2020年の実質賃金は上昇の見込み。コーン・フェリーの「世界の報酬動向調査」報告

コンサルティングファームであるコーン・フェリーが2019年12月、「世界の報酬動向調査」の結果を公表した。世界全体で見ると、2020年の昇給率は昨年とほぼ同様のペースと予測されるものの、インフレ率の低下の影響によって実質昇給率は上昇する見込みだという。

労働者には朗報。一方で、経済成長の失速が懸念される主要国も

「世界の報酬動向調査」によると、世界の多くの地域で、2020年の実質賃金は昨年よりも増加する見通しだ。

実質賃金の増加を示す指標となるのが「実質昇給率」。昇給率予測からインフレ率を控除して算出された数字のことである。2019年の調査では、世界の平均昇給率が5.1%であったことに対して、インフレ率は3.8%、つまり実質昇給率は、+1.3%であった。2020年の平均昇給率は4.9%とされており、予測インフレ率の約2.8%を控除すると、実質昇給率は+2.1%と推定される。実質賃金の増加は労働者にとって喜ばしいことだ。しかし、インフレ率が低下したことは経済成長の失速につながる懸念もあり、影響をおそれる主要国も少なくない。

世界各地域、各国の「報酬動向予測」と「実質賃金の成長予測」

続いて、各地域の「報酬動向予測」について見てみると、世界で最も実質昇給率の上げ幅が大きい地域はアジアだと予測されている。2019年の実質昇給率は+2.6%だった。2020年に推定されている昇給率は5.3%、同じくインフレ率は2.2%で、実質昇給率は+3.1%増に上昇する見解となっている。

ヨーロッパ地域でも実質昇給率が高くなる予想。西ヨーロッパで+1.2%、東ヨーロッパで+2.6%と推定されており、東ヨーロッパの方が実質昇給率の上げ幅が大きくなることが見込まれている。北米では、昇給率は昨年と同様だがインフレ率が低下することで、実質昇給率は+1.1%の微増になる見込み。アフリカ、中東、ラテンアメリカ、太平洋沿岸の各地域も、インフレ率低下の影響により、実質賃金の上昇が推測されている。

次に、各国の「実質賃金の成長予測」を見ていくと、昨年比で、日本は+0.5%、中国では-0.3%、シンガポールは+0.6%、オーストラリアとアメリカでは+0.8%、イギリスでは-0.2%、アラブ首長国連邦では+1.8%との予測となった。

コーン・フェリー・ジャパンKorn Ferry Digitalユニットリーダーの岡田靖代氏は、「過去数年、日本の昇給率予測は2.0%と、大きな変化はなく推移している。2019年10月から消費税が2%上昇したが、軽減税率制とキャッシュレスポイント還元事業の併用により、2014年に3%増税した時と比べて、増税が昇給率に与えるインパクトに対する企業の関心は低い」と指摘している。

現在、日本企業ではテクノロジーの発達により業務が変化したため、企業が求める人材像も変わりつつある。世界的にも国内でも昇給率がプラスになるとの予測を受けて、昇給原資をいかに効果的に配分するかが、企業の課題となるだろう。