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経営者は「裁量労働制」をどう活用したいのか?

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今国会に提出されている働き方改革関連法案のうち、「裁量労働制の拡大」に関する部分が分離・取り下げられる雲行きである。厚生労働省が虚偽のデータを提出したことで、労働政策審議会の議論まで水泡に帰したという。最近の中央官庁の劣化もひどいものだが、例によって忖度が働いたのだろうか。「裁量労働制」そのものについても、労働時間が減るという前提でそれを正当化する政府と、データ自体がおかしいとして議論を拒否する野党が対立し、本質論が全く表に出てこない。ここまで表面的な議論になってしまうのは、両者とも「裁量労働制」の意義を十分に理解していないからではないかと勘繰りたくもなる。

誤解の多い「裁量労働制」

そもそも「裁量労働制」は現行の労働基準法で規定されており、企画業務型と専門業務型の2種類がある。これが適用される労働者には、仕事の進め方はもとより、出社時刻、退社時刻についても裁量権が与えられ、自律的働き方が可能となる。しかしながら、裁量権が法の予定したとおりに与えられないと、際限のない長時間労働につながるリスクも併せ持っている制度である。そのため、労働基準法では雇用者が労働者に「裁量労働制」を適用する場合、厳しい規制が設けられているのだが、その規制を逸脱して、違法または不適切な「裁量労働制」が、企業主導で行われている事例も少なくないのが実態だ。

「裁量労働制」には適用要件があり、以下の要件を満たしていることが必要とされている。

(1)企画業務型・専門業務型ともに適用職種が限定列挙されており、これら以外
の職種に「裁量労働制」を適用することは許されない。
  
(2)「裁量労働制」が合法であるためには、(1)の対象となる職種に当てはまるだ
けでなく、対象労働者本人の自由裁量での働き方が認められていることが必
要である。例えば、上司の指示に基づいて業務を行っているような労働者に
対しては、たとえ職種が要件に合致していても、「裁量労働制」の適用はでき
ない。

(3)誤解されている経営者も多いが、「裁量労働制」の対象労働者であっても、労
使協定の決め方によっては、時間外労働の割増賃金の支払いが必要である。
休日労働の場合も同様である。さらに、深夜割増賃金は漏れなく支払う義務
があるから、対象労働者の労働時間管理は少なくとも深夜労働については絶
対に必要である。

(4)最後は、「裁量労働制」の「みなし労働時間」が適正であるかどうかが問われ
る。これについては、労使が業務の実態を踏まえ、「みなし労働時間」の時間
数を合意することが条件となっている。仮に、企業が一方的に「みなし労働
時間数」を決めてしまったというような場合は完全にアウトだ。

これらの要件以外にも、対象労働者を保護するための健康確保措置等が、企業内で構築および周知されていることも必要である。こう見てくると、「裁量労働制」とは厳格な法律要件をクリアしてはじめて合法的に導入できる制度なのである。

「裁量労働制」は時代の要請

また、「裁量労働制」はこれにより労働生産性が向上するかの如く捉えられている節がある。生産性の向上にあたっては、その算定式から、「付加価値を高めた商品を販売する」、「労働者1人当たりの生産性を向上させる」あるいは「代替物の導入で労働コストを下げる」しか方法はない。政府が「裁量労働制」の導入・拡大で意図しているのは「労働者1人当たりの生産性を向上させる」ことなのだろうが、これによって大きな効果が生まれることはないだろう。人間の能力には限界があるからだ。アメリカ経済、というよりシリコンバレー経済が世界経済を席巻しつつあるのは、そこに優れた技術やアイディアが生まれるような経営が存在し、その利益率が極めて高いからだ。最近の中国企業もその方向にシフトしている。これは生産性向上のために「付加価値を高めた商品を販売する」という手法である。

このことを働き方に置き直せば、決められたことを規則正しく正確に行うルーティン的な仕事ではなく、新しいアイディアやビジネスモデルを生み出す、より創造的な仕事が求められる、ということになる。これには本来の意味での「裁量労働制」という働き方が最も親和性が高いのは論を待たない。

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