくり検討して、あとはスムーズに進んだ方が、結果として速いということです。のちに問題が起こって何百時間もとられることのないよう、人事の決定に正しく取り組んでください。

⑤外部からスカウトしてきた者に周囲が手助けしやすい仕事を与える
 外部からスカウトしてきた人には、周囲から見ても何を期待されているかがはっきりしていて、周囲が手助けしやすい仕事を与えるようにしましょう。外部からスカウトしてきた人に新しい大きな仕事を与えてしまい、その人が困ったとき、周囲の人が仕事の内容を理解していなければ、手助けすることができず、その人も新しい仕事でつぶれてしまう可能性があるからです。

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プロフィール

トップマネジメント株式会社 代表取締役 山下 淳一郎 氏

トップマネジメント株式会社 代表取締役 山下 淳一郎 氏

1966年東京都渋谷区出身。外資系コンサルティング会社勤務時にドラッカーを実践するコンサルティングを行う。独国、米国で勤務。その後、中小企業役員と上場企業役員を務める。現在はトップマネジメント代表取締役として、上場企業をはじめ、様々な業種にわたる企業の経営チームに、ドラッカーを活用するコンサルティング、経営人材育成を目的としたマネジメント教育に携わる。一般社団法人日本経営協会専任講師。著書に『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』、「ITmedia エグゼクティブ」で『ドラッカーに学ぶ、成功する経営チームの作りかた』を連載。
ホームページ:トップマネジメント株式会社

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