外国人留学生新卒採用編

今回は、日本の大学院・大学・専門学校に在学中の外国人留学生を新卒採用する際のVISA申請の留意点についてご紹介します。留学生新卒採用を検討中の企業に皆様のみならず、既に留学生採用のご経験のある企業の皆様にも是非ご覧頂きたいです。

 今回は、日本の大学院・大学・専門学校に在学中の外国人留学生を新卒採用する際のVISA申請の留意点についてご紹介します。
 留学生新卒採用を検討中の企業に皆様のみならず、既に留学生採用のご経験のある企業の皆様にも是非ご覧頂きたいです。
 少し古いデータとなりますが、法務省発表の「平成26年における留学生の日本企業等への就職状況について」によると、留学生のうち約13,000人程度が日本の教育機関を卒業後、日本企業等に就職しています。
 人数としては、日本人学生と比べて少ないですが、年々人数は増えています。
 実務上の実感としても、大企業から中小企業まで、外国人留学生の採用を検討している企業が増えてきているように思います。
 前述の法務省発表のデータによりますと、業務別で翻訳・通訳の占める割合が高く、海外展開を目指す企業、海外との取引の多い企業、外国人顧客をターゲットとした企業などで留学生採用が進んでいるようです。
 また、いわゆるITなどの専門技術を必要とするサービスを提供している企業でも留学生採用が進んでいるものと考えます。
 語学力や専門知識を持った人材として、外国人留学生の雇用を検討する際には、日本人の採用と異なり、大きく分けて次の2つの留意点があります。

1.外国籍内定者への就業規則や雇用条件等の説明
 日本で学生生活を送っているため、日本での生活や日本語についてはある程度慣れて いる留学生も多いですが、労働条件など法的な事柄については馴染みもなく、誤解が  生じる恐れがあります。母国語や英語での説明を加えるなど誤解を防ぐことで、早期離職や労務トラブルを回避することが必要となります。

2.就労VISAの取得
 何といっても就労VISAが取得できないと雇用をスタートすることができません。
 そこで、今回は就労VISA取得に関する留意点に特化してご案内します。

【研究所で研究業務に従事する場合】
 研究VISA(在留資格「研究」)の取得が必要です。

【語学講師として企業で採用し、小中学校や高等学校で就労予定の場合】
 教育VISA(在留資格「教育」)の取得が必要です。

【企業で総合職、営業、企画、翻訳・通訳、SEなどの業務に従事する場合】
 技術・人文知識・国際業務VISA(在留資格「技術・人文知識・国際業務」)の取得が必要です。このVISAは前回までにもお伝えしたとおり、事務系の業務に従事する多くの方が対象となるVISAです。研究VISAや教育VISAに該当しない場合、技術・人文知識・国際業務ビザに該当する可能性が高いです。
 法務省発表の前述のデータでも、留学生が変更した就労VISAのうち、技術・人文知識・国際業務VISAの占める割合は、88.8%となっています。

 では、技術・人文知識・国際業務VISAについて、取得のための留意点をご案内します。

 前回までの「海外からの出向者編」の際と考え方は同じで、VISA申請に当たっては、≪雇用条件に関する要件≫と≪採用予定者に関する要件≫の2つの視点で見ることが必要です。

雇用条件に関する要件

1. 業務内容
 同じ業務を反復継続するような「単純労働」は認められません。
 幣所でも、飲食業・小売業の法人様から、店舗でのホールスタッフや販売員として留学生を採用したいと相談を頂くことがありますが、これらの業務は単純労働と判断される可能性が極めて高いです。
 一方、総合職などでの採用で、一定期間現場研修として販売や接客にあたるということであれば、技術・人文知識・国際業務VISA取得の可能性があります。日本人であるか外国人であるかを問わず、まずは自社の扱う商材・サービスや顧客を知るために現場で研修を行うことは多くの企業でも行われていることです。
 ただし、当然ながら、あくまで一定期間の研修ですので、例えば入社から何年も現場での業務に従事している場合、VISAの更新が認められないリスクが生じます。
 販売・接客等専門で外国籍の方を雇用したいという場合については、次々回の「外国籍アルバイト雇用の留意点」でご紹介します。

2. 雇用期間・雇用形態
 期間の定めのない契約でも有期契約でも可能です。
 そのため、正社員としての雇用以外に準社員・契約社員として採用することも可能 です。ただし、例えば1年更新の契約社員として採用した場合、VISAの期間は1年のものしか認められない可能性が高く、当面毎年VISAも更新し続けることになる可能性があります。
 契約期間と関連して、1日や1週間の労働時間にも留意が必要です。
 VISAは、日本で主に行う活動に応じて与えられるものですので、例えば、パートタイマーや短時間労働者としての雇用で1週間の半分以下しか就労しないというような場合、就労することが主な活動ではないと判断され、就労VISA(技術・人文知識・国際業務VISA)が与えられない可能性が出てきます。

3. 報酬額(給与)
 日本人従業員と同等以上であることが必要です。
 具体的な金額については法務省も公開していませんが、幣所の経験上、概ね20万円以上とするのが無難です。


 外国人留学生新卒雇用の検討に際しては、まず募集職種がこれらの要件を充たすものかご検討頂く必要があります。
 また、他のVISAにも共通することですが、雇用側の企業の財務状況・コンプライアンスについてもVISA申請に当たって考慮されます。そのため、事前に社内でよく確認し、社会保険の未加入・税未納など是正すべき点があれば、対応してからVISA申請を行うことをおすすめします。

 次に、外国籍内定者に求められる要件について見ていきます。

外国籍内定者に関する要件

4. 最終(最高)学歴
 「海外からの出向者編」でご案内のとおり、技術・人文知識・国際業務VISA取得のためには、一定の学歴か職歴が必要となります。
 新卒採用の場合、職歴を有するケースは少ないと思うので、学歴要件に絞ってご案内します。
 国内外の大学院・大学・短期大学卒業(博士号、修士号、学士号、短期大学士号等保有)、または、日本国内の一定の専門学校卒業(専門士号保有)であることが必要です。
 実務上問題となるのは、特にヨーロッパの教育機関における学位です。
 学制が日本と異なる場合、日本でいうところの大学卒業と同等なのかについて事前に確認が必要になります。
 入国管理局側でも、卒業証明書の記載内容のみでは判断がつかず、追加書類提出となってしまうことがあります。
 学位要件を充たさないと、就労ビザが取得できず、そもそも雇用できませんので、採用段階から事前に本国の教育機関等に確認を取っておくことが望ましいと考えます。

5. 学歴と従事する業務との関連性
 学士以上の学位を保有している場合、業務内容は比較的広く認められています。
 一方、専門学校卒業の方の場合、基本的に学校で学んだ内容と業務内容の関連性が求められます。そのため、専門学校生を採用する場合、選考段階で学校での習得内容と業務の関連性に気を付ける必要があります。
 留学生側に求められる要件は概ねこの2点となります。
 但し、留学生の方の入社までの日本での生活に問題がないことは就労VISA(技術・人文知識・国際業務VISA)取得のために当然必要となります。
 例えば、法律で認められた時間を大幅に超すアルバイトをしていたり、成績が著しく不良だったり、その他法律違反をした場合、場合によっては、就労ビザへの変更許可が認められない可能性があります。
 余談ですが、日本語能力は就労ビザ取得の要件にはなっていません。
 例えば、社内の公用語が英語などの外国語であるという場合や、上司や取引先も外国人であるといった場合であれば、日本語が苦手でも業務遂行上支障ありません。
 もっとも実際には、弊所の経験上、外資系企業を除くと採用要件として日本語能力検定1級(N1)または2級(N2)を挙げている企業が多い印象を受けます。

 さて、ここまで就労ビザの要件面を中心にみてきましたが、次に就労ビザへの変更許可申請時期についてご案内します。
 原則として入社予定日の3ヶ月前に行うことをおすすめします。
 入国管理局でも、原則として入社予定日の3ヶ月前からビザ変更許可申請(在留資格変更許可申請)を受け付けます。
 4月や9月など多くの企業と同じ入社予定日の場合、入国管理局への申請件数が一時的に急増し、審査期間が長期化することがあります。
 ビザ申請上、日本国内の法人は規模の大きい順に、カテゴリー1からカテゴリー4の4つに区分されます。
カテゴリー1は国内上場企業、カテゴリー2は大手外資系企業・国内中堅企業、カテゴリー3は中小企業、カテゴリー4は新設法人などを指します。
 カテゴリー1・2は混雑時でも1ヶ月前後で審査が完了することが多いですが、カテゴリー3・4では2ヶ月以上審査に時間を要することもあります。
 そのため、特にカテゴリー3・4の法人で留学生新卒採用を行う際は、入社予定日の3ヶ月前には確実に申請ができるように、スケジュールを逆算して申請書類作成・収集を進める必要があります。
 VISA申請は、多分にケース・バイ・ケースの要素があり、以前に内定者が就労ビザの取得をしたことがある場合でも、今回の申請では異なる書類準備が必要となるケースもあります。
 私個人的には、VISA申請はまさに「急がば回れ」だと思っています。
 法務省入国管理局のウェブサイトをご覧いただくと、申請に必要な書類についての記載がありますが、これらは最低限必要な書類の一般的な案内となっています。
 入国管理局の審査は基本的に提出された書類のみに基づいて判断されます。
 そのため、例えば卒業証明書上の学位が曖昧な場合、採用後の業務内容が単純労働と誤解されかねないような場合などに、これらについて説明する書類の提出を求められる可能性は高いです。
 審査の過程で追加書類の提出指示を受け、それから追加書類の準備をすると、その間審査は一時ストップしてしまい、審査完了までの期間はその分長くなってしまいます。
 準備段階で入国管理局から要求される可能性のある書類を想定し、準備を進めていくことが早期のVISA取得に結びつくことも経験上感じています。
 初めて留学生採用をする場合に限らず、これまでの採用と諸状況が異なるような場合には、申請準備を始める前に一度専門家等に相談するのも一つの方法です。


 今回は留学生雇用焦点を当ててVISA申請の留意点をご紹介しましたが、既に日本で就労可能なVISAをお持ちの方を中途雇用するケースも多くあろうかと思います。
 次回は、外国籍の方の中途採用の際のVISAに関する留意点についてご紹介します。